中国 「日本アニメの成功から学べ」
中国メディアには繰り返し、「日本アニメの成功から学べ」といった趣旨の記事が登場します。過去にも、当ブログでいくつか取り上げました
しかし、この手の記事は「手っ取り早く成功のノウハウを盗め」との意図で書かれたものであったりします。いわゆる「成功の方程式」論です。成功の方程式を解き明かせば、誰でも成功を手にできるはず…と考えたがる「おバカな人」向けの与太話です
時には、アニメーション制作の根底まで掘り下げ、脚本や演出の専門的な人材を育成すべきだ、との建設的な意見も目にしますが、それができないからこそ中国アニメや韓国アニメはいつまで経っても日本に追いつけないのです
レコードチャイナがまた「日本アニメの成功要因を振り返り、中国アニメがどのようにして発展できるか」検討したとの記事を掲載していますので、紹介します
以下、元記事は赤字で表示し、自分のコメントは黒字で表示します
2024年9月2日、中国のポータルサイト・捜狐に、日本アニメの成功要因を振り返り、中国アニメがどのようにして発展できるかを分析した記事が掲載された。
記事はまず、「世界最大のアニメ輸出国である日本は『アニメ王国』として知られ、『鉄腕アトム』『花の子ルンルン』『NARUTO-ナルト-』『ウルトラマン』『聖闘士星矢』『ドラえもん』『名探偵コナン』『ハローキティ』など、多くの名作を生み出してきた。グローバル化が進む中で、日本アニメは強力な存在感で世界市場を席巻し、日本文化を広め、日本の国際的影響力を示している」と述べた。
そして、「先月29日時点で、『名探偵コナン』の最新劇場版シリーズ『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の中国での興行収入が2億2500万元(約45億円)を突破。宮崎駿監督の最新長編映画『君たちはどう生きるか』は7億9100万元(約160億円)を超える興行収入を記録している。中国の映画市場全体が低迷する中で、これらの成績は非常に輝かしいものだ。日本アニメは長い歴史を持ち、今やその文化的影響力や経済的価値は、日本の国家イメージの象徴となっている。これに対して、後発の中国アニメは、日本からどのような教訓を学べるのだろうか?」と問いかけた。
まず、ヒット作品にばかり注目し、そこからノウハウを得ようとする時点で見識を欠いていると言うしかありません
「名探偵コナン」やその他の作品も、マンガとして長く親しまれてきた背景があり、原作のファン層が形成された上にアニメ化の成功があります。また、最近ではライトノベルからアニメ化、という作品も増えており、これも幅広いライトノベル愛読者層があっての話です
記事は、陳奇佳(チェン・チージア)教授の著書「日本アニメ芸術概論」(上海交通大学出版社、2006年3月)に基づいて日本アニメの歴史を6つの時期に分け、「1917~45年、日本アニメは米国など西洋アニメの影響を強く受けた。
(中略)
また、「90~2000年に入ると、日本アニメは『オタク』文化が浮上したり、一部で批判されたりしたものの、依然として『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』、『美少女戦士セーラームーン』や『スラムダンク』、『新世紀エヴァンゲリオン』などの作品が人気を博した。01年以降は、 新世紀の幕開けとともに、宮崎監督の『千と千尋の神隠し』が世界的な評価を受けた一方で、ソニーや任天堂などの企業がアニメ業界に参入し、資本主導の制作の増加や題材の停滞、創作の俗化が課題となった。しかしその後は、新海誠監督や今敏監督など、新たなクリエイターが登場し、日本アニメに新たな可能性をもたらしている。総じて言えば、日本アニメは100年の歴史を通じて、多くの危機を経験しながらも、新たなクリエイターが絶えず登場し、常に革新を続けているのだ」と評した。
「新たなクリエイターの登場」と簡単に表現されていますが、いくつかのアニメスタジオが積極的に新人を登用し、作画や脚本、演出を任せる試みを経て、人材を供給してきた側面をきちんと押さえてほしいものです
新たなクリエイターがキノコみたいに自然発生したのではなく、育てる営為があってこそです
その上で、「中国と日本のアニメ産業の発展にはいくつかの違いがある」と言及。「日本では、『ドラえもん』や『名探偵コナン』のように、キャラクターを中心としたIP(知的財産)を育てて世界観を広げる。一方、中国アニメは『封神演義』や『西遊記』など、伝統的な神話を基にキャラクターを作り上げることが多い。また、 日本アニメは普遍的なテーマを扱い、世界的に受け入れられる作品が多いのに対し、中国アニメは民族的な要素に強く依存しているため、国際市場での競争力を制限されてしまう傾向がある」と論じた。
