線路に女性突き落とした男 懲役14年判決

今年の1月、東京のJR品川駅で面識のない女性を後ろから線路上に突き落としたとして、殺人未遂罪で起訴された男に東京地裁は懲役14年の判決を言い渡しています(求刑は懲役15年)
列車は急ブレーキをかけたため、女性は轢かれずに済んだのですが重傷です。なおかつ、相当に怖い思いをしたはずです。殺人罪でも懲役15年程度の判決で済む場合がありますから、殺人未遂で懲役14年というのはかなり重い判決です
ただ、判決を受けた太田周作被告(40)は15年前にも同様にホームから線路に女性を突き落とした前科があり、殺人未遂で懲役9年の判決を受け服役していたという事情があります
求刑公判と判決公判を報じた記事の2つを貼ります


法廷では、被告が約15年前にも同様の事件を起こしていたことが明かされた。
冒頭陳述などによると、被告は平成21年3月、JR東京駅で面識のない女性を線路に突き落とし、停止間際の電車に接触し負傷させたとして逮捕された。調べに対し「死刑になりたかった」と供述。殺人未遂罪などに問われ、懲役9年の実刑判決を受けた。
刑期を終えて出所したのは30年11月。軽度の自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されていた被告は、実家のある大阪府内で、障害者用のグループホームで生活しながら、障害者を雇用する福祉事業所で働き始めた。
(中略。福祉事業所の職員と衝突し、欠勤続きから退職の経緯を説明)
被告人質問によると「両親に迷惑をかけたくない」と実家から遠い仙台での犯行を計画。翌6日午前、新幹線に乗ったが「人を殺したい気持ちが抑えられず」品川駅で下車して在来線のホームに移動し、面識のない女性の背中を両手で押した。
事件はすぐに報じられた。ニュースを見た父親は、犯人の実名は出ていなかったものの、居住地と39歳という年齢で、息子の犯行だと確信したという。
12月17日の論告求刑公判で検察側は、前回の判決と同じ懲役9年では「更生するに不十分」として懲役15年を求刑。これに対し弁護側は、責任能力については争わないものの、犯行に自閉症の影響があるとして寛大な判決を求めた。
(産経新聞の記事から引用)

今年1月、JR品川駅(東京都港区)のホームで女性を線路上に突き落としたとして、殺人未遂罪などに問われた太田周作被告(40)の裁判員裁判の判決公判が24日、東京地裁で開かれ、中尾佳久裁判長は「短絡的で身勝手な動機に酌量すべき点はない」として、懲役14年(求刑同15年)を言い渡した。
被告は以前にも別の女性をホームから突き落とす同様の殺人未遂事件を起こし、懲役9年の判決を受け服役。出所後約5年で再び犯行に及んだことについて、中尾裁判長は「生命軽視の姿勢は顕著で、強い非難に値する」と指摘した。
判決によると、被告は軽度の自閉症スペクトラム障害(ASD)に罹患。判決は、こらえ性がない性格も犯行の一因だったとした上で「障害が遠因となったことは否めないが、直接影響したわけではない」とした。
中尾裁判長は判決言い渡し後、被告に「今後もしんどいと感じることがあるかもしれないが、二度と人を傷つけることはしないという決意を持ってほしい」と説諭した。
判決によると、1月6日午後1時半ごろ、品川駅のホームで電車を待っていた60代女性を背後から突き落とし、重傷を負わせた。
(産経新聞の記事から引用)


太田被告が自閉スペクトラム症(これは自閉症、アスペルガー障害、広汎性発達障害など発達障害全般を指す概念です)との診断を受けたのがいつの時点であるのか、はっきりしません。なので、太田被告個人についてではなく、一般論として書きます
多くの場合、幼稚園児や保育園児の頃に発達に問題があるのではないか、と指摘されます。あるいは小学校入学前の検診で指摘を受け、普通学級より特別支援学級を勧められる場合があります
ただ、保護者によっては、「普通学級で皆と一緒に学校生活を送らせたい」と特別支援学級を拒否するケースもあります。親としては「皆と一緒の方が本人も刺激になり、発達の遅れを取り戻せるのではないか」と期待したり、「うちのこどももやればできるはず」と学校側の勧めを拒絶するわけですが、それが本人にとってプラスになるとは限りません。発達の程度に応じた養育を受ける機会を逃してしまい、教室でポツンと孤立したまま6年間を過ごす結果になるおそれもあります
自閉スペクトラム症のさまざまな問題行動が改善されないまま中学校に進学しても、そこで急速に改善するはずもなく、中学3年間を孤立してすごしたり、いじめやからかいの対象になって苦い思いをするだけだったりします
太田被告の場合はどうだったのでしょうか?
記事のニュアンスからすると、最初の事件を起こして刑事裁判になった際、精神鑑定を受けて自閉スペクトラム症だと診断が出されたように感じられます。「軽度の」ありますから、親御さんも息子の障害に気がつかないままだったのかもしれません。となれば、太田被告は小学校や中学校でも普通学級で過ごし、学校不適応が目立っていたのに適切な養育を受けられないまま大人になってしまった、と考えられます(これは推測に過ぎません)
小学校から中学校までの9年間で大声を出さないとか、モノに当たらないとか、自分の行動を抑制する訓練を重ね、ある程度統制の取れた自律的な行動ができるようになるケースもあります。もちろん、個人差があるわけですが
逆にこの9年間を無為に過ごしてしまうと、大人になってから訓練をするのが大変です
なので、親が世間体を気にしたり、将来を案じて「最低でも高校は卒業させたいから普通学級で」と執着すれば、かえってこどもの将来を閉ざす結果になると頭に入れておく必要があります

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