福井中学生殺人再審決定 どのような事件だったか
1986年に起きた福井市の女子中学生殺害事件で、懲役7年の刑が確定し服役した前川彰司さんについて、名古屋高裁金沢支部が再審を認める決定を下しました
再審決定の判断については次回に取り上げるとして、まずは元々の事件と有罪判決がどのようなものであったのか、言及します
誰もが疑問に思うのは、女子中学生を殺害しておきながらなぜ懲役7年という軽い判決だったか、でしょう。殺人罪で有罪とされたのであれば最低でも懲役16年といった刑罰が科されるはずです。それがなぜ、懲役7年だったのか書きます
事件の概要
1986年3月19日午後9時半ごろ、福井県福井市の市営住宅において、卒業式を終えた後に1人でいた女子中学生が、何者かに、自宅台所にあった2本の包丁で全身約50箇所近くを刺されたうえに、灰皿で頭を殴られた後、コードで首を絞められて殺害されるという事件が発生した。
本件は物証がほとんどなく、捜査は難航していた。しかし、事件発生から1年後に、福井県警察は、毒物及び劇物取締法で逮捕されていた男性を、殺人罪で逮捕した。きっかけは、事件発生から約1年後に得られた5人の目撃証言、事件現場に落ちていた被告の毛髪に加え、未決勾留中の元暴力団組員の証言が採用された。
1審福井地裁の判決
福井地方裁判所は1990年9月、殺人については目撃者の供述を裏付ける証拠がない、証言内容が変遷しているなどの理由を挙げ、殺人の容疑については無罪を言い渡しています(求刑は懲役13年)
判決の中で、目撃証言の内容が重要な点で変異していることや事件後相当時間がたってから行われたこと、供述を裏付ける物証がないとして信用性がない判断。さらに逮捕のきっかけとなった暴力団組員の証言は、自らの刑罰の軽減を意図し、警察に媚びた可能性があるとした。さらに、犯行現場に残されていた2本の毛髪については、個人識別が絶対的なものではないとして証拠価値を否定しています。ただし、前川被告の毒物及び劇物取締法違反については有罪(罰金3万円)としています
2審名古屋高裁金沢支部の判決
名古屋高等裁判所金沢支部は1995年2月、犯行現場で被告を見たという目撃証言は十分信用でき、1審で問題とされた暴力団組員の供述についても調書が作成された時点では、覚醒剤取締法違反容疑の取り調べは終了しており、信用性を疑う余地はないとして証拠たり得ると認定した上で、懲役7年の有罪判決を言い渡しています
有罪判決の根拠として、殺害現場から採取された毛髪については、「被告が現場に居合わせたのを証明するもの」と評価する判断を下してます
なお、求刑の懲役13年を大幅に下回る懲役7年とした量刑の理由は、被告人が当時は心神耗弱の状態にあったことを考慮すると述べています
再審決定を報じた各メディアの記事では触れていないわけですが(朝日新聞だけは記事に前川さんのシンナー使用を明記)、前川さんは毒別及び劇物取締法違反にも問われ、有罪の判決を受けています。これは被害者である女子中学生宅に出入りし、シンナーを吸引していた事実を踏まえたものです。なので、こうした再審事件にありがちな、「無実の善良な市民が警察の横暴によっていきなり殺人犯に仕立てらた」との見方をするのは大間違いです
さらに2審では心神耗弱が認められ減刑されていますので、シンナーを濫用し刑事責任が減退するほど中毒症状を呈していた、のでしょう
求刑から2年や3年の減刑であるなら、情状に配慮した判断と考えられますが、求刑の約半分にまで減刑しているのですから、前川さんのシンナー濫用は相当ひどい状態にあったものだったのでしょう
もちろん、シンナーの影響で酩酊した状態で殺害に及んだ、という殺人罪については今般再審が決定しましたので、そちらは再審の判断を待つべきです
ここで一旦区切りとします
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