さらに、「日本アニメは個人や小規模スタジオが主導で制作するため、作品には一貫したブランド力があるが、中国のアニメは主に大企業による集団制作が中心であり、個々の監督のスタイルは薄れ、作品の識別性が低くなる傾向がある。また、日本では比較的自由な制作環境が整っているが、中国では一部の厳しい規制によってクリエイティビティーの制限がある」とも言及した。
この表現は見当違いでしょう。中国アニメは独自の魅力的なキャラクターを生み出せないがゆえ、「西遊記」や「封神演義」といった古典に題材を求めているのが実際です
マンガやライトノベルの豊富な蓄積がある日本では、いかに魅力的なキャラクターを生み出すかが創作の出発点であり、必要条件です。それをマンガで表現する選択肢もあれば、ライトノベルで表現する選択肢もあります。逆に言うなら、魅力的なキャラクターを生み出せなければ商業作品としてのマンガにもライトノベルにもならないのです
「日本アニメは個人や小規模スタジオが主導…一貫したブランド力がある」との指摘も事実誤認でしょう。作品の命は視聴者が支持する作品のキャラクターたちであり、それを無視すれば視聴者からそっぽを向かれます。なので、キャラクターのイメージを大切にします。事実、声優が交代しただけで大騒ぎになったり、視聴者離れが起きたりします
中国アニメがどこまでキャラクターを大切にしているのか、自分はそこまで詳しくはないので、言及しません
そして、「日本アニメの成功の鍵は、新しいクリエイターが絶えず登場し、革新を続けている点だ。中国アニメもまた、創造的な才能を持つクリエイターを育成するほか、個々のスタジオやクリエイターが中心となる制作形式を取り入れることで、作品の識別性とブランド力を高めることが求められるだろう。多様な題材を扱い、民族的な題材にとどまらず、国際市場での競争力と存在感を強化することも重要だ。今後、日本アニメの成功要因を取り入れながら、中国アニメが独自の発展を遂げ、世界市場での地位を確立することが期待される」と結んだ。
(レコードチャイナの記事から引用)
西遊記を題材としたアニメが1本ヒットすると、1年あまりで20本以上も西遊記をベースにしたアニメ作品が作られる…というのが中国です
また、日本でバスケットボールアニメ「黒子のバスケ」が人気となるや、中国でもバスケットボールのアニメがいくつも作られ、柳の下のドジョウ狙いが顕著です。成功にあやかろうとするがゆえ、です
が、視聴者は多種多様な孫悟空の活躍するアニメを次々と観たいはずもなく、柳の下に2匹目のドジョウはいないと理解する必要があります
どこかのスタジオの制作した作品がヒットすれば、そっくり真似た作品を出す…といった愚かな真似は止めるべきです
「多様な題材を扱い…」と書いていますが、それができないゆえ、似たりよったりの作品(最近では異世界冒険譚ばかり)が量産されているのでしょう
日本のように料理や酒、を取り上げたマンガやアニメがあり、平凡な主婦の日常とか、男子高校生のくだらない日常を描いた作品もあります。サラリーマン物もあればOL物もあり、医療ドラマや弁護士の法廷サスペンス、多種多様なスポーツ根性物と、さまざまなジャンルを取り上げ、掘り下げ、一捻りも二捻りも加え、独特のキャラクターたちを配置して物語を構成しているのですが、果たして中国にできるのでしょうか?
「創造的なクリエイターを育成しろ」と記事にはありますが、それが一番困難なのでは?
困難な理由は単純明快で、中国共産党の独裁体制と検閲により創造性の芽が摘み取られてしまうからです。中国のこどもたちは、日本のこどもたちほど多種多様なマンガや本に接することはできず、検閲をパスしたマンガや本しか読めません。これで「創造的なクリエイターを育成しろ」と提言されても無理です
「日本アニメの成功から学ぶべきだ」と言うのは簡単ですが、それができないところに根深い問題があります
参考までに青年毛沢東を描いた中国アニメ「恰同学少年」の第1話を貼っておきます。この作品のどこら辺りに「創造的なクリエイター」の存在が垣間見えるのか、自分にはさっぱり判りません。絵の見せ方、いわゆるカメラアングルに工夫もなく、登場人物の描き方も凡庸すぎます
恰同学少年 第1話
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