浜松一家殺害事件 解離性同一性障害の扱いは
山田悠太郎被告は祖父母と実兄の3人を殺害しており、判決は来年1月15日に言い渡されます
それまで間がありますので、判決時に書こうと思っていたことなどや、公判にまつわる報道で判明したことなど、書いておきます
まず犯行の態様ですが、山田被告は被害者をそれぞれ結束バンドで拘束した上、ハンマーで頭を滅多打ちし殺害していると報じた記事がありました
これは寝ているところを不意打ちして殺害したとかではなく、脅して結束バンドを使い拘束し、身動きを封じた上でおそらくは過去の恨みつらみを被害者にぶつけ、それからハンマーで殴打したものと推測されます。決して衝動的な殺人などではなく、事前に結束バンドを用意するなど計画的な犯行で、明確な殺意が感じられます
そして山田被告の精神鑑定について、地元メディアが記事にしていますので一部を引用します
精神鑑定をした2人の医師の見解も分かれています。1回目の鑑定をした浜松医科大学の和久田智靖医師は「解離性同一症の影響で、被告がボウイの犯行を制御することは不可能だった」と説明。これに対し、2回目の鑑定をした東京科学大学の岡田幸之医師は「解離性同一症ではあるが、虚偽や誇張が含まれている可能性があり、被告本人の思考で犯行に及んだ」と指摘しています。
(静岡第一テレビの記事から引用)
専門医2人の精神鑑定については、別人格の存在を巡って対立。検察側は「あくまで一個の人間」との見方を採用し、弁護側証人の医師の認識を「SF、オカルト的で現在の精神医学界の主流に反する」と切り捨てた。弁護側は「ボウイによる犯行とみるのが整合的」との意見を取り入れ、検察側証人の医師の鑑定を「前提条件に問題があり、公正さを欠くため信用できない」とした。
(静岡新聞の記事から引用)
検察は、この『別人格』は、1人の人間をつくる1つの側面に過ぎないという考え方です。さらに、当時の被告の状態を考えると「別人格」はコントロールできたとして、被告に責任能力は問えるとし無期懲役を求めました。
一方の弁護側は、『別人格』は主人格とは明らかに異なるアイデンティティであって、独立した別人だと主張。3人を殺害したのは、被告ではなく「別人格」であり、被告は無罪であると訴えました。
(静岡放送の記事から引用)
検察は岡田鑑定を採用し、山田被告が解離性同一性障害ではあっても、ボウイという人格も山田被告の人格の1側面であると解釈し、刑事責任を問うべきとの判断です
ただし、解離性同一性障害発症は幼少期からの虐待が原因であるから、本来は死刑を求刑すべきところ事情(本人ではどうしようもない環境的な負因)を斟酌無期懲役を求刑したものです
従来の刑事裁判において解離性同一性障害に対する解釈、扱いとしてはほぼ標準となっている解釈です
対して弁護側は和久田判定を採用し、別人格に支配され山田被告本人の意志では抵抗できない状態にあったとの弁論を組み立て、心神喪失状態にあったものと判断して無罪とすべき、との主張です。ボウイが本人と異なる、独自のアイデンティティを持つ独立した人格と考える根拠がどこにあるのか、和久田判定の中身を承知していないので不明です
1人の人間の中に降って湧いたかのように別人の人格が宿るというのは、多重人格障害と呼ばれていた頃(1990年代)の古い考え方のようにも感じられます。ただ、和久田鑑定の中に、何らかの裏付けや判断材料が示されているのでしょう
検察側の主張の中には、「山田被告が解離性同一性障害であることにかこつけ、不都合なことはボウイのせいにして罪を免れようとしている」と指摘している部分もあり、山田被告なりの計算があってそうした供述をしてきたと検察は感じ取っているのでしょう
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