神戸マンション殺人 性依存症という考え方
今年の8月、神戸市でマンションに侵入し24歳の女性を殺害したとして逮捕された谷本将志容疑者(36)は現在、鑑定留置となっており、12月まで精神鑑定を受ける予定です。場合によっては長引くのかもしれません
関西テレビがニュース番組の特集で、「なぜ見知らぬ女性を執拗に付け回すのか」に着目しレポートしています。文字に起こされた記事から一部を引用します
なぜ「面識のない女性」を執拗に狙うのか?神戸女性刺殺事件容疑者の異常行動と性依存症治療の現場
(前略)
■相談が“増えた”「あいつの考えが俺と同じだ」
なぜ執拗に「面識のない」女性を狙うのか?
その心理を探るべく取材班が向かったのは、横浜市にある精神科のクリニック。
神戸の事件以降、相談に来る患者が“増えた”といいます。
【大石クリニック 大石雅之院長】「先生、『俺、大丈夫と思っていたけど、神戸の事件を見たら俺とそっくりだと分かった』。『あいつ(谷本容疑者)の考えが俺と同じだ』と。急に(タイプの女性を)見つけて追いかけといった行動が『まさに俺とそっくりで、びっくりした。俺とうり二つだ』という人(患者)が何人も来た」
大石院長のもとにはストーカーをやめられない人や、前科のある人が相談に来ます。
その多くは、「面識のある相手」に対する行為で、谷本容疑者のように「面識のない相手」をターゲットにする人は少数。
それがゆえに「特性があまり知られていない」と大石院長は指摘します。
【大石クリニック 大石雅之院長】「一般的にこの(面識がない)タイプは、病気を持っていることがある。性嗜好障害という病気を持っている。この病気は繰り返す(のが特徴)」
性嗜好障害とは、性的行動のコントロールができなくなり、社会生活が破綻したり、犯罪へと結びついたりする症状のこと。性依存症とも呼ばれています。
(以下、略。関西テレビの記事から引用)
大石院長は厳格な診断基準で「性依存症」と判断しているとアピールしているのではなく、性にまつわる制御困難な行動を抱えている人という広い意味で「性依存症」=性嗜好障害と扱っている旨を一般向けとして説明していると思われます
Yahooニュースのコメント欄には、筑波大原田隆之教授は「性依存症」という扱いに疑問を投げかけ、以下のように書き込んでいます
本件のように「面識のない女性」を執拗に追跡・攻撃する行為は、性嗜好障害(paraphilic disorder)ではありません。むしろ、より広い衝動制御の障害として理解する必要があります。また、いわゆる「性依存症」は正式な診断名ではなく、性的刺激や支配的空想によって衝動を制御できず、現実検討や共感性が著しく低下する病理を指す場合を指しますが、まだ正式な診断名として認められていません。こうした行動は、性的欲求よりも「対象化された他者を自分の支配下に置く」ことへの快感や、孤立・劣等感の補償的機制と結びつくことがあります。面識のない相手を狙うのは、実際の関係性を築く不安や拒絶への耐性の低さ、共感性欠如、現実検討力の欠如などの病理が見て取れます。
(Yahooニュース、コメント欄から原田教授の発言を引用)
学術的な定義からすればそうであるとしても、実際の臨床現場では上記の記事にあるような、性にまつわる制御困難な行動を抱えている患者さんたちをまとめて、1つのグループとして集団カウンセリングを実施したり、または個別の働きかけをしているのでしょう
ただ、気になるのは記事から引用した部分では、谷本容疑者の犯行を報道で知り、「自分と同じ考えだ」と相談のため来診された方がいる、とのエピソードです
自分がチェックしている限り、谷本容疑者が女性を付け回した理由、自身の心理について詳細に語ったという報道は現時点でありません。ただ、報道された内容だけで「自分と同じ考えだ」と思い込んでしまっているわけで、そこに危うさを感じてしまいます
谷本容疑者がなぜ女性を付け回すのか、自分の仮説はこのブログで書いていますので繰り返しませんが、そこには谷本容疑者独自の経験(こどものころ両親が離婚し、母親と離れて暮らさざるを得なくなったという事情)が影響していると書きました
このように外見(犯行の形態)は似通っていても、個人が抱える経験には大きな相違があるわけで、その違いを無視して安直に同じだと飛びつくのは危険です
同じことは集団カウンセリングの場でも起こります。誰かの発言に賛同を示すだけでなく、その発言をすっかり自分のものであるかのように取り込んでしまい、思考が限定されてしまうケースです。本来、他人の意見を傾聴し、共感を示すのは重要な情動であり、良しとされるものです
ただ、薬物依存の集団カウンセリングの場などでは、自分の体験や挫折、葛藤などを言語化して表現できないがゆえ、他者の語る体験を簡単に自身の体験であるかのように取り込み、同調してしまい、検討も吟味もしないまま、自身の主張であるかのように振る舞うメンバーがいます。ひどいときはメンバー全員が安直に1つの方向、結論にまとまってしまい、内省が深まらないまま終わってしまう…といった失敗例もあります
あるいは、矯正施設で集団カウンセリングを主導する職員が意図的に1つの方向にまとめようと働きかけ、結果として同様の失敗に至る例もあります。が、職員自身が自分の失敗に気づかず、むしろ話をうまくまとめて1つの結論に到達できたとして、セッションを自画自賛したりするので厄介です。なので、自分は矯正施設で実施されている集団カウンセリングに懐疑的です。実際、集団カウンセリングを担当する職員の技量がバラバラというのも問題です(自分が退職して以降、現場職員が研修を重ね、技量が向上していると思いますが)
集団カウンセリングであれ個別のカウンセリングであれ、他者の話を自身にフィードバックし、内省を深め、自問自答では得られない気づきを獲得する(他者の視点を獲得することで、己の行動を省みる=自身の認知の歪みに気づく)ことが重要です。あくまで自分自身がどうなのか、が重要であり、他者の意見にホイホイと同調するだけでは何ら効果はありません
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