大阪幼児餓死事件を考える13 解離性障害が無視されたのか?

大阪のマンションに幼いこども2人を残した遊び歩き、餓死させたとして起訴された下村早苗受刑者は、懲役30年の判決を受けて服役しています
文春オンライン記事に2月19日、下村受刑者は当時、解離性同一性障害だったが裁判では無視されたとする趣旨の記事が掲載され、その結果、当ブログの記事にもアクセスが急増しました

〈大阪2児餓死事件〉23歳シングルマザー“解離性障害の疑い”は事件の闇に葬られた「死んだ魚のような目になったんです」

下段の(関連記事)に挙げているように、ブログで取り上げるため報道にはこまめに目を通したつもりです
整理すると、事件について報じた記事の中で、コメントを求められた臨床心理士は「演技性パーソナリティ障害」の可能性を指摘していますが、直接問診をしたわけでもなく、あくまで報道されている事件の概要から感じ取った所感としてです
その後、下村受刑者(当時は起訴前で、容疑者の段階ですが)に精神鑑定が行われ、報道として「下村容疑者、多重人格の疑い」と報じられるようになりました
ただ、大阪地検は精神鑑定の結果を受け、刑事責任能力に問題はないとして起訴しています
下村受刑者が犯行時、本当に解離性同一性障害の状態にあったのかどうか、これを確認するのは難しいわけで、何とも言い難いところです
事件では、下村受刑者が6月にこども2人を部屋に残して外出し、7月29日に部屋に戻ってこどもが死んでいるのを発見した、と主張しており、約1月もの間、解離状態が続いていた…という話になります
解離性同一性障害において、解離状態がどれくらい継続するかは個人差があって一概に決めつけられないのですが、約1月という長期間も解離状態が継続するものなのか?
警察の捜査によれば下村受刑者は部屋を出て数日後、一旦帰宅しており、その時点でこどもの死亡を知っていたはずと主張しています
さて、公判の中でどのような弁論が展開されたのか、詳細が掴めないので判決文を下に貼っておきます。判決文の中には弁護側の主張も要約として盛り込まれています

大阪二児遺棄事件判決

精神鑑定の前に弁護側は心理学の大学教授に心理鑑定を依頼し、その結果「被告人は,解離状態をもたらすトラウマ性体験があることから、目前の事柄に意識を集中することによって、自分にとっての否定的な認知、例えば、子供をこのまま放っておいたらどうなるだろう、子供が寂しいかなといった情緒を無意識のうちに、自動的にスイッチが切れるように意識から閉め出し、一種の自己催眠状態になる解離的認知操作という心理的対処の状態にあった」と指摘した上で、「被告人は、過去のネグレクト体験から見捨てられた幼少期の自分の姿を避けるのに必死で、子供達が死ぬことが被告人の中で意識化される状態ではなかった」と結論付け、殺意そのものがなかったとしています
これに対して精神鑑定を担当した医師は、「被告人は、自らの意思で考えないようにしようとしているので、解離ではない。子供がどうなるかを気にするがゆえに、帰らないといけないという気持ちが大きくなったものと理解される。嘘をついているのは、子供のことを何らか認識していたからと思われる。帰らなければいけないという葛藤があったが、考えないようにしたというのは通常の人にあり得る正常な精神活動である」として解離性障害を否定し、その他の精神障害も認められないと結論付けています
以下、判決文では亡くなった2人の幼児の無念さについて多大な同情を綴っており、裁判官の関心が下村被告よりも亡くなった幼児に向いているのが伝わってくる内容です
なお、弁護側は殺人罪は成立せず、それよりも刑罰の軽い保護責任者遺棄致死罪を適用し、懲役15年が相当だと主張しています。弁護側も解離性同一性障害を理由に減刑を求めるのではなく、あくまで殺人罪には当たらないとの論旨で弁論を組み立てていたのでしょう
なお、当ブログで繰り返し書いているように、解離性同一性障害のため心神喪失だったとの主張を日本の刑事裁判では認めず、解離性同一性障害であったとしても一定の刑事責任があるとして有罪判決を下す流れです(ただ、量刑判断において減刑する場合があります)

(関連記事)
大阪幼児餓死事件を考える1 厳しい家庭で育ったはずなのに
大阪幼児餓死事件を考える2 下村容疑者の生い立ち
大阪幼児餓死事件を考える3 こどもを抱えて迷走の果てに
大阪幼児餓死事件を考える4 遊び歩く母親
大阪幼児餓死事件を考える5 起訴前に精神鑑定
大阪幼児餓死事件を考える6 今も父は娘を拒絶
大阪幼児餓死事件を考える7 多重人格の可能性
大阪幼児餓死事件を考える8 多重人格を否定、起訴へ
大阪幼児餓死事件を考える9 下村早苗被告の裁判始まる
大阪幼児餓死事件を考える10 下村被告の実父が証言台に
大阪幼児餓死事件を考える11 中学時代にレイプ被害
大阪幼児餓死事件を考える12 控訴審でも懲役30年
福岡5歳児餓死事件 赤堀被告に懲役15年判決
福岡5歳児餓死事件 赤堀被告が判決前に語る
福岡5歳児餓死事件 赤堀被告と夫の無罪主張
福岡5歳児餓死事件 児童相談所は容態を確認せず
福岡5歳児餓死事件 ママ友による洗脳か