聴覚障害児の逸失利益 健常者と同等とする判決

大阪市生野区で7年前、先天性の聴覚障害を有する女児が暴走した重機にはねられ死亡した件で、大阪高裁は将来得られるはずだった収入「逸失利益」について、「当然に減額する程度の労働能力の制限があるとはいえない」とし、障害がないこどもと同じ基準で算定した額の賠償を命じる決定を言い渡しています
1審の大阪地裁は聴覚障害を理由に、「逸失利益」を健常者の85%に減じる判断を示しており、遺族側がこれを不服として争ってきました


2018年2月、大阪・生野区でショベルカーが歩道に突っ込む事故が起き、近くの聴覚支援学校に通っていた井出安優香さん(当時11)が亡くなりました。
遺族は運転手と勤務先の会社に損害賠償を求める訴えを起こし、裁判では、将来得られるはずだった収入にあたる「逸失利益」をどう算定するかが争われました。
1審の大阪地方裁判所はおととし、聴覚障害を理由に全労働者の平均賃金の85%が妥当だと判断し、遺族側が健常者と同じ基準での算定を求めて控訴していました。
20日の判決で大阪高等裁判所の徳岡由美子裁判長は、安優香さんについて「補聴器や手話を使い、学年相応の学力や高いコミュニケーション能力を身につけていた。収入を減額すべき程度に労働能力の制限があるとはいえない」と認定しました。
さらに現在の就労環境について、「デジタル化を中核とする技術の進歩も相まって、聴覚障害者にとって社会的障壁となりうる障害も、ささやかな合理的配慮により職場全体で取り除くことができるようになっている」と指摘しました。
そのうえで「安優香さんは健常者と同じ職場で、同じ勤務条件や労働環境で、同等に働くことが十分可能だった」として、全労働者の平均賃金から減額せずに逸失利益を算定すべきだと判断し、賠償額として4300万円余りの支払いを運転手側に命じました。
弁護団によりますと、障害のある子どもの逸失利益を健常者と同様に算定する司法判断は初めてとみられます。
(NHKの記事から引用)



この事故は大阪府立生野聴覚支援学校前で発生したもので、同校の生徒だった安優香さんが死亡し4人がけがをしたものです。ショベルカーの運転手はてんかん発作による意識喪失と認定され、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などで懲役7年が確定しています。てんかんの持病のある者は持病があると就労先に伝えなければなりませんし、薬の服用も必要です。それによって就労が制限されると不満を述べる者もいます。が、現にてんかん発作によって無関係の人物を巻き込み命を奪うケースが起きているのですから、車や建設車両の運転に従事するのは慎重であるべきです
意識を喪失した運転者の車が歩道に突っ込んでくるという想定しがたい事故の犠牲になり、なおかつ聴覚障害を理由に逸失利益を健常者の85%だと決めつけられるのは二重の被害です。大阪地裁はさまざまなデータを収集した上で、聴覚障害者の賃金水準が低いことを確認し、それを基にして算定するという手順を踏んではいるものの、聴覚障害があっても社会参加し、健常者と同等に稼げる者もいる「可能性」の部分を見落としたとのであり、それが高裁の判断によって修正されたものと受け止めます

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