長野銃撃事件 4人殺害の被告に死刑判決(補足)

昨日取り上げたように、長野県中野市で4人を殺害した青木政憲被告に対し、長野地裁は死刑判決をん言い渡しています
速報段階の記事をベースにブログに書いてましたので、本日はもう少し詳しく検討してみます
弁護側は2度行われた精神鑑定のうちの1つの鑑定結果を基軸に、犯行時は精神耗弱状態にあったため減刑(死刑を回避して無期懲役に)すべきだと主張してきました
しかし、判決では青木被告の犯行が被害妄想に起因するものであったと認めたものの、最初の犯行で女性2人を殺害する動機の形成に影響を及ぼしたにとどまり、その後の警察官2人を射殺した犯行は妄想に支配された状態ではないと断じ、完全に責任能力があったと認定しています


おととし、長野県中野市で女性2人をナイフで刺し、警察官2人を猟銃で撃つなどしてあわせて4人を殺害した罪に問われた34歳の被告に対し、長野地方裁判所は「4人の尊い命を奪った残虐極まりない犯行で酌量の余地は皆無であり、極めて厳しい非難に値する」と述べ死刑を言い渡しました。
長野県中野市の農業、青木政憲被告(34)は、おととし5月、近くに住む竹内※やす子さん(70)と村上幸枝さん(66)をナイフで刺し、通報を受けて駆けつけた中野警察署の地域課の警部補だった玉井良樹さん(46)と巡査部長だった池内卓夫さん(61)を猟銃で撃つなどしてあわせて4人を殺害したとして殺人などの罪に問われました。
これまでの裁判では被告の刑事責任能力が争点となり、検察は完全責任能力があったとして死刑を求刑したのに対し弁護側は責任能力が著しく弱まった心神こう弱の状態だったとして死刑を回避すべきだと主張していました。
14日、長野地方裁判所で開かれた裁判員裁判で坂田正史裁判長は犯行に至る経緯について「散歩で自宅前を通っていた被害者の女性2人から『ひとりぼっち』と悪口を言われていると妄想を抱き、次第に殺害を考えるようになった」と指摘しました。
そのうえで責任能力については、「妄想は女性2人を殺害する動機の要因となったが、攻撃に及んだ点に直接は影響を与えていない。また、警察官2人の殺害には妄想は影響していなかった。自身の犯行の重大さを正しく認識していて、善悪を判断する能力があり、完全責任能力があった」と認定しました。
そして最後に「4人の尊い命を奪った強固な殺意に基づく残虐極まりない犯行で酌量の余地は皆無であり、極めて厳しい非難に値する。死刑の選択を回避すべき事情を見いだすことができない」と述べ、死刑を言い渡しました。
被告は言い渡しの瞬間、静かに前を向いたまま動かず、動揺した様子はみられませんでした。
遺族席に座った人たちも被告を静かに見ていました。
(NHKの記事から引用)


上記の記事は書かれていない情報を補足すると、最初に検察側が実施した精神鑑定では延べ30時間にも及ぶ面接が実施されていたのに対し、弁護側の請求で実施した精神鑑定では被告との面接が2時間程度に限られていたと判決では指摘し、しかもその鑑定医が被告の母親の主治医である事実も踏まえ中立性に疑問を呈しています。そのため、2度目の精神鑑定で示された「統合失調症の影響で妄想に支配された状態にあった」との主張を退けています
これについては推測でしかありませんが、被告本人との面接では質問を投げかけても明瞭は回答が得られなかったため、鑑定医は本人との面接ではなく母親や父親と面接をし、被告の生活状況や過去の言動、直近の変化などなど聞き取ることを優先した結果ではなかったか、と推測します
心理臨床の場では、あれこれと質問を投げかけても答えが返ってこないのは珍しくありません。沈黙や戸惑い、無言の苛立ち、あるいは言語化できない諦観なども答えなのですが、それを汲み取れるかどうかは面接者の力量です
もちろん、答えがないからと勝手に憶測し、当て推量だけで鑑定意見を書くのはもってのほかであり、本人が語らないのであれば親族から聞き取りをするのも選択肢の1つです。あるいは投影法を用いて描画や箱庭、その他のツールで本人の内にある心象を解釈する選択肢もあります
本件では2度目の精神鑑定が証拠として採用されなかっただけで、鑑定の方法そのものが誤っていると決めつけるのは早計でしょう
人間の精神状態とはどこかに明確な区切りがあったりするものではなく、シームレスに繋がっていると考えられます。よって、2人の女性殺害とその後の警察官殺害で、青木被告の精神状態がすぱっと切り分けられるものとは思えません。さらに青木被告は事前に猟銃所持の許可を得たり鋭利なナイフを購入したりと、相当時間を費やして凶器を準備しており、「自分の悪口を言う奴(誰か)をいつか殺してやろう」との気持ちを長年抱えていたと推察されます。そうした殺害への思いがどこまで正気なのか、どの部分が妄想に支配された結果なのか、切り分けることができるのか大いに疑問です
単純に「すべてが妄想に支配された結果」だと言ってしまえば簡単ですが、青木被告自身、完全に妄想の支配された状態で長年生活していたとも言い切れません。控訴審で「犯行動機について、精神障害の影響がどの程度であったか、十分に検討されていない」として差し戻される場合もあり得るでしょう

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