佐世保高1女子殺害事件を考える17 医療少年院を出院
佐世保市の高校1年生だった女子生徒を自分の暮らすマンションの部屋へと誘い入れ、殺害したとして同じ高校の女子生徒が逮捕された2014年7月でした。あれから10年が経ち、医療少年院に収容されていた元女子生徒も26歳に達し、少年法及び少年院法の規定によって出院したと報じられています
事件の詳細については当ブログでこれまでに言及してきましたので、省略します
規定上、医療少年院には26歳まで収容が可能とされますが、実例としては稀です。重度の知的障害があって殺人を犯した少年が長期間、収容されていたという例は聞いたことがあります。知的障害者を受け入れてくれる施設はあるのですが、殺人の前歴があり、なおかつ興奮して暴れるとなれば施設側が受け入れに難色を示します。少年院を仮退院させて知的障害者施設に引き受けてもらおうとしても、調整がつかないのです
本件の場合、26歳に達した時点で少年院に収容しておく法的根拠は失われるため、1年以上前からどこへ帰住させるか、引受人を誰にするか、調整が進められていたものと推測します
高校1年の同級生を殺害し、医療(第3種)少年院に収容された元少女は今夏26歳になる。少年院は23歳未満までだが、第3種は精神に著しい障害がある場合、26歳になるまで延長を認める規定があり、2021年11月に収容継続が決定していた。異例の長期になった元少女の収容が終わる。
23歳を超え収容が継続されたのは、少なくとも平成以降では初めてのケース。独協大法学部の柴田守教授(刑事法)は「26歳までという年齢が長過ぎるのか短過ぎるのかは分からないが、医療に限界はあるものの、できる限り収容して矯正教育を施すのは正しい」と見解を示す。
長崎保護観察所によると、一般的に少年院を退所した少年(元少年含む)は家族が受け入れるが、家族の受け入れが困難な場合は本人の意思を尊重しながら更生保護施設への入所などを考える。施設へ入所後、保護観察官が出向き、必要な措置を取るという。
しかし、元少女の医療少年院送致を決めた家裁決定は「生涯にわたって十分な対応を継続する必要がある」と踏み込んでいる。こうした状況を踏まえ、柴田教授は更生保護施設ではなく、「措置入院させるだろう」と予測している。
再犯防止対策としては、成育歴などから犯罪リスクを可視化する「法務省式ケースアセスメントツール(MJCA)」などの調査ツールに注目している。
柴田教授によると、ドメスティックバイオレンス(DV)や不良的交友関係、親との関係性や精神状態など非行につながるか否かの要因は明らかになってきているという。元少女の場合も、父親を金属バットで殴打するなど親子関係の問題や母を病気で失った後の精神状態が取りざたされた。「非行要因を可視化し、科学的に検証することが重大犯罪を起こさせない社会づくりにつながる」と期待する。
◆
北松佐々町で自営業を営む男性(55)の店にはかつて、加害少女の一家が定期的に来店していた。最後に元少女が来たのは中学3年の時。一緒に来店していた父と会話をしていた記憶はなく、ずっと本を読んでいた。元少女には「元気に生きていってほしいけど、被害者のことを考えると複雑。もし会えるなら会ってみたいけど、何を聞けばいいんだろうか…」、今でも思い悩んでいる。
加害少女の一家と親しかった佐世保市の50代女性は、元少女と事件の約1カ月半前まで2人きりで食事をすることがあった。「普通の少女だった。その子がなぜ-」。兆候は最後まで分からなかった。今でも夢に元少女が現れるという。無言で立っている元少女に声をかけたいと思うが、「なんて声をかけたらいいのか、10年たってもわからない」。
7月26日、事件発生から10年を迎えた。
(長崎新聞の記事から引用)
刑事事件の場合、刑事責任が問えない精神状態にあると検察官が判断すれば不起訴処分とします。ただ、不起訴にしたからそのまま野放しにするわけではなく、都道府県知事に通知して措置入院にする場合がほとんどです
刑事裁判でも、裁判官が被告に刑事責任能力がないと判断すれば無罪を言い渡すとともに、措置入院の手続きを取ります
