韓国の大学 囲碁科廃止問題

日本では藤井聡太八冠の活躍などにより、将棋熱が高まっていると言われます。が、それに比べ囲碁の方は人気が凋落傾向なのだとか
かつてはテレビアニメ「ヒカルの碁」で空前の囲碁ブームがあったのですが長続きせず、将棋に比べれば囲碁の注目度は格段と低くなっているようです
囲碁界に藤井聡太に匹敵するスターが登場したなら、展開は違っていたのかもしれません。
実際には井山裕太が「ヒカルの碁」が放映されていた2002年に12歳でプロ棋士となり、大いに注目され、その後20歳4ヶ月で名人戦に勝利して史上最年少名人に就いており、その後は七大タイトルを獲得して囲碁史上発の七冠制覇を達成しています。なので、井山人気で囲碁界が大いに盛り上がるはずが、そうはなりませんでした(その理由についてはあれこれ説明しているウェブサイト、ブログがありますので、興味にある方は検索してください)
さて、日本以上に囲碁熱が高いとされる韓国ですが、大学で唯一の囲碁科を設置している明智大学では囲碁科廃止の動きがあるのだそうです
これが今日の本題です


「遅ればせながら好きになった囲碁に少しでも役に立ちたいと思っていたところへ、唯一の希望となったがこの学科の存在でした」
明智大学囲碁学科の学生のイ・サングンさん(22)は「必ずしもプロ棋士ではなくても、様々な方法で囲碁界に貢献しようと、すべての学生が心から努力している」と語った。イさんの言葉のとおり、10日に訪れた京畿道龍仁にある明智大学囲碁学科は、学生と教授が残した愛情の跡であふれていた。廊下の一面には賞状とトロフィーが展示され、囲碁博物館(図書資料室)には歴史の本や雑誌が所狭しと並んでいた。講義の時間割には「囲碁史」「囲碁教育論」「囲碁コンテンツ開発論」「囲碁中国語」などの科目が記されている。講義室の机ごとに使い込まれた碁盤と碁石が置かれていた。
1997年に世界で初めて設立された韓国唯一の明智大学囲碁学科が、大学の構造調整によって廃止の危機に直面すると、学生と教授をはじめ韓国内外の囲碁界からも懸念の声が上がった。明智大学は学科の構造を改編し、囲碁学科が「斜陽産業」に該当するという理由などを挙げ、来年からは定員を配分しなかった。これについて、明智大学囲碁学科のナム・チヒョン教授や学生ら69人が「大学入学選考施行計画の効力を停止してほしい」として出した仮処分申立ての抗告は、7日にソウル高裁で棄却された。ナム教授らはただちに再抗告状を提出し、判断は最高裁に移ることになった。
(中略)
様々な理由で囲碁学科に入学した、あるいは入学を準備していた学生たちは、衝撃を受けている。19歳のプロ囲碁棋士であるKさんは、仮処分申立ての嘆願書に「6歳のときに囲碁に入門したが、未来計画の一つである『普及』に役立つ指導実習などは、囲碁学科でしか学べないとわかった」とし、「検定試験の勉強をして、経歴を積むために様々な大会に出場するなど、(入学のために)多くの努力をしてきたが、学科廃止の知らせを聞き、本当に大きな喪失感を感じている」と述べた。
明智大学囲碁学科の廃止に対する懸念は、国際的な囲碁界にも広がった。国際囲碁連盟(IGF)のトーマス・シャン副会長は、学科廃止の論議が始まった2022年から「国際的な認知度を得ている学科を廃止するのは遺憾だ」とする立場を表明していた。欧州囲碁連盟、ハンガリーやカナダの囲碁協会などからも「(明智大学囲碁学科の出身者が)世界の囲碁界に囲碁専門家や行政家として貢献してきた」として、残念だという反応を示した。
最近ではドラマなどに登場して人気を高めている囲碁の地位を考慮すれば、学科廃止は慎重にすべきだという意見もある。大韓囲碁協会が昨年末、一般国民を対象に実施した認識調査で、ドラマ「ザ・グローリー~輝かしき復讐~ 」で囲碁が素材として活用された影響などで、2016年に比べ昨年の関心度が15ポイント(29.7%→44.3%)上昇したことにも表れている。大韓囲碁協会のチョン・ボンス会長は「中央アジアや欧州、台湾でも囲碁の熱気が強まっている。韓国選手は世界最高の座を維持しており、『K-囲碁』に進むためには普及を拡大しなければならない状況なのに、それに反して学科を廃止する状況は理解できない」と指摘した。
(ハンギョレ新聞の記事から引用)


明智大学の囲碁科は大学の学部としてだけでなく、大学院のコースまで設置されているのだそうです。囲碁で修士号とか、博士号を出しているのでしょう
日本では将棋や囲碁は芸事・遊びという扱いで、専門学校もなく大学もありません。社会的な注目が高いとはいえ、それだけマイナーな存在です
韓国の囲碁熱が高いというのは「ヒカルの碁」でも取り上げられていましたが、当時は韓国内の棋戦の優勝賞金が低く、「実力で劣る日本の囲碁棋士の方が棋戦で高い収入を得ているのはおかしい」との声も韓国内にはありました
その後、韓国を代表する企業であるサムスン、LGがスポンサーとなる棋戦も生まれ、棋士の収入も増えたのではないかと思います。そして囲碁熱をさらに高めようと韓国棋院は、囲碁棋士を主人公にした漫画を制作し「ヒカルの碁」のように若年層にアピールしようとの企画を打ち出します
しかし、韓国の漫画原作者(韓国の場合、漫画の企画・構成を担当する原作者と作画担当者の分業というのが一般的です)が提出した企画書は、囲碁の才能に恵まれた少年が次々と大人の棋士を負かし、勝ち上がる…という「ヒカルの碁」そっくりの内容だったため、韓国棋院は企画そのものを断念したとの話です
韓国は常々、「韓国の漫画もアニメも日本に負けていない」と豪語するわけですが、実は大きな差があります
日本には「ヒカルの碁」や「3月のライオン」のような囲碁・将棋を題材にした漫画・アニメーションがありますが、韓国にはこれらに匹敵するような作品はありません
しかし、むしろ「ヒカルの碁」や「3月のライオン」に匹敵するくらいの漫画・アニメーションをなぜ作らないのか、と言いたくなります。囲碁を普及させ、競技人口を増やしたいのであれば、ブームを巻き起こせるくらいの漫画やアニメーションを生み出せよ、と
大学の囲碁科が廃止されるのは時代の流れであるとしても、囲碁ブームを起こそうとする工夫もアイディアもないのでは、韓国の囲碁も衰退に向かうのでしょう

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