「紀州のドン・ファン」 無罪判決は疑問だらけ
須藤被告に対し和歌山地裁は無罪判決を言い渡しています。この判決について、元検察官や弁護士、ジャーナリストがあれこれ論評しています
そうした論評やメディアの記事など読んで自分が判決について疑問と思う点を書きます
まずは産経新聞の記事を貼ります
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん=当時(77)=に致死量の覚醒剤を飲ませて殺害したとして殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)に無罪を言い渡した12日の和歌山地裁判決。福島恵子裁判長は「初めて覚醒剤を使用する野崎さんが、誤って致死量を摂取した可能性を完全に否定することはできない」と述べた。
これまでの公判では、野崎さんの知人女性が死亡の約1カ月前、野崎さんから電話で「覚醒剤やってるで」と言われたと証言。知人女性は冗談だと受け取り、死後の捜査でも野崎さんが覚醒剤を常習していた痕跡はなかった。
ただ地裁は、人脈が広く、経済力もある野崎さんが覚醒剤を入手することが不可能ではなく、野崎さんの発言が全くの噓だとは言い切れないと判断。野崎さんが知人女性への発言当時、覚醒剤の入手を依頼したり、実際に入手したりしていた可能性は残るとした。
元妻は初公判で「私は殺していません」と全面的に否認。被告人質問では、野崎さんの死亡前月に薬物の密売人と接触したことは認めつつ、「野崎さんから覚醒剤の購入を依頼された」とし、自殺や誤飲の可能性に言及していた。また、弁護側は仮にカプセルで致死量の覚醒剤を飲ませようとすれば最大で約30個必要で、「本人の意思に反して摂取させるのは極めて困難」と事件性に懐疑的な見方を示していた。
これに対し、検察側は論告で、元妻が「老人 完全犯罪」などと検索し、野崎さんが覚醒剤を摂取したとされる3時間余りは自宅に2人きりだったと指摘。野崎さんは死んだ愛犬のお別れ会を死亡翌月に予定し、現場周辺で覚醒剤の容器なども見つかっておらず、自殺や誤飲の可能性を否定していた。
(産経新聞の記事から引用)
福島恵子裁判長は「初めて覚醒剤を使用する野崎さんが、誤って致死量を摂取した可能性を完全に否定することはできない」と指摘しています。が、野崎氏が「覚醒剤を使用するのが初めて」という前提は裁判長の空想にすぎず、根拠はありません。何を証拠にそう決めつけているのか謎です。家政婦さんや知人女性の証言するところの「野崎氏これまで覚醒剤を使ったのは見たこともなく、聞いたこともない」との話からそう推論しているだけです。そもそも人前で覚醒剤を使用したりしませんし、覚醒剤を使っているとベラベラしゃべったりもしないはずです
もちろん、自分は野崎氏が覚醒剤を常用していたなどとは考えておらず、裁判長の「初めてだったから誤飲した説」が根拠希薄だと言いたいだけです
判決文から離れますが、弁護側の「致死量を接種するにはカプセルで30個必要」との言い分も謎です。なぜカプセルに入れて服用する必要があると考えるのか。当然、大量のカプセルを服用するのが不可能ですから、そう印象付けるための比喩なのでしょう。ただ、3グラムないし4グラムの覚醒剤をオブラートに包みビールと一緒に飲むのは何ら困難ではなく、容易です。弁護側はなぜ、覚醒剤を直接ビールとともに飲むという簡単な方法を例に挙げず、わざわざ服用が困難な「カプセル30個」と荒唐無稽な話を持ち出したのか。裁判官や裁判員をミスリードする狙いがあったものと考えられます
また、公判の初めに須藤被告は「野崎氏を殺害していないし、覚醒剤のことも知らない」と述べ無罪を主張しています
しかし、公判の中で須藤被告のバッグなどから覚醒剤の粉末(微量)が検出されたと指摘されるや、「野崎氏から覚醒剤を買ってきてほしいと依頼され、20万円を受け取った」と従来の主張とは異なる話を始めました
裁判で証人は「良心に従い真実を述べます」と宣誓した上で証言し、偽証すれば処罰されます。しかし、被告はどれだけ嘘をついても処罰は受けません。殺人犯であっても裁判では「自分は殺していない」と嘘をつくことが許容されています(結果として有罪判決を受けるだけで)
須藤被告も同じく、公判でどれだけ嘘をついてもよいのです。つまり彼女の主張にどれだけ真実が含まれているのか、大いに疑問なのです
さて、須藤被告が覚醒剤を購入したと推測される日、売人が覚醒を須藤被告に売ったと証言している日ですが、須藤被告はATMで10万円を引き出した記録が残っており、覚醒剤の購入代金だろうと検察側は主張しています
しかし、裁判官は須藤被告が後になって言い出した、「野崎氏から覚醒剤を買ってきてくれ、と頼まれ20万円を受け取った」という話の方を採用し、野崎氏による覚醒剤誤飲説を唱えているわけで、明らかにおかしな判断です。野崎氏が須藤被告に現金20万円を渡したという証拠は何もないのに、です。他方で、検察側には須藤被告がATMで自分の口座から10万円を引き出した記録が残っているのに、なぜそちらを信用しないのか?
他にも判決の内容におかしな点はいくつもあるのですが、長くなりましたので区切りとします
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