中国の漫画・アニメ業界の「ヒーロー待望論」

藤本タツキの原作漫画を劇場版アニメーションに仕立てた「ルックバック」を当ブログで取り上げた際、ロイター配信の記事「中国アニメ・漫画の国産ヒーロー待望論」に少しだけ触れました
大雑把に要約すると、「中国のアニメ・漫画にはNARUTOのようなヒーローがいない。そのため膨大なデータを分析し、読者が求めるヒーロー像を研究し、中国独自のヒーローを生み出そうと試みている」といった内容です
そのバカバカしさにブログで取り上げようと思ったのですが、「ルックバック」の方がはるかに魅力的だったので優先させました
さて、「ルックバック」の紹介を終えたので、中国の漫画・アニメ業界にあるという国産ヒーロー待望論がいかに虚しく、バカバカしいものであるか、書きます


中国で大いに流行する「アニメ・漫画」の行方 待望される「国産ヒーロー」
1990年代、中国の港湾都市・大連で育ったチャン・ホンチャン氏は、「ドラゴンボール」や「NARUTO─ナルト─」といった日本のマンガにどっぷりと浸っていた。
テレビで放映される日本のアニメシリーズやマンガはチャン氏や彼の同世代の人々の想像力をとりこにしたが、それに比べると、中国オリジナルのマンガは色あせて見えた。
「マンガ軍拡競争」
現在、チャン氏は中国で最も人気のある漫画家として、中国アニメの新たなうねりの最前線に立っている。この潮流を推進しているのは、国内の巨大IT・インターネット企業だ。チャン氏の最新のヒット作は、道教の僧侶として秘密の超能力を持つ高校生を主人公にしたもので、ネット上での閲覧回数は1億6000万回に達している。
コンサルタント会社エントグループによれば、中国のアニメ市場は2020年には2160億元(約3.6兆円)規模に達すると予想されており、中国のテクノロジー企業は、国産の人気キャラクターを開発・購入する「マンガ軍拡競争」に参戦している。「ミッキーマウス」から「アイアンマン」に至るウォルト・ディズニーの成功を再現するのがその狙いだ。
こうした取り組みの鍵になるのが、チャン氏のような作家の育成である。
チャン氏は仕事場である杭州のスタジオで「マンガを書き始めたときは、日本のマンガをまねしていたが、徐々に私自身のスタイルを身につけた」と話す。このスタジオで彼が描いた作品は、ゲーム開発も手掛ける中国ポータルサイト運営会社「網易(ネットイーズ)」のウェブサイトで読者に提供されている。
成功の方程式
「中国の市場を理解し、中国のマンガ読者が何を望んでいるのかを理解するのに時間がかかってしまった」
騰訊控股(テンセント)や百度(バイドゥ)、ネットイーズなど国内の巨大テクノロジー企業も、チャン氏と同じことを理解しようと努力しているところだ。
成功の方程式の1つは、中国の伝統的な宗教・文化的なテーマとキャラクターを使うことだ。エントグループの試算によれば、こうした戦略と、作画・ストーリー面での品質改善が功を奏し、中国のマンガ・アニメ市場は昨年1500億元規模に達したという。
日米両国の市場には後れをとっているものの、追いつきつつある。リサーチ・アンド・マーケッツの報告によれば、アニメの制作本数では日本がトップだが、売上高では米国が優勢であり、2016年には世界全体で推定2200億ドル(約24兆円)とされる市場のうち、40%近くを占めている。この年、中国のシェアは約8%だった。
中国企業にとって、魅力的なシリーズやキャラクターを開発できれば、ディズニーが開拓してきたような新たなビジネスチャンスにつながる可能性がある。シリーズ名を冠したテーマパークやゲーム、映画、テレビ番組、弁当箱や衣料品などだ。
(以下、略)


「スパイダーマンやスーパーマンのような国民的ヒーローを生み出せれば、その後は漫画やアニメ、実写映画化など、20年も30年も使い回しができ、キャラクターグッズなども販売して大儲けできるから」といった下心がありありです
ただ、キャラクターの人気も不動のものではなく、浮き沈みが伴いますし、スーパーマンの映画が毎回ヒットするわけでもありません
何より、「楽して儲ける」との発想では読者・視聴者を満足させる質の高い作品が作れるとは思えません。作品の質が落ちればキャラクターの価値も下がってしまうでしょう
なので、前作を上回る面白さが常に要求されます。それはクリエイターたちにとってハードルがどんどん高くなることを意味するのであり、ヒーローをヒーローたらしめる作品を生み出し続けるのは大変に難しいのです
上記の記事を読む限り、それが理解できているようには感じられません
「成功の方程式の1つは、中国の伝統的な宗教・文化的なテーマとキャラクターを使うことだ」などと書いているところを見ると、「結局、何も判っていない人たち」だと思うばかりです
日本の文化や社会を背景にしている作品が日本アニメには多いのですが、それだけではありません。宮崎駿や高畑勲は名作児童文学のアニメ化に多く取り組んでおり、「赤毛のアン」や「アルプスの少女ハイジ」といった欧米社会を舞台にした作品も手掛けています。現地を訪ね、ロケハンをやり、丁寧に作られた作品には、「こども向けだからこの程度で十分」などという発想はありません(予算と制作時間の制約があって背景を簡略化するなどの措置はあります)
さて、「キャラクターグッズを売って大儲け」などと考えている中国の漫画・アニメ業界人の眼に、次に紹介する「ヴァイオレットエヴァーガーデン」はどのように映るのでしょうか?
中国アニメはかつて、ネズミや猫、熊など動物キャラを主人公とした、小学校入学前のこどもたち向けにアニメを量産していました。そこで見られたのが「こども向けなんだからこんなもんでしょ」という安易な作画と手抜きとしか思えないストーリー、構成でした
そこから進化したのは間違いありませんが、「ヴァイオレットエヴァーガーデン」のように大人の心を揺さぶる作品は作れないままです
安っぽいヒーロー活劇を作るのも商売だからアリですが、それだけではないと中国の漫画・アニメ業界人は理解する日が来るのでしょうか?

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