裁判記録廃棄問題を考える 裁判記録は膨大

地味な話題です。およそ一般の方には興味の湧かない話ですが、自分の関心事なので取り上げます
既に当ブログで取り上げたように、神戸家庭裁判所は神戸連続児童殺傷事件に関する裁判記録を廃棄(焼却処分)しており、現物はもう存在しません。これだけでなく、世間を震撼させた少年事件にせよ成人の刑事事件にせよ、保存期限が過ぎたら廃棄という事務処理規程に沿って処分されたと判明しています
最高裁の通達で、「重大事件の裁判記録は永久保存せよ」と指示はされていましたが、裁判所の文書庫のスペースは限られていますで保存期限が切れた裁判記録は廃棄し、スペースを空けないと次の裁判記録を保管できないわけです
要は「永久保存せよ」と通達だけで指示を流し、永久保存するための文書庫を新設するための予算措置を講じなかった最高裁が間抜け、だったのです。実務を知らない裁判官出身者が最高裁で事務を統括しているから、こんな事態を招くわけです
さて、神戸新聞がこの裁判記録廃棄問題について新たな記事を書いていますので引用します


裁判記録の廃棄問題を受け、今年1月に記録保存制度が改変される以前に、兵庫県内で争われた民事訴訟で事件記録が特別保存(永久保存)に選定されていたのは、尼崎公害訴訟や明石歩道橋事故訴訟など計5件だったことが、神戸地裁への取材で分かった。上級審までの全記録が保存されていた。阪神・淡路大震災に関する訴訟は判決文を除き廃棄されていたが、歴史的意義のある一部訴訟の記録は残された形だ。当該事件の関係者は「保存は当然」としながらも、認定された事実や、被害に苦しむ当事者の声が残ったことに安堵している。
■新制度半年、6件を追加認定
地裁によると、最高裁が記録保存制度を改変した今年1月30日時点で永久保存になっていた民事訴訟と一審判決があった年は、①国道43号道路公害訴訟(1986年)②尼崎公害訴訟(2000年)③明石歩道橋事故の損害賠償請求訴訟(05年)④クボタ石綿禍訴訟(12年)⑤暴力団排除条項訴訟(13年)。上級審の事件記録や判決原本、和解調書も保存されており、保存場所は、①~④が神戸地裁本庁で、⑤が尼崎支部だった。
これまでの最高裁の内規「事件記録等保存規程」などは、民事訴訟の事件記録は原則5年、判決原本は50年の保存後、廃棄すると定め、史料的価値が高い事件記録については特別保存(永久保存)を求めていた。永久保存とされた5事件の決定理由は、①~④が「全国的に社会の耳目を集めた」で、⑤は「重要な憲法判断が示された」だった。
永久保存記録は、通常の民事訴訟記録と同様、原則閲覧できる。地裁の許可を得て、尼崎公害訴訟と明石歩道橋事故の記録を閲覧したところ、公害訴訟の記録は全193冊で厚みは計12メートル以上、歩道橋事故の記録は全51冊で計3メートル以上あった。記録には、判決文をはじめ、意見陳述書や調査データなどの証拠、捜査過程で取られた供述調書の写しなどがひもでとじ込んであり、法廷で原告・被告双方の主張が整理され、判決などが導き出された経過を検証できる内容だった。
(以下、略。神戸新聞の記事から引用)


1件の裁判記録が全193冊、厚みが12メートルになる事態を想像できる人はそういないと思われます。一般的な文書保存用の棚を幅80センチから90センチとして、6段仕様なら厚み5メートルくらいの裁判記録が収まります。しかし、厚み12メートルともなると棚を2本半、1件の裁判記録で占有する事態となり、裁判所の文書庫が裁判記録でパンパンの状態になるのも当然でしょう
公害の裁判や河川氾濫で国の管理責任を問う裁判、薬害で製薬会社や国の責任を問う裁判など、裁判記録は膨大な量に達するはずです
最高裁は裁判記録の廃棄を停止するよう、全国の裁判所に通達し、永久保存扱いの裁判記録をどう保管するか、有識者会議を設置して検討しています。が、その間にも新たな裁判記録が保管に加わるのであり、事務方は大変でしょう
各高等裁判所ごと、永久保存の裁判記録を保管する新たな保管施設を建設し、そこへ移すしかないと思われます。東京にすべて集める、という安直な考えもありますが、それでも新たな保管施設が必要となるわけで、都内に土地を確保するのは容易ではありません。土地代だけで高くつきます。何より、なんでもかんでも東京に集めるという発想自体、誤りでしょう
電子ファイル化して保存する案もありますが、その際には裁判記録に含まれる文書・資料すべてを電子ファイル化するのではなく、取捨選択して電子ファイル化することになり、記録の一部が失われる結果につながります。裁判官は原本主義ですから、抜け落ちた裁判記録ではその価値が劣化してしまうと考えるのでは?
裁判所の建物は堅牢でガッチリしたものばかりですが、その結果、後から増築して継ぎ足すのが難しくなり、文書庫だけ拡張するのは容易ではありません。だからといって法廷を潰して文書庫にするわけにもいかず、現場は苦労していると想像します。保管施設が完成するまでの間、トランクルームでも借り、一時的にそちらに保管することも検討されるべきでしょう

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