「日本アニメの没落」と書く韓国メディア

新年早々、韓国の左翼系メディア「ハンギョレ新聞」が日本アニメは没落の一途にある、と記事にしています。ともかく現状をありのままに受け入れたくないのでしょう。あれやこれやの数字を並べ、日本のアニメは没落の途上にあると指摘したいだけ、の記事です
昨年、日本のアニメーション作品とその関連分野は史上最高の売上を記録しています。さらにテレビアニメでは、中堅どころの監督が意欲的な作品をいくつも手掛けており、この先が楽しみです
また、アニメーション作品と密接な関係をマンガの世界においても、注目すべき新人が台頭しており、日本のコンテンツ産業の層の厚さについてはいまさら言うまでもない状況です
もちろん不安材料が皆無ではなく、相変わらず業界は構造的な問題を抱えたままであり、アニメーターの長時間・低賃金労働は未解決のままです。ただし、自分は業界関係者ではありませんので、その点については語らないでおきます
前置きが長くなりました。では、ハンギョレ新聞の記事から一部を引用します


「スラムダンク」から変わらず数十年、日本アニメの没落
世界市場で韓国を代表するコンテンツ産業がドラマやK-POPだとすれば、日本を代表するコンテンツ産業は、誰がなんと言ってもアニメだ。日本の商業アニメーションの歴史は何と100年を超える。1917年に『芋川椋三玄関番の巻』という作品が製作されて以来、日本は世界市場で商業アニメーション大国と認識され続けてきた。
日本アニメの市場規模は全世界の市場の60%で、世界1位だ。年間2兆7000億円の規模は韓国のゲーム産業に匹敵する。しかし、日本のコンテンツ市場の核心的な産業に位置するアニメ産業は、徐々に老いつつある。業界従事者だけでなく、中核となる消費層も一緒に老いている。
(中略)
かつてはアニメが好きな若者たちに夢の職場とみなされたアニメスタジオは、いまでは青年たちが忌避する代表的なブラック企業になった。月平均219時間で一般の会社員より30%も長く仕事をしながらも、最低賃金にも満たない給与しか得られないところを、誰が気楽に志願するだろうか。
統計はこのような現実を赤裸々に示している。4年目までに25%が退社し、8年目になると68%が業界を離れる。2023年時点での業界従事者の平均年齢は42.7歳だ。10年前より7歳上昇した。若い血が輸血されない産業の悲しい自画像だ。
■過去の光栄にだけ期待する現実
さらに大きな問題は新鮮さの枯渇だ。2023年の日本国内での興行上位のアニメ10作品のうち7作品が、1980~1990年代の作品のリメイクだった。制作されてから数十年が経過した『スラムダンク』や『名探偵コナン』『ドラえもん』のような作品の興行が、喜ばしいながらも苦々しい理由だ。現在の日本アニメ業界には、新しい試みよりも検証済みのIPのリサイクルが蔓延している。30年前の作品のノスタルジーを売ることが最も安全な選択になったのだ。
なぜこのような選択をしたのだろうか。答えは意外なことに単純だ。過去のファンたちが現在の最強の消費者になったためだ。1980~1990年代にアニメをみて育ったX世代とオールド・ミレニアム世代は、今では安定した購買力を持つ40~50代になった。業界のこのような選択は、一見すると合理的に思える。実際、2023年に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』は全世界での興行収入が2億7000万ドル(約430億円)を記録し、『ONE PIECE FILM RED』は1億8000万ドル(約280億円)の収益を上げた。このように製作費の回収が確実な検証済みのIPに寄り添うことは、不確実性が高いコンテンツ産業としては、当然の選択であるかのようにみえる。
しかし、これは結果的には創作の悪循環を生んだ。新たなIP開発に対する投資は徐々に減り、若い創作者の挑戦の機会も減少した。日本アニメーション協会の資料によると、2023年の日本のアニメ業界の新規IPへの開発投資額は、10年前の半分の水準にまで低下した。
特に懸念されるのは、リメイクや続編が原作のオーラにだけ依存する傾向だ。一部の専門家は、過去の作品の外皮を借用するだけで、当時の作品が持っていた時代精神や挑戦精神は消えたと、乱立するリメイクの問題点を指摘する。
実際、1980~1990年代に日本アニメの黄金期を牽引した作品は、当時としては破格的な試みだった。『AKIRA』はサイバーパンクという新ジャンルを切り開き、『新世紀エヴァンゲリオン』は既存のロボットアニメの文法を完全にひっくり返した。日本アニメ界の巨匠宮崎駿が率いる「スタジオジブリ」の作品は、環境、戦争、成長という普遍的なテーマをアニメに昇華させた。
反面、最近のリメイク作品は過度に安全な選択に固執する。原作の人気シーンを派手なグラフィックで再現し、ノスタルジーを刺激することに重点を置くだけで、新たな解釈や挑戦は見出しがたい。さらに大きな問題は、このような戦略が新世代の共感を得ることができないという点だ。
(以下、略)


