「紀州のドン・ファン」 須藤被告に無罪判決

和歌山地裁は須藤被告に無罪判決を言い渡しています
無期懲役を求刑していた和歌山地検は数多くの証人を立たせ、物証も挙げ、十分な立証をしたと考えていたはずですから、「無罪」と聞いて愕然としたのではないでしょうか?
判決の詳細はまだ十分に確認できないものの、報じられている限りは「一点でも疑わしい点があるなら無罪とすべし」との法理そのままの判決ではないか、と感じます
それだけに裁判官の判断にあれこれ疑問が湧きそうです。まずは無罪判決を報じた記事を引用します


「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)が2018年に急死した事件で、殺人などの罪に問われた元妻の須藤早貴被告(28)に対する裁判員裁判の判決公判が12日、和歌山地裁であった。福島恵子裁判長は、「初めて覚醒剤を摂取した被害者が、誤って致死量を摂取した可能性がないとは言い切れない」として、元妻が殺害したとする検察側の主張に対し、「犯罪の証明がない」として無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。
野崎さんは2018年5月24日、自宅2階の寝室で亡くなっているのが見つかった。元妻とは、その約3カ月前に結婚していた。
元妻は、野崎さんに致死量の覚醒剤を摂取させ殺害したとして21年に起訴されたが、犯行を結びつける直接証拠はなく、一貫して無罪を主張していた。
検察側は公判で、野崎さんが死亡したとされる3時間余りの時間帯に、自宅にいたのは元妻と野崎さんの2人だけで、覚醒剤を摂取させて殺害できるのは元妻しかいなかった、と主張した。
また、元妻は当時、野崎さんから離婚を迫られており、莫大(ばくだい)な遺産を得るために殺害するという動機もあったと指摘。結婚したその月から、インターネットで《老人 完全犯罪》《覚醒剤 死亡》などと検索しており、元妻が証拠を残さない「完全犯罪」を計画的に実行して殺害し、遺産の一部を手にしたと訴えていた。
判決は、「(元妻には)被害者の死亡によって多額の遺産を相続できるという事情があるが、そのことで直ちに殺害が強く推認されるものではない」と言及。検索履歴についても「殺害を計画していなければありえないものとはいえない。検索は、殺害したと推認される行動とはいえない」と述べた。
(以下、略。朝日新聞の記事から引用)


この記事だけでもツッコミどころがあります。最近の刑事裁判では、被告が事前に殺害方法や証拠隠滅方法をインターネットで検索していた事実をとらえて、「犯行を計画していた証拠」と認定し、有罪判断の根拠としてきました
和歌山地裁の判断をこれを真っ向から否定するものであり、他の裁判官もこの判断には首を傾げるでしょう
須藤被告が殺害方法をあれこれ調べていたのは明白な事実であり、にもかかわらず「検索は、殺害したと推認される行動とはいえない」と判断する根拠があまりに脆弱です。無罪判決ありきで「証拠とは認めない」とこじつけているとしか思えません
他にも「野崎氏が自ら誤って致死量の覚醒剤を誤飲した可能性が否定できない」という、無罪判決の根拠も随分とおかしなものです
それは裁判官の個人的な推論に過ぎず、何らかの具体的な証拠に基づく判断ではありません。いわば裁判官の想像です
検察側の立証や証言を片っ端から否定し、裁判官の個人的な想像だけで無罪判決を下している(本件は裁判員裁判なのですが、裁判員たちはこの判決に納得できたのか、大いに疑問です)ように映ります
さて、判決には他にも数々のツッコミどころがありますので、後日取り上げます
和歌山地検は控訴し、高裁の判断をあおぐのでしょう。大阪高裁はおそらく、「1審の判断は審議を十分に尽くしたとはいえない」として差し戻し決定をするのではないか、と想像します
なお、Yahooニュースのコメント欄に、「検察の人に3グラムの覚醒剤を渡してこれで計画的な殺人を行えるのか聞いて見たいですね。そんな簡単な方法があるなら過去に同様な事件はたくさんあったはずですよ」との書き込みがありました
どのような意図で書き込んだのか不明ですが、覚醒剤(メタフェタミン)の致死量というのは個人差が大きく、1グラムの摂取で死亡したケースもありますし、5グラムの摂取で死亡したケースもあるそうです。小柄で高齢な野崎氏であれば3グラムで死亡する可能性は十分に考えられるでしょう。加えて、過去に覚醒剤を使用した殺人事件の例が多くないのは、覚醒剤が簡単に入手できない薬物であり、かつ高価であるのが原因です。覚醒剤よりもっと安価で簡単に入手できる薬物、薬品で犯行が可能なら、そちらを選ぶのは当然です

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