鹿児島5人殺害事件を考える 死刑判決不服で控訴審へ
2018年3月末、鹿児島県日置市で5人が殺害された事件で殺人などの罪に問われ、2020年12月に死刑判決を受けたのが岩倉知広被告です
死刑言い渡しの法廷では暴言を吐いて暴れ、検察官に飛びかかろうとしたところ立ち会っていた刑務官4人に制圧されています
当然、死刑判決に不服で控訴していたのですが、控訴審は10月30日に福岡高裁宮崎支部で始まると報じられています。1審判決から約4年も経てようやく2審が始まるわけです
2018年に日置市東市来町湯田で男女5人が殺害された事件は、6日で発覚から6年となる。殺人と死体遺棄の罪に問われた岩倉知広被告(44)は、20年12月に鹿児島地裁で死刑判決を受け、即日控訴した。3年以上たっても控訴審日程は未定のままで、遺族は「なぜこんなに時間がかかるのか。ずっとやり場のない思いを抱えている」と話す。
6日、遺族らは複雑な思いを抱えたまま墓参りする予定だ。5日の南日本新聞の取材に応じ「何年たっても墓前に向かうのはつらいが、手を合わせることしかできない」と打ち明けた。
地裁審理では、医師による精神鑑定を基に、完全責任能力の有無が争われた。被告の妄想性障害が犯行に与えた影響を巡り、検察側は「程度は軽微で、完全責任能力がある」と死刑を求刑。弁護側は「障害の影響は著しく、責任能力は限定的」と主張した。
判決は「妄想に指示、支配されるような状況にはなかった。被告人にもともとあった衝動的、攻撃的、自己本位的、他罰的な性格が大きく影響している」として完全責任能力を認め、死刑を言い渡した。
即日控訴から3年4カ月たつが、福岡高裁宮崎支部は「期日の決まっていない事案について情報は公開していない」。福岡高検は「個別の案件には答えられない」としている。
遺族の一人は、進展がなくても審理状況を都度教えてほしいと検察側に伝えているが連絡はないという。問い合わせても、事務担当から「検察官でなければ分からない」と返答されるだけで、「まるで人ごとのよう。ほったらかしにされている気分だ」と憤る。
公判期日を見通せない中、遺族らは犯罪被害者支援センターへ相談を重ねている。「一度も事件のことを忘れることはない。それでも日常生活は送らなければいけない」
■日置5人殺害事件
2018年4月6日、日置市東市来町湯田の民家で男女3人の遺体が見つかった。同8日には別の男女2人の遺体が近くの山中で発見された。県警は殺人容疑などで無職岩倉知広被告=当時(38)=を逮捕。被告は父や伯母ら5人の殺害を認めた。鹿児島地検は19年1月に殺人罪などで起訴。鹿児島地裁は20年12月、求刑通り死刑を言い渡した。弁護側は即日控訴したが、福岡高裁宮崎支部での審理日程は未定となっている。
(南日本新聞の記事から引用)
死刑判決までの経緯は下段にある関連記事を読んでください
岩倉被告の父親は離婚しており、離婚に至る中で親族からさまざまな迫害、圧迫、嫌がらせを受けたというのが岩倉被告の言い分です。その親族による嫌がらせは岩倉被告自身にも及んでおり、「水に毒を入れられた」などと法廷で主張しています。いわゆる被害妄想だろうと考えられます
2度の精神鑑定が実施され、妄想念慮を指摘する見解はありましたが刑事責任能力に問題はないとして鹿児島地検は起訴に踏み切っています
上記の記事にも書かれているように、5人殺害に及んだのは妄想に支配された結果ではなく、「岩倉被告が生来持ち併せている衝動的、攻撃的、自己本位的、他罰的な性格の影響」としています。つまりは人格障害との判断です
精神障害の影響による犯行と認められる場合は、心神喪失によって刑事責任は問えないと判断し無罪を言い渡すか、心神耗弱によって刑事責任は限定的だったと判断し減刑する扱いです。しかし、人格障害の場合はこれに当てはまらず、減刑されない場合がほとんどです
1審での精神鑑定意見
あらためて1審での精神鑑定について書いておきます。以下の杉山志學館大准教授の論文から一部を引用します
妄想性障害が責任能力に与える影響について 志學館大学法学部准教授杉山和之
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kla/2021/0/2021_9/_pdf/-char/ja
被告人の精神鑑定を行った山畑医師と赤崎医師は、両者とも、被告人は犯行当時妄想性障害に罹患していたと認めている。しかし、山畑鑑定は、妄想の程度は重度であり、犯行当時は妄想によって行動が支配されていたとし、これに対して、赤崎鑑定は、妄想の程度は軽微であったとしたのである。そして、鹿児島地裁は赤崎鑑定を採用し、被告人に完全責任を認めたのである。
山畑鑑定と赤崎鑑定は、被告人が妄想性障害に罹患していたことを認めながらも、なぜその結論は対立したのか。そして、鹿児島地裁が赤崎鑑定を採用し、完全責任を認めた理由は何か、妄想性障害が責任能力にどのような影響を与えるのかということが問題となるのである。
まず、両鑑定の鑑定方法の違いに注目をしたい。
論文の中で山畑鑑定の問題点をいくつか指摘しています。まとめると、山畑医師は精神病院内で7ヶ月の鑑定留置期間中に40回もの面談を実施しているのですが、面談内容に「誰かに見張られている気はしませんか?」とか「盗聴されたことはありませんか?」など、被害妄想を想起させる誘導的な質問を投げかけており、これに応じる形で岩倉被告は被害妄想として思いつく話をしたと考えられます
これは鑑定医が予断(先入観)を持って面談した結果であり、山畑鑑定に疑問を抱かせる根拠たり得ます
赤崎鑑定では岩倉被告を拘置所に置いたまま鑑定を実施しており、この間、岩倉被告は幻聴など訴えることはなく、精神的にも落ち着いていたとの観察結果から、妄想の影響は限定的なもの、と判断しています
詳細については上記の論文を一読願います
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