日本アニメはリメイクに続編だらけ?
「リメイクや続編が原作のオーラにだけ依存する傾向だ」などと指摘していますが、どもにも目の付けどころがズレているように思えてなりません
庵野秀明による劇場版のエヴァンゲリオンシリーズは完全に新作、と呼べるほど大胆に描き直しがされ、おそらくアニメファンの中でそれを「リメイクや続編が原作のオーラに依存している」などと腐す者は極少数でしょう。むしろ、制作時間や予算の制約から不満の残ったTVシリーズを、ここまで作品として進化・昇華させた庵野秀明の剛腕に感嘆します
また、「THE FIRST SLAM DUNK」も単なるリメイクでもなく、続編でもなく、ファンが長年待ち望んでいた「山王戦」の劇場版アニメ化として、アニメファンに迎えられたのは言うまでもない現象です
また、劇場版の「名探偵コナンシリーズ」は興行成績を着実に残しており、作品のクオリティの高さ、観客の期待に応えるだけのストーリー、構成を維持し続けているのは特筆に値するでしょう。こうしたドル箱シリーズと呼べる作品が韓国の劇場版アニメには1編もありません
Z世代がどうした?
自分はこの手の世代論が大嫌いで、であるからこそ「Z世代がどうしたって?」と言い返してしまいます。多くのアニメーション作家たちは世界一の審美眼を有するアニメファン(ハンギョレ新聞的にはオールド世代)に向けて作品を送り出しているのであり、Z世代と称されるおこちゃまたちを相手にしているわけではありません。あと10年もすればおこちゃまたちも成長して審美眼が身につき、口うるさくなのでしょう
なので、Z世代と呼ばれる若年層を相手にした作品を提供する必要などない、と考えます
ここ最近、当ブログで取り上げてきた「その着せ替え人形は恋をする」とか、「ブルーピリオド」といった作品を観れば、日本のアニメが没落しているなどという認識が、いかにズレたものであるか判るはずです。もちろん、こうした作品が劇場版として100億円を超える興行成績を挙げたりはしません。が、世界でこれだけの作品を作れるのは唯一、日本だけだと示すマイルストーンです
それが理解できないのであればアニメを語るだけの審美眼が欠けている証拠です(中国や韓国のメディアが掲載するこの手の記事は、記者なり外部の評論家なりが書いているわけですが、いずれもレベルが低く金の話ばかりで、およそ審美眼が備わっているとは思えません)
むしろ、ハンギョレ新聞は1980年から90年代の日本アニメにいまだに追いつけない、自国(韓国)アニメの心配をした方がよいのではないか、と言いたくなります
言うまでもなく、日本のアニメ産業が衰退したとしても、韓国アニメが世界的な人気を得られるはずはありません。日本アニメという巨大な船が沈む時が来れば、韓国アニメ産業も飲み込まれ没落するのですから

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