ススキノ首なし遺体 瑠奈被告は解離性同一性障害か

ススキノ首なし遺体事件で田村浩子被告の公判が続いています。被告側の証人として田村修被告が出廷し、瑠奈被告の症状について語っていますので取り上げます
ただ、下記の記事を読むといくつもの疑問が浮かぶばかりで、どうにもモヤモヤ感が残ります
修被告の証言によれば、瑠奈被告は小学2年生時から不登校の傾向が見られるようになり、その後は「躁うつ病」と診断されたと語っています
ただ、「躁うつ病」の呼称は現在使われていません。順序立てて書くと、躁うつ病→双極性障害→双極症と呼称が変化するとともに、病気そものもについても見直し・研究が進められており、現在では鬱病と双極症(いわゆる躁状態と鬱状態が交互に繰り返される症状)は別の病気ではないかと考えられています
瑠奈被告に「躁うつ病」という診断がついた時期が不明なのですが、小学生でも双極性障害と診断されるケースはありますので、異例ではありません。ただ、修被告も精神科医ですから、他の医師が下した「躁うつ病」との診断で納得してしまったのかどうか、気になるところです
そして病名についても現在は双極性障害あるいは双極症と呼びなわしていますので、受診当時のまま「躁うつ病」と発言するところにも違和感があります


不登校だった子供時代と「ゾンビ化妄想」
午後15時30分からは弁護側の証人として父親の修被告が出廷(60歳)=死体損壊ほう助などで起訴=、瑠奈被告との親子関係や事件について証言した。
6月4日に行われた浩子被告の初公判では、瑠奈被告が「シンシア」「ルルー」などと呼ばれる人物が入り込んでいるといった「ゾンビ化妄想」状態だったことが明かされた。あまりにも異質な事件、世間はさらに大きな衝撃を受けた。
「瑠奈被告は小学校2年生のころから不登校気味になり、中学に入ってからは登校できなくなった。中3のころにフリースクールに通うようになったが、そこにも行けなくなり、18歳ごろからひきこもるようになったそうです。その後、昼夜逆転の生活、自傷行為やOD(オーバードーズ)などを繰り返すようになった」(傍聴した週刊誌記者)
『躁うつ病』と診断されており、精神科医の修被告の元、自宅で療養生活を送っていたとされる。
その中で現れたのが瑠奈被告とは別の人格だ。
「いつ頃から始まったかは、確認する資料がないのでわからない。10年くらい前のことだと思う。娘に『瑠奈』と呼びかけると、『その子は死んだ』『その名前で呼ばないで』と言っていた」(修被告)
「瑠奈は死んだ」「その子の名前で呼ばないで」
瑠奈被告は自分が「シンシア」や「ルルー」などであり、「瑠奈」ではないと主張していた。
「(言葉を濁しながら)本人から瑠奈という魂はいなくて、私はシンシアだと言い出した。ほかにも複数いることを本人が言い出した」(修被告)
「基本的に、シンシアという人格なのか」と弁護側から問われると、「娘は人格というよりも魂と言っていた。死んだ瑠奈の身体をシンシアという人が借りているだけ。これが10年くらい続いている」と修被告は説明する。
20歳を過ぎるころには自分が「瑠奈ではない」との主張は揺らぐことがなくなり、「『瑠奈』と呼ぶとそれまでニコニコして話していていも、『その子の名前で呼ばないで』『瑠奈は死んだ』というようになったという。
(以下、略。週刊現代の記事から引用)


自宅療養はともかく、双極性障害に対する投薬を実施していたのかどうか(そうでなければ単に家にいただけであって、療養とはよべません)が問題です。躁状態を抑えるための薬、鬱状態を緩和するための薬がそれぞれあるわけで、精神科医の修被告なら自分で処方箋を書き、入手できたはずです
そこから人格の解離と見られる症状が始まるのですが、となれば「躁うつ病」ではないと考えられるのでは?(注1)(双極性障害においても人格の解離や、記憶障害が引き起こされる場合があり、まったく別の病気として扱うべきではないとの見解もあります)
逆に解離性障害を主訴として受診し投薬を受けた患者46例で、最終的に解離性障害と診断が確定したのは22例と半分ほどであり、他には双極性障害11例、統合失調症3例、側頭葉てんかん2例などであったと報告した研究もあります
なので、双極性障害でなおかつ解離性同一性障害でもあると考えられるケースが皆無、というものではありません
ただ、解離性同一性障害の多くは幼少期の虐待や性被害といった体験がベースになっている場合が多く、瑠奈被告はどうだったのでしょう?
上記の記事では、弁護人の方針なのでしょうが「次々と瑠奈被告に困難な症状が出現し、精神科医の修被告でも手を焼くほど難しい状況だった」と裁判官に印象付ける目的で語られているように思えてなりません
(注1)最初の「躁うつ病(双極性障害)」という診断が誤っており、より重篤な病気である可能性を見落としていたのでは?
解離性同一性障害は人格が分裂し、複数の人格が出現する病気のように思われますが、これを特殊な記憶障害(自分以外の人格は記憶の中で作られ、記憶にのみ存在するものであり=実在しない)とする理解の仕方があります。解離性障害を主訴として治療を受けた患者の中には、後日統合失調症だったと判明するケースがあるように、現在進行形で病状が悪化するうちに表に現れる症状が変化するのは珍しいことではありません
本件については瑠奈被告の精神鑑定が行われていますので、その結果が公判で明らかになるのを待つべきかと思います
修被告が父親として精神科医として、瑠奈被告に扱いに苦慮したのは判りますが、先に述べたように投薬治療をしていなかった疑いがありますし、手に負えないのであれば入院させる選択枝もあったはずです。判断を誤ったのではないか、との疑いが残ります

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