大分194キロ暴走事故 危険運転致死罪認める判決
交通死亡事故は昭和の高度経済成長に伴って増加し、一時期は年間1万人を超える死者を記録し「交通戦争」とも呼ばれました
その後、数度の法改正が進められ厳罰化が進んだわけですが、それでもなおとんでもない運転をして交通死亡事故を起こすドライバーが跡を絶ちません
基本的に交通死亡事故を起こしても大多数は業務上過失致死罪(現在は法律が改正され、過失運転致死罪に名称が変更されています)に問われ、執行猶予付き判決が下されます。飲酒運転や無免許運転といった悪質が事由があってようやく実刑判決が下される扱いです
大分県の県道を時速194キロで走行し、死亡事故を起こした当時19歳の玉田康陽被告の場合、過失運転致死罪が適用されるか、あるいはより刑罰の重い危険運転致死罪が適用されるか、裁判で争われてきました
大分地裁は玉田被告に対し危険運転致死罪を適用し、懲役8年の判決を言い渡しています
大分市の県道で2021年、時速194キロで車を運転して死亡事故を起こしたとして、危険運転致死罪に問われた当時19歳の被告(23)に対する裁判員裁判で28日、大分地裁は危険運転致死罪の成立を認め、懲役8年の実刑判決を言い渡しました。
この裁判は、大分市大在の県道で2021年2月、当時19歳だった被告が時速194キロで車を運転し、交差点を右折中の対向車に衝突。運転していた小柳憲さん(当時50歳)を死亡させたとして危険運転致死の罪に問われたものです。
28日の判決で大分地裁の辛島靖崇裁判長は「通行を妨害する認識があったと認めるには合理的な疑問が残る」としましたが、「時速194キロの速度で走行し、交差点に進入した行為は、ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスによって事故を発生させる実質的危険性があり、進行を制御することが困難な高速度に該当する」として危険運転致死罪の成立を認定。「常習的に高速度走行に及ぶ中、マフラー音やエンジン音、加速の高まりを体感して楽しむために犯行に及び、身勝手・自己中心的な意思決定は厳しい非難に値する」と述べ、懲役8年の実刑判決を言い渡しました。
裁判の最大の争点は、法定速度の3倍を超える時速194キロでの死亡事故が『危険運転』にあたるかどうかで、これまでの公判で被告は「加速する感覚を楽しんでいた」などと動機を述べていました。
検察側は、危険運転となる根拠『制御困難な高速度』について、「路面状況により車体が大きく揺れる上、夜間は視野が狭くなり、運転操作を誤るおそれが高まる」と主張。また、『通行の妨害』に関しては、「被告は現場を30回ほど走行していて、右折車が来た場合、相手に急な回避行動をとらせるしかないことを認識していた」と指摘し、懲役12年を求刑しました。危険運転致死罪が認められず、過失運転致死罪の場合は懲役5年を求めていました。
一方、弁護側は、「車線から逸脱することなく直進走行していて、車を制御できていた。自分も大けがをしていて通行を妨害する目的はなかった」と反論。危険運転には該当せず、過失運転致死罪の適用を訴えていました。
この事故をめぐって大分地検は当初、被告を過失運転致死罪で在宅起訴しました。その後、遺族が刑罰の重い危険運転致死罪の適用を求め、2万人を超える署名を集めて地検に提出。大分地検は再度、現場などを調べた結果、2022年12月に起訴内容を危険運転致死罪に変更する決定を出しました。
また、危険運転致死傷罪の適用要件を見直すための議論を進めていた法務省の検討会は11月、飲酒運転や一定以上の速度での運転について、血中アルコール濃度や走行速度に数値基準を設けて処罰対象とすることが考えられるとする報告書を取りまとめました。
(大分放送の記事から引用)
危険運転致死罪が新たに設けられ、悪質な死亡事故で運転者の責任を厳しく問うよう法改正されたものの、検察や裁判所は適用要件を厳密に扱いすぎてなかなか危険運転致死罪で起訴せず、判決でもこれを認めない判断が続いています
下段に関連記事にもある、飲酒運転の上、一般道を146キロで走行して死亡事故を起こしたケースでも危険運転致死罪の成立は認めず、過失運転致死罪での有罪判決に留まっていました
一般道を146キロで走れば歩行者の横断に気づいても避けられないのですが、それでも危険運転致死罪には当たらないと裁判官は判断しています。せっかく危険運転致死罪を新たに設けても、検察や裁判所が適用に消極的では意味をなしません
違法行為を取り締まる法律の場合、何が違法に当たるか具体的に条文に盛り込む必要があります(これを限定列挙、と言います)。しかし、法律制定時にありとあらゆる事故の形態や危険行為を想定し条文に盛り込むのは不可能で、どうしても漏れが生じます。最近問題になっている「運転中の煽り行為」などもその1つで、法改正されて「煽り行為」を禁止する項目が追加されました
法律は完璧というものではありませんから、法改正と司法判断の両輪をもって完成度を高めていく必要があります
本件裁判での弁護人が主張する「一般道を194キロで走行しても、車を制御できていた」というのは玉田被告本人の言い分なのでしょう
直線道路をまっすぐ走れれば「車を制御できていた」などというのはおかしな理屈です。車を制御できていたなら事故など起こさないわけで(周囲の歩行者、対向車は一般道を194キロで突っ走ってくる車がいるなど予期できません)。車はオモチャではないのですから
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