再審請求中の死刑執行は許容されるのか 判決は5月

確定死刑囚が刑の執行を免れるため、ダメもとで再審請求を申し立てるのは珍しくありません
再審請求していれば、再審を認めるか認めないか、裁判所の判断が確定するまでは死刑の執行がないと信じているからです
しかし、ここ最近ではこうした死刑逃れのための再審請求に批判が高まり、再審を請求中にも死刑が執行されるケースが出てきました
コスモ・リサーチ事件で死刑が確定し、2018年12月に死刑が執行された岡本啓三死刑囚(旧姓、河村)も再審請求中でした。岡本死刑囚の弁護人がこれを問題視し、憲法32条の「裁判を受ける権利」が誤判に対する法的な救済を求める権利を保障していると主張し、再審請求中の死刑執行は憲法に違反するとして国に対し1650万円の賠償を求めた裁判が結審し、今年の5月に判決が示されると報じられています
念の為にコスモ・リサーチ事件について書きます。岡本啓三死刑囚は他の2人と共謀し、大阪の相場師を脅して金を奪う計画を立て、拉致した上で現金約1億円を脅し取ることに成功します。しかし、このまま相場師を帰してしまうと警察沙汰になると考え、絞殺して遺体をコンクリート詰めにし遺棄しました。相場師の部下である社員も併せて殺害しており、岡本死刑囚は一連の犯行を認めています
岡本死刑囚は死刑判決が確定したわけですが、「金を奪うことについては事前に共謀していたが、殺害を思いついたのは後からだった」と主張し、事件は強盗殺人・死体遺棄ではなく、強盗事件と殺人・死体遺棄事件であるとして再審を請求していました。なので、本件は冤罪事件ではなく、一連の犯行をどう解釈し・判断するかという、裁判上のテクニカルな問題です。拉致して脅し、金を奪った後に殺害し遺体を遺棄するまでを1つの犯行としてとらえるのか、金を奪うまでの犯行とその後の殺害と遺体遺棄と別の犯行と解釈するか、です


再審請求中の死刑執行で弁護権を侵害されたなどとして、元死刑囚の弁護人だった3人が国に損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が1日、大阪地裁であった。原告側は、国際条約である自由権規約が「再審請求中に執行されない権利を保障している」と指摘し、日本の死刑の運用は規約違反にあたると主張した。
訴状によると、原告の弁護士3人は、2018年12月に死刑が執行された元暴力団幹部、岡本(旧姓・河村)啓三元死刑囚の再審請求の弁護人を務めていた。岡本元死刑囚は1988年、大阪府内で2人を殺害し、約1億円を奪った強盗殺人などの罪で、2004年に死刑が確定した。
原告側は、自由権規約が死刑囚に対し、減刑などを求める権利を認めていると指摘。19年には国連自由権規約委員会が規約の締約国に向け、「結論が下される前に執行されないことを保障しなければならない」との意見を出したとも主張した。
一方、国側は、自由権規約には再審請求が含まれていないと反論し、規約や意見には法的拘束力がなく「応じなくても違法とはいえない」として、請求の棄却を求めている。
この国側の反論に対し原告側は、国際人権法が専門の北村泰三・中央大名誉教授の意見書を提出。北村氏は「規約の条文は死刑判決を見直す手続き一般を例示したもので、日本の再審請求を含む」「委員会の意見に法的拘束力がなくても、最大限尊重する義務がある」と指摘した。
(朝日新聞の記事から引用)


過去にはオウム真理教関係者がまとめて死刑を執行された際、再審請求中の死刑囚も含まれており問題視されました。法務省の立場としては麻原彰晃を始めとして、オウム真理教幹部をまとめて執行しないとダメ、との考えがあったのでしょう。再審請求中だからといって執行を見送れば、信者によって死刑囚が奪還されたり、教団による宣伝工作に利用されたりと、好ましからざる事態が起こる懸念があったからです
本件の場合は、事件を起こした岡本死刑囚と末森博也死刑囚の同時執行に法務省が執着し、岡本死刑囚が再審請求中だからといって執行を見送る判断はなかったと思われます
さて、記事の方は国際条約に準じる自由権規約と国内法のどちらが優先するか、という話です
日本の場合、国際条約と国内法のどちらを優先させるか、憲法に明確な規定はありません(国によっては憲法で明確に規定しているところもあります)。学説としては国際条約を国内法より優先させるべき、との考えが一般的です
ただ、再審請求から再審実施に関する国内法が未整備であるため、あれこれ揉めるのは今に始まったことではありません。袴田事件の再審を巡ってもあれこれ言われたところです
ただし、裁判官も検察官も再審には極めて消極的であるため(過去の裁判をやり直し、判決をひっくり返すのを裁判官も検察官も反対)、再審実施のための法整備がまったく進まないのが実情です

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