ススキノ首なし遺体 専門家の見解(2)

ススキノ首なし遺体事件で田村瑠奈被告の母親の公判が続いています
ここでは週刊新潮の記事にある岩波明昭和特任教授のコメントを抜き出して取り上げ、多少なりの考察をつけ加えます
岩波教授は発達障害、自閉スペクトラム症の研究、治療の専門家です
なお、記事全体を読みたい方はデイリー新潮のサイトにアクセス願います

瑠奈被告は中学時代から通院…精神科医の父親・修被告を有名精神科医はどう見ているか【ススキノ首切り裁判】

精神科医で、昭和大学附属烏山病院の特任教授を務める岩波明氏は「被告一家を特異な存在と見なす傾向は報道にも世論にもありますが、こうした視点に違和感を持つ専門家や関係者は少なくないのではないでしょうか」と指摘する。
「猟奇的な殺人事件で、社会的なインパクトが非常に強かったという特殊な背景があります。裁判でも真相解明のため被告一家の家族関係に焦点が当てられ、特異な3人だという印象が強まってしまいました。しかし、そうした特別な要素を全て取り除き、純粋に家族関係の骨格だけを浮かび上がらせると、むしろ『引きこもりの子供がいる家族』の典型例ではないかと思います」

「修被告は裁判で『18歳より前はそれなりにしつけていた』と述べたようですが、これは引きこもりのいる家庭で多く見られるパターンです。我が子が小学生や中学生で不登校になると、父親や母親は何とかしようと努力を重ねます。カウンセリングを受けさせたり、精神科に通院させたりする。それが功を奏するケースもあれば、うまくいかないこともあります。改善が見られないまま子供が10代後半に成長すると、親の言うことを聞かないことが多くなります。『病院に行こう』と提案しても拒否されます。子供が親に罵詈雑言を浴びせたり、暴力を振るったりすることも珍しくありません。瑠奈被告の暴言や暴力の実態は裁判で明らかになりましたが、まさに典型例だと言えます」(同・岩波氏)

「医師として診察にあたっていると、引きこもりの子供が暴力や暴言で親を支配しようとするとケースは、よくみかけます。子供の支配に服従する親は珍しくありません。私の診た患者さんでは、親に自分で指定した精神科へ連れて行くよう強要。診察が始まると、これまでの病院や医師の悪口を並べ立てる。診察が成り立ちませんので、“ドクターショッピング”を繰り返し、その結果として患者さんは全国の病院を回っていました。そして診察の際、病院や医師の文句を言うのは患者さんである子供だけでなく、親も一緒になって文句を言っていました」(同・岩波氏)

いわば“子供に取り込まれてしまう”親は珍しくないというのだ。その一方、子供の家庭内暴力に耐えられず、子供を見捨てる親も多いという。
「文字通り、親が子供を捨て、別の場所に逃げだしてしまうのです。何とかして、わが子と向かいあおうとする両親でも、わが子が引きこもりであるという事実から無力感に苛まされ、暴言や暴力を恐れて文字通り“腫れ物に触るよう”にして子供と接します。修被告の証言からも、そうした親の傾向が浮き彫りになっています。殺人事件という特別な事案が発生しなければ、瑠奈被告と修被告、浩子被告の日常生活は続いていたと思います。それこそ高齢の親が年を取った子供の世話をするという『8050』問題に直面しても全く不思議ではなかったのではないでしょうか」(同・岩波氏)

警察に通報する以前の問題として、「娘の暴言や暴力がひどくなった時、何か手を打つべきだったのではないか」という意見は根強い。修被告は精神科医でもある。プロの知見を我が子に活かすことはできなかったのだろうか。
「それでは実際に瑠奈被告を入院させようと決断します。抑え込んで病院に連れて行こうとしましょう。瑠奈被告は女性ですが、成人した女性が本気で抵抗すると、やはり大変な力を発揮します。大の男が4~5人は必要でしょう。しかも瑠奈被告の場合、解離性同一性障害(註:かつては多重人格と呼ばれていた症例)の可能性がありますが、この診断では強制入院を受け入れない病院が多いと思います。統合失調症の症状が顕著で、被害妄想から他者への攻撃性を公言しているような状況でなければ難しいでしょう。そういう意味では、修被告と浩子被告の“打つ手”も限られていました」(同・岩波氏)

強制入院は精神保健福祉法による入院形態の1つです。通常の任意入院(同意入院)は患者の同意の上で精神科の病院に入院するものです。これに対し、措置入院は患者個人の身体を保護するため入院させるもので、自傷行為や自殺を図る虞れや他人への加害行為が懸念される場合に適用されます。この他に医療保護入院とか応急入院という形態もありますが、説明は省略します
前回、当ブログで言及したように、瑠奈被告は双極性障害(いわゆる躁鬱病)との診断を受けています。が、双極性障害というだけで措置入院をさせるのは難しと思われます。オーバードーズや自傷行為もあっても、本人の同意が得られないまま措置入院させるのは容易ではないと考えられます。一部、思春期病棟という、思春期に顕著な摂食障害などの患者を受け入れている医療機関がありますので、そちらに相談する手はあるでしょう
身体拘束を実施して入院させるというのは実際問題、なかなか難しいものがあります
最近の事例では路上で暴れている男性を警察が保護し、留置場に収容したところ病死する事件が愛知県警岡崎警察署でありました。また、知的障害のある男性を警察官が拘束した(抵抗して暴れるため)結果、死亡するケースも毎年のように起きています
自分も矯正施設で暴れる被収容者の制圧に加わった経験が複数回ありますが、1人の男性が死にものぐるいで暴れたなら押さえつけるのに4人や5人は必要です。その場合、被収容者に怪我をさせないよう制圧しなければなりませんので、余計に難しいのです
瑠奈被告は特別体を鍛えていたわけでもなく、体力・筋力がずば抜けていたわけでもありませんが、それでも死にものぐるいで暴れたなら、抑え込むのが大変だったでしょう
そして修被告は父親としてそんな実力行使の場面に耐えられなかったと想像します。精神科医ですから修被告も病棟で暴れる患者を押さえつけるシーンには何度も遭遇しているのでしょう。が、自分の娘が押さえつけられるのを目の前にして平然としてはいられる自信はなかったのでは?
結果論になってしまうのですが、瑠奈被告の症状が悪化する前(中学生くらい)に、入院治療に踏み切るのがベターだったのではないか、と思います
タイミングを逃すと取り返しがつかず、症状は悪化するばかりです。決断を先送りし続けた結果が今回の事件です

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