いま一度、映画「ルックバック」を語る

7月5日(金)から7日(日)までの週末興行成績で、映画「ルックバック」が1位の観客動員を記録したと発表されています
先日は上海の国際映画祭で「ルックバック」が上映され、観客から熱い支持を得たと当ブログで取り上げたところです。中国で「ルックバック」のコミック本が入手可能なのかどうかは判らないのですが、知名度抜群という作品ではなかったはずです。「チェンソーマン」の作者でもあり藤本タツキによる漫画、として知られていたとは思いますが
日本では一部の漫画ファン、漫画家から支持を受けており、宝島社が毎年発行しているマンガ紹介ムック「このマンガがすごい!2022」で、そのオトコ編1位を「ルックバック」が獲得していますので、劇場版アニメについても注目度が高かったと思われます
この「ルックバック」の漫画原作を熱く語っている記事がありますので、一部を引用します。元記事はかなりの分量になりますので、全文を読みたい方は下記にあるインターネットのアドレスをクリックしてください


藤本タツキは『ルックバック』を“描かずにはいられなかった”のではないか?──「受け手に湧き上がる衝動によって駆動する物語」としての『ルックバック』を考える
https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/210730b
2021年7月19日の0時に「少年ジャンプ+」にて公開されるやいなや大反響を呼び、次々と熱のこもった批評、感想がネット上に次々アップされ、すでにひとつの「現象」と化しつつある、『チェンソーマン』の作者、藤本タツキ待望の最新作『ルックバック』。
連日のように力のこもった充実した新作が公開され、ネット上でバズることがもはや当たり前の出来事のようになりつつある、「ジャンプ+」の中でも『ルックバック』の反響は群を抜いている。本稿執筆時点で閲覧数は500万を突破しており、はてなブックマーク数は3000を超えるほどだ。
週刊少年ジャンプ誌上において始まりから第一部の完結まで絶えず異彩を放ち続けた『チェンソーマン』の作者の最新作ということでも公開前から期待を集めていた『ルックバック』は、なぜこんなにも多くの読者の心を揺さぶるのだろうか?
公開された直後に読み、「心を揺さぶられる」を通り越して完全に“ノックアウト”された人間として、この作品についての私なりの考えを述べてみたい。
(中略)
『ルックバック』の前半部、藤野と京本という熱意も能力もあるふたりの少女が漫画を通じて出会い、共に歩み、そして袂を分かつまでを過不足なくテンポよく描くこの前半部は本当に素晴らしい。この前半のみで完結した短編として提示されたとしてもそれはそれで大きな反響を呼んだのではないだろうか。
この漫画の前半部の面白さ、それは、あまりにねじれた形でひとりの漫画家の才能の覚醒を見事に描いた点にある。
クラスで発行されている学年新聞で小学生にしてはけっこう、というか大分良くできている絶妙なクオリティの4コママンガを連載し、周囲から上々の反響を得ていることに満足を得て、それがプライドにもなっている小学校4年生の藤野。その藤野の前に不登校のため姿は見せないものの、小学生離れした圧倒的な「画力」で構成された4コマ漫画を藤野の眼前に突き付けてくる京本。
この京本、というか京本の創作物との衝撃的な出会いによって、天狗の鼻をへし折られた藤野は大きな挫折感を味わい、京本以上に絵が上手くなるために一心不乱の努力を開始する。
そして、その周囲を顧みない姿勢は、小学6年生になるまで続き、やがてクラスメイトや家族の間に溝を生じさせ、その軋轢の果てに、さまざまなものを犠牲にした必死の努力によってもなお埋めがたい「画力」の差を痛感した藤野は、自身の才能に見切りをつけ、漫画を描くことを辞めてしまう。
ここまでの説明だと、圧倒的な天才とそれにどう頑張っても追いつけない秀才という、いわゆるモーツァルトとサリエリ的なこれまで何度も繰り返されてきたタイプの物語だと思ってしまうかもしれない。しかし、実は『ルックバック』はそんな物語では全くない。
努力し着実に向上しているとはいえ、藤野が京本に及んでいないのはあくまでも漫画を構成する一要素に過ぎない「画力」なのであって、コマ割りやストーリー、キャラクター造形などの漫画全体を構築する上で必要な「漫画力」においては、実は物語の開始当初から藤野の能力は京本を圧倒している。そして年月を重ねるほどに藤野の「漫画力」は恐るべき速度で成長すらしているのである。
小学4年生から6年生になるまでの間に、藤野の「漫画力」が向上し続けていることは、作品中に掲載される実際に藤野が描いた4コマ漫画を見れば一目瞭然だ。
4年生の時は、「小学生にしては良くできている」という作品だったものが、6年生になった時に描いた、それが自身がマンガを辞めるきっかけにもなってしまった4コマに至っては単純に漫画として面白い。実際、私はこの6年生の藤野が描く「真実」という作品が大好きで、読んでて普通に笑ってしまった。
それにしても漫画家の漫画家としての成長の過程を、「実際の劇中作の作品のクオリティとその変化具合によって示す」という、藤本タツキという漫画家の剛腕ぶりである。己の漫画家としての力量に相当な自信のある作者でなければこんな芸当はできないだろう。
この前半部で興味深いのは、クラスメイトや家族など周囲の誰もこの藤野という漫画家の圧倒的な才覚と止まることのない成長ぶりに、藤野本人を含めて気付いていないところだ。
(以下、略)


今回「ルックバック」について2度目の言及を思い立ったのは、ロイター配信の記事で「中国でアニメ・漫画ブーム、待望される『国産ヒーロー』」と題する文を読んだのがきっかけです。このロイターの記事は別途、言及するつもりですが、「中国のアニメ・漫画にはNARUTOのようなヒーローがいない。そのため膨大なデータを分析し、読者が求めるヒーロー像を研究し、中国独自のヒーローを生み出そうと試みている」といった内容です
大衆の求める何か?を膨大なデータの中から探し出そうとする動きはマーケティング理論としては正しいのでしょう。が、果たして正解にたどり着けるものなのか、考え出されたヒーローが大衆ウケするのか、疑問です
他方で、藤本タツキは藤野と京本という田舎の小学6年の女の子を主人公に、読者の胸を熱くする物語を描き出します。2人の主人公は忍者でもなければスーパーマンでもありません。漫画に情熱を傾け、もっと上手くなりたいと努力を惜しまない女の子です
なので「ルックバック」を読んでしまうと、ロイターの記事にある「国産ヒーローが必要だ」との主張が実にバカバカしいものに思えてしまうのです
大衆受けするヒーローを生み出せれば、漫画やアニメ、ゲームなどで展開しボロ儲けできる…といった下司な考えしかないのでしょう
それよりも漫画に打ち込む2人の少女の情熱、ひたむきさ、憧れと嫉妬を混ぜ合わせた青春の苦さなど、薄っぺらいヒーロードラマより数倍も濃密で奥深く、余韻に満ちていると感じます
「縦読みの韓国ウェブトーンが人気だ」とか、「ウェブトーンが日本の漫画を追い越した」などとフカす記事もありますが、「ルックバック」のような心を揺さぶる作品を生み出す日本の漫画界はそう簡単に追い越せるものではない、と思うのは自分だけではないはずです

『ルックバック』は観客の青春を追悼する【警告後ネタバレあり】

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