浜松一家殺害事件 中間論告

浜松市で祖父母と兄を殺害し、起訴されている山田悠太郎被告の公判で中間論告が行われました。争点がいくつかあり、裁判も長引く場合、途中で論告を行う場合があります。最近では京都アニメーション放火殺人事件で、複数回の中間論告が行われました
ただ、今回の中間論告では目新しい内容はなく、従来通りの主張を検察、弁護側がしているだけです
弁護側は山田被告の解離性同一性障害を前面に押立て、責任能力がないと主張。さらに第三者による犯行の可能性も挙げて、被告による犯行だと断定する根拠が薄いとも述べています


おととし3月、浜松市の自宅で祖父母と兄の3人を殺害したとして殺人の罪に問われている25歳の被告の裁判員裁判が開かれ、検察と弁護側による中間論告と弁論が行われました。
浜松市中央区佐鳴台の無職、山田悠太郎被告は(25)おととし3月、自宅で祖父の浦山毅さん(当時79)と祖母の浦山秀子さん(当時76)それに兄の山田健人さん(当時26)の3人をそれぞれハンマーで殴るなどして殺害したとして、殺人の罪に問われています。
10月の初公判で被告は「自分が人を殺した自覚はないし、殺した記憶もないです」と述べ、起訴された内容を否認しています。
18日は静岡地方裁判所浜松支部で検察と弁護側が意見をまとめ、中間論告と弁論を行いました。
この中間論告は多くの刑事裁判の審理では、検察の論告と弁護側の弁論が1回行われますが、今回の裁判では、裁判がおよそ2か月半と長期にわたり、争点の整理などから2回に分けて行われます。
検察は「事件当日の被告の行動は犯人の言動と整合している。また、過去に受けた虐待の被害などから被害者たちに強い恨みや怒りがあり殺意を持っていた」などと述べ、被告が犯行に及んだと主張しました。
一方、弁護側は「犯行を直接目撃した人は1人もおらず、通報時には家族も被告もパニックになっていて、供述の内容についても慎重に検討する必要がある」などと主張しました。
被告は解離性同一性障害という複数の人格が存在する障害があり、これまで医師の鑑定などでも認められています。
被告は犯行について11月13日の被告人質問で「自分の中の別の人格が殺害した」などと述べていて、裁判では被告に殺意があったかや責任能力がどの程度認められるかなどが、争われています。
判決は来年1月15日に言い渡される予定です。
(NHKの記事から引用)


弁護人は第三者による犯行の可能性を唱えていますが、山田被告自身は「自分の中のボウイという人格がやった(殺害した)」と供述しています
ただ、これは山田被告は「自分という人格の犯行ではない」という趣旨であり、「自分以外の他者(人格)の犯行である」と言いたいのでしょう
被告の主張と弁護人の主張が噛み合っていないようにも思えるのですが、そこは脇に置くとします
解離性同一世障害に関わる判決例
2016年に大阪地裁堺支部の出した判決の要約を貼っておきます。事件は別居していた妻を殺害しようとして未遂に終わった事件です
被告は精神鑑定で解離性同一性障害であるとの鑑定結果が示されました。が、大阪地裁は解離性同一性障害であったとして、それを理由に減刑すべき理由はないとの判断を示しています

裁判所は、被告人を解離性同一性障害であると診断し、本件犯行当時もこの症状が現れていた、とする鑑定人の鑑定意見に関し、鑑定人の臨床経験等を踏まえ、この信頼性を積極的に否定はしない。その上で裁判所は、本件犯行に至るまでの被告人の言動を検討し、「本件犯行は、ひとりの人間が、ごく普通の認識と判断を積み重ね、悩みながらも一貫した行動をとった結果に他ならない」と評価する。その上で裁判所は「被告人の供述する頻繁な「人格」の交代が生じていたとしても、それらが各々、状況に応じた行動をとっていることになるし、被告人の供述によっても、それらの間でかなりの程度の情報共有がされていることになる。また、中学・高校時代にも被害者と知り合って以降の時期にも、被告人に人格交代による社会生活上の支障が生じていた様子はうかがわれない。
これらの事情に照らすと、ここで「人格」と呼ばれているものは、被告人というひとりの人間の中にある様々な感情と同視し得るものといえ・・・犯行をためらうものや、犯行を決意して実行に移したものなどのそれぞれを「人格」と呼んで個別に検討の対象としなければならない理由はない」と結論づけられる。ゆえに被告人の刑事責任能力を検討する上で解離性同一性障害の影響を考慮する必要は無いと判断し、被告人に完全責任能力を認め、被告人を懲役5年とする。

判決の指摘する「本件犯行は、ひとりの人間が、ごく普通の認識と判断を積み重ね、悩みながらも一貫した行動をとった結果に他ならない」との見解は文字通り、裁判官の所感なのでしょう。そして解離性同一性障害がどうのこうの以前の、被告の考えに基づく立ち振舞いこそが事件の本質であると判断し、ゆえに完全に責任能力を認め有罪にするという、何とも核心部分(解離性同一性障害が犯行にどのような影響を及ぼしたのか、という論点)をすっ飛ばした判決のように映ります。が、これが今の裁判官たちの抱く基本的な考え方なのでしょう(精神医学的な議論には深く立ち入らない、というもの)

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