京王線刺傷事件を考える 判決文を再検討
昨日はこの京王線刺傷事件と映画「ジョーカー」を併せて論じた河崎環のコラムを取り上げ、違和感を覚えた点などつらつらと書きました
服部恭太受刑者は控訴せずに1審の懲役23年判決を受けれ、受刑していますので、何をいまさらと思われる方もいるのでしょう。が、このブログは自分の関心事を取り上げるものなので、しつこくこの事件を取り上げ語ります
判決が下された当時は、メディアの報道のみで判決内容を解釈する必要があるのですが、その後、裁判所の判例検索システムに判決文がアップされていました。なので、判決文そのものを再検討してみます(裁判所の判例検索システムは一部の判決文のみを公開しており、すべての判決が閲覧できるわけではありません。また、判決が下されてから判決文がアップされるまで、しばらくタイムラグがあります)
令和4年第244号 殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、現住建造物等放火被告事件
裁判の争点
公開されている判決文はPDFファイルで10ページです。裁判の争点としては、服部受刑者が京王線電車内にライターオイルを撒いて火を付けた犯行にどれだけの殺傷目的(殺人未遂に問えるほどの)があったのか、が中心です
放火の争点についての言及が判決文の3分の1にも及んでおり、逆にその他の争点についてはあまりに簡略過ぎる感があります
精神鑑定の結果
判決文に精神鑑定の報告書は付随しておらず、鑑定結果がどのようなものであったか不明です
ただ、弁護人は服部受刑者のに自閉症スペクトラム障害や回避性パーソナリティー障害の傾向がある点を指摘し、これを情状として酌むよう弁論を展開したようですが、判決文では「精神鑑定を行った医師によれば、被告人にはその傾向があるというのにすぎず、犯行に直接影響を与えてはいないというのであるから、被告人の依存性や顕示性が影響したことは否定しえないものの、それが被告人に対する非難の程度を弱める事情に当たるとは評価できない」と素気なく退けています
また、服部受刑者が被害妄想に悩まされたり、「乗客を殺せ」と天の声から命じられたりしてはいなかったものと推測されます
犯行の計画性
服部受刑者は犯行時、ナイフ1本、ジッポーライター5個、ライター用オイルを入れた2リットルのペットボトルや550ミリリットルのペットボトルなど6本、殺虫剤スプレー6本をリュックサックに入れて所持してました。ナイフも刺突する実験を繰り返し、深く刺さるよう刀身の幅が狭いものを選んでいます
なので決して錯乱状態のまま犯行に及んだのではなく、死刑になるには不特定多数の人間を殺害する必要があると冷徹に計画し、道具を揃え、実行に移したのが伝わってきます
これで殺意がなかったとする弁護人の主張は無理があります。弁護人は殺意があったと断定するには、誰を殺害しようとしたのか、殺意を向けた相手を服部受刑者が特定できていなければならない、と言いたかったのでしょう。漠然と電車内にいた乗客に殺意を向けた…という検察側の言い分は曖昧すぎると
しかし、これも裁判官は退けています(ただし、乗客のうち2名についての殺人未遂は成立しないとして除外する判断を示しています)
結論
判決はあくまで刃物による刺傷行為や放火といった外形的な犯行部分をのみ扱い、服部受刑者の内面には極力触れない扱いとなっています
それが良いのか悪いのか、判断は別れるのでしょう
精神鑑定では精神障害や人格障害を指摘されていませんので、敢えてそこに踏み込まず、殺人未遂が成立するのか、どこまでの範囲を殺人未遂と扱うべきか、法律の解釈と適用にについて判断を示したものです
したがって、昨日取り上げた河崎環のコラムのような、【「京王線のジョーカー」と迷惑系ユーチューバーの共通点】などといった考察もありません
もちろん裁判官の判決文は社会学の論文ではないので、大衆に与えた影響など時勢に即した考察を開陳する必要はなく、単に事実認定と量刑を提示すれば済みます
もちろん裁判官の判決文は社会学の論文ではないので、大衆に与えた影響など時勢に即した考察を開陳する必要はなく、単に事実認定と量刑を提示すれば済みます
ただ、服部受刑者は自身の犯行を迷惑系ユーチューバーと同一視などされたくないはずです
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