「和歌山カレー事件は冤罪」とするドキュメンタリー

二村真弘監督のドキュメンタリー映画「マミー」は1998年7月に起きた和歌山カレー事件を取り上げた作品で、林真須美死刑囚を冤罪の被害者だと主張する内容なのだそうです
二村監督は時間をかけて取材し、関係者への聞き取りも続け、冤罪だとの結論に達したと語っています
今回は二村監督へのインタビューを中心とした弁護士ドットコムの記事から、一部を引用します
林真須美死刑囚について冤罪を主張するジャーナリスト、文化人などなどいるわけですが、その主張にはいつも疑問を感じています
不都合な情報は取り上げず、林死刑囚に有利な情報のみを取り上げ、「裁判はおかしい」とか「状況証拠だけで死刑判決にしている」などと主張しているからです
弁護士ドットコムの記事でも二村監督は死刑判決を批判しているのですが、それでも自分は冤罪説に疑問を感じます


「林眞須美は激高していない」 和歌山毒物カレー事件の検証ドキュメンタリーが暴く真実とは?
(前略)
●取材を重ねるにつれ、検察への不信感が大きくなった
――林眞須美さんの故郷を海から空撮する冒頭シーンやイメージ映像など、映像的な工夫も感じられる作品でした。
最初はテレビでやりたかったのですが、企画が通らなかったので、映画にする前に海外のメディアで発信するのはどうかと考えました。
当時、性被害を受けたと訴えていたジャーナリストの伊藤詩織さんが発表した著書『Black Box』は、BBCがドキュメンタリー番組として報じたことで、逆輸入的に日本でも話題になり、その後の動きにもつながりました。
和歌山毒物カレー事件も、林眞須美さんに対する世間の強烈なイメージがあることで、たとえ取材した事実を並べて冤罪の可能性があると訴えたとしても、誰も取り合ってくれないことは容易に想像できたので、海外からアプローチできないかと。
そうなると、日本のいわゆるテレビ番組的なドキュメンタリーのつくりではなかなか見てもらえないと、リサーチする中でわかってきたので、いろいろな方にアドバイスをもらいつつ、映像的にも海外で受け入れられるものを目指しました。
――取材はどのように進めたのでしょうか。
1000ページに及ぶ一審や、二審、最高裁の判決文、供述調書、林眞須美さんが提起した複数の民事訴訟の資料を読んで、それらに登場する人物にあたっていきました。作品では直接触れていませんが、その過程でおかしいと思ったのが、彼女がヒ素を入れた動機についてです
検察は初公判の冒頭陳述で、林眞須美さんが事件当日、ガレージで調理していた主婦たちに激高して、カレーにヒ素を混入した「無差別殺人」だと主張しました。けれど、私が直接、話を聞いたその場にいた主婦は、そんな様子はまったくなかったと言います。
たしかに林眞須美さんがガレージに来る前、噂話はしていたけれど、聴こえるような声ではなかったし、彼女の様子はいたって普通で、激高などしていなかった。取り調べでも、そんな話をしていないのに、なかったことが事件の動機にされて、ショックだったと言いました。
――話が捏造されているという。
殺人事件において大切な「動機」を、根拠なく主張していた検察に対して不信感を抱きましたし、初公判翌日の新聞の一面には「激高してヒ素混入」と出ました。最終的に、裁判では事実と認定されませんでしたが、新聞の読者は「彼女が激高してヒ素を入れた」と思ったままです。最高裁を経ても動機は「未解明」という事実は、一般的にほとんど知られていないと思います。
また、映画に登場する目撃者以外にも別の目撃者による証言があって、検察は供述調書も作成していたのですが、(検察側にとって)他の証言と矛盾する点があり、都合が悪いと考えたのか、裁判では証拠として提出されていません。
(以下、略)


裁判は検察側が犯行を立証し、弁護側がその立証に反論するものであり、裁判官が検察側と弁護側のどちらの主張に分があるか判断するものです
なので、検察側が立証に資する証言・証拠を裁判に提出するのは何も異常な行為ではありません。立証内容を否定する物的な証拠を検察が隠匿するのはダメですが
二村監督は目撃者証言の中で、検察の筋書きに反する内容に供述調書を検察が提出しなかったのを問題視していますが、それも数ある目撃者情報の1つであり、判決を左右するほど決定的な証拠ではありません
引用した弁護士ドットコムの記事を読んだ方の中は、「これは冤罪事件だ」と思う人もいるのでしょう。そう思わせる記事のまとめ方ですし、ドキュメンタリー映画も「冤罪事件だ」と印象付ける作りになっているのだろうと想像します(自分は映画「マミー」を見ていませんので)
ただ、冤罪であるとの主張にせよ、「裁判は仕組まれたものだ」とする陰謀説にせよ、事件の流れを見れば疑うしかない主張です
何度も当ブログで書いていますが、1審の和歌山地裁で林死刑囚は黙秘を貫きました。冤罪であるならなぜ1審で無罪を主張し、検察側の立証に反論しなかったのでしょうか?
弁護士の法廷戦術で、1審は検察の手の内を見るためわざと反論せず黙秘を貫いた…とか想像もできますが、実際のところは判りません
続く2審の大阪高裁では、林死刑囚は公判の場で近隣に住んでいた主婦2人の実名を挙げ、ヒ素を混入させた犯人だと名指しします。もし林死刑囚が冤罪であり、逮捕された時点で真犯人を知っていたのならなぜ取り調べ段階でそう主張しなかったのか、謎です。2審で唐突に真犯人だとする2人の名前を出す行動も意味不明すぎでしょう。2人のうち1人は臨床検査を請け負う会社に勤務しており、試薬でヒ素を扱う機会があったと林死刑囚は主張したのですが、2人の主婦は犯行に関与していないと明らかになっています
二村監督が裁判記録を読んでいるなら、この2審での林死刑囚の発言も承知しているはずです。が、ドキュメンタリー映画では取り上げていないのでしょう。林死刑囚冤罪説の妨げになるからと、排除したのでは?
こうしてドキュメンタリーと言いつつも、冤罪説に都合の悪い事実は排除し、視聴者に冤罪だと思わせつ主張だけを繋げて作品に仕立てたのでしょう
これも状況証拠を積み上げて「冤罪である」と言い張るようなものであり、「状況証拠だけで死刑判決にした」などと批判するのは大間違いです
あるいは、「犯行動機が明らかにされていない」と二村監督は指摘するものの、本当の動機は本人にしか判らないのであり、林死刑囚が犯行動機について黙して語らないのですから、明らかになるはずはありません。あくまで推論で語るしかないのです
また、「林真須美は激昂していない」との記事の見出しですが、林真須美の長女が自分の娘に虐待・暴行を繰り返し内臓破裂で死亡させた件を見ると、怒りを抑えられない激情ぶりは母親譲りではないか、と思ってしまいます(そうだ、と決めつけるのは早計です。林真須美の長女がなにゆえ、自分の娘が死亡するほど繰り返し暴行を加えたのか、不明のままです)

「和歌山毒物カレー事件」を多角的に検証した驚愕の問題作 映画『マミー』

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