ただ、少年事件の場合は、刑事責任能力に問題があると判断されるケース(精神障害、その他)でも、少年院送致決定とし医療少年院に収容する場合があります。これが「要保護性」とされる判断基準です。おそらく事件当時、妄想を伴う統合失調症が進行していたのではないか、と想像します。判決文では「共感性を欠いた自閉スペクトラム症」であると書かれていましたが、自閉スペクトラム症⇒殺人という解釈には釈然としないものがあります。その後、実父が自殺してしまい、彼女の保護環境は大きく変化します。そこで医療少年院に収容するとの判断が出たのは極めて当然と思われます
世の中の「少年法は少年を特別扱いしているから廃止してしまえ」と主張している人たちは、こうした規定の趣旨、意味を理解していません
もし少年法がなければ、本件の少女は16歳で刑事裁判を受けた時点で、刑事責任を問えないとして「無罪」が言い渡され、措置入院になっていたでしょう
本件は少年法の「要保護性」の趣旨から医療少年院に送致となり、収容年限である26歳まで収容していたわけです
26歳になった時点で医療少年院を退院させ、あらためて精神病院に措置入院させるなら、16歳時点で措置入院させておけばよいのではないか、と言う人もいるのでしょうが
それは彼女の10年近くにも及ぶ医療少年院での処遇経過を見ないと、何とも言えません。おそらく法務省矯正局内に検討チームが設けられ、彼女の処遇経過について外部の専門家を交え議論がされていたはずです。神戸連続児童殺傷事件の場合も、同じように検討チームが設けられていました。が、検討結果は外部に提示されませんので、詳細は不明のままです(神戸事件については、たまたま検討チームの一員だった人物から話を聞く機会がありました)
以下は余談です
医療少年院と聞くと、昔、少年鑑別所に勤務していた当時の苦い記憶が甦ります。家出や不良交友を繰り返す女子中学生がいて、何度か少年鑑別所に収容されていました。が、彼女が望まない妊娠をしていると判明し、中絶のため医療少年院に送致となったのですが、間もなくして少年院の居室内で自殺したとの報告が入りました
荒んでいた彼女に慰めの言葉をかけたところで無駄なのは明らかなのですが、もう少し何かできなかったのか、との思いが残りました
(関連記事)
佐世保高1女子殺害事件を考える18 なぜ防げなかったか
https://03pqxmmz.seesaa.net/article/504302995.html
佐世保高1女子殺害事件を考える16 医療少年院で収容継続
https://03pqxmmz.seesaa.net/article/504302995.html
佐世保高1女子殺害事件を考える16 医療少年院で収容継続
佐世保高1女子殺害事件を考える15 「責任を感じる」
佐世保高1女子殺害事件を考える14 謝罪の手紙
佐世保高1女子殺害事件を考える13 審判結果の是非
佐世保高1女子殺害事件を考える12 医療少年院送致
佐世保高1女子殺害事件を考える11 有識者の見解
佐世保高1女子殺害事件を考える10 家裁の判断は?
佐世保高1女子殺害事件を考える9 児童相談所長ら懲戒処分
佐世保高1女子殺害事件を考える8 再逮捕の狙い
佐世保高1女子殺害事件を考える7 父親の自殺
佐世保高1女子殺害事件を考える6 精神鑑定
佐世保高1女子殺害事件を考える5 父親の再婚
佐世保高1女子殺害事件を考える4 サインを見逃す
佐世保高1女子殺害を考える3 「命の教育」とは
佐世保高1女子殺害事件を考える2 快楽殺人説
佐世保高1女子殺害事件を考える1 マンションに独り暮し
佐世保小6殺人から10年を問うノンフィクション
小学六年生女子児童による殺人事件
小学六年生女子児童による殺人事件 2
小学六年生女子児童による殺人事件 3
小学六年生女子児童による殺人事件 4
小学六年生女子児童による殺人事件 5
小学六年生女子児童による殺人事件 6
小学六年女子児童による殺人 7
佐世保小6殺害事件 事件の意味を読む
佐世保小6殺害 事件報告書を人権侵害だと申し立て
佐世保の小6女児殺害発生から8年 「マナーで人の心、優しく」
「14歳のエヴァは終っていない」 酒鬼薔薇聖斗のエヴァンゲリオン
精神鑑定