令和の米不足騒ぎを考える

8月上旬から、断続的に「米が買えない」、「スーパーで米が売り切れている」との報道が流されています
そうした報道を耳にしても、本当にそうなのかと思ってしまいます
もう昔の話になってしまいますが、自分の経験を少し書きます
法務省の矯正施設(刑務所や少年院)は政府米を購入する仕組みになっており、これがなかなか面倒な手続きでした。まず、日銀代理店(地元の金融機関で日銀代理店の指定を受けている支店または本店)へ出向き、小切手で米代金を支払います。支払いを済ませたとの証明(納付書)を受け取り、それを持って食糧事務所に行き、納付書を渡します。そこで政府保管の米を何キロ出庫するか、指図書を受け取って政府米保管倉庫へ行き、指図書を渡して米(玄米)を受け取るのです。大量に米を消費する刑務所だと、運送業者に委託し大型トラックで搬送してもらいます
政府米保管倉庫を実際に見た方というのは少ないと思います。実に巨大な倉庫で、そこに米袋がうず高く備蓄されており、室温は10度前後に保たれ、鮮度が落ちないチルド状態になっています
あの政府米保管倉庫を見ると、「米不足」というものが現実に起こり得るのか、と思ってしまうのです

政府米保管倉庫
政府米倉庫.jpg

◆売り場がからっぽになったのは「お盆だったから」?
在庫があるのに、店頭に並ばないのはなぜか。
農水省の見立ては、次の通りだ。
まず、南海トラフ地震に向けた注意報や台風の接近などで防災意識が高まり、食品を準備しておこうとスーパーなど小売店の店頭からコメが消えた。卸業者などに在庫はあり、新米の収穫も始まっているが、お盆の時期に重なっていたため物流が停滞していた…。
だから、お盆が明けて物流が再開した今、玄米が精米されて店頭に向かうため、品薄は「順次回復する」(坂本農相)と強調する。品薄が強調されてきたため入荷したらすぐに売れてしまう可能性もあるが、農水省は消費者に「落ち着いた購買行動を」と呼び掛けている。
一方、備蓄米の放出を決めたとしても、農水省としては公告し周知したうえで競争入札するなど手続きが必要。店頭に並ぶには数週間かかり、品薄が急に解消することはないという。
◆米価維持のためにも放出は…
「新米が本格的に出回る9月には品薄は解消する」というのは、スーパーなど小売店の関係者も一致した見方だ。
ただ、品薄感から新米への期待は大きく、価格は上昇する見通し。ただでさえ値上がりラッシュの家計にとっては重しになるが、備蓄米を放出すれば米価を抑える効果は期待できる。
これに対し、農水省は、価格対策としての備蓄米の放出にも否定的だ。
まず、民間の流通や価格形成への政府介入は控えるべきだという建前論がある。
一方、農水省は1970年から2018年までコメの生産調整(減反)を続けるなど、米価維持や生産者の所得安定に取り組んできた。今年の米価上昇について「ありがたいこと」と漏らす農水省関係者もおり、コメの価格下落につながる備蓄米の放出は避けたいという本音も垣間見える。
また、7月の消費者物価指数によると、2020年を100とした場合のコメ類の価格は111.3。パンの120.9や麺類の120.6を下回っており、農水省の担当者は「パンや麺類に比べ、コメの価格上昇は緩やかだ」とも強調した。
(東京新聞の記事から引用)


政府備蓄米は毎年、20万トン前後を新規の買い入れ備蓄する仕組みで、全体で100万トン前後を緊急事態のため保管しています。つまり、新規に購入する分だけ、古い米を同量を売却に回しているのですから、米不足解消のため10万トンの売却を決めても備蓄制度が揺らいだりはしません
ちなみに矯正施設、自衛隊が購入する米は新米ではなく、3年前とか4年前に収穫された古米です
政府・農林水産省は明らかに米の値上がりを歓迎しており、備蓄米を放出して米の小売価格を引き下げたくないのでしょう
米の値上がりは買い急ぎをする消費者の行動に影響されているのですから、「備蓄米を大量に売り出すので米不足は解消に向かう」とのアナウンス効果で買い急ぎを沈静化できるはずです。が、それをしないのは国民より、農協救済を優先しているからだと指摘する声もあります
太平洋戦争中、食料不足で多くの国民が困窮したのですが、戦後になるとあちらこちらから備蓄していた食料が売り出され、状況が一変しました。いつ終わるか判らない戦争のため、多くの国民が食料を買い溜め、企業も食料を抱えて出荷しようとしなかったからです。戦争が終われば食料を溜め込んでおく必要がないと判断し、市場に出回るようになりました
現在の米不足状態も、農家は自分が食べる分は確保しており、農協も米を確保しており、卸業者も当面必要な量を確保していると思われます。つまり民間の在庫が相当量ある、という農林水産省の指摘は正しいのでしょう。そこで備蓄米を売却すれば、せっかく値上がりした米の小売価格が戻ってしまうからダメ、という理屈です
ただ、備蓄制度は米を溜め込むことが目的ではないはずで、備蓄した米を活用することが目的のはずです。目的を取り違えるような政策は失敗であり誤りです
なお、2003年に食糧庁が廃止となり、全国にあった食糧事務所は統廃合され、政府米購入手続きは簡素化されています

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