ストーカー警告 取り消し請求はできるのか?

ストーカー対し、警察はストーカー規制法に基づき口頭注意や指導を実施し、それでもストーカー行為を繰り返した場合は警告を発します。さらには禁止命令を発出し、それでもなおストーカー行為を続ける場合は摘発(逮捕)となります
ただ、法令上は口頭注意や警告は行政処分に該当しないため、警告を取り消すよう警察に求めても応じてはくれません
奈良県内に住む女性がこのストーカー規制法による「警告」を受けたのを不服とし、取り消すよう求めて裁判を起こしたと報じられています


警察からストーカー規制法に基づく警告を受けたが納得できないので取り消してほしい-。女性がこう訴える訴訟の控訴審判決が26日に大阪高裁で言い渡される。とはいえ高裁で争われているのは、警告を裁判の対象にできるのかという前提部分。1審奈良地裁では「できない」とされ、ストーカー行為の有無の判断には至らずに門前払いとなった。女性側は「警告を受けた影響は重大なのに救済の道がないのは問題」と主張しており、判断が注目される。
原告は当時研究者を目指す大学院生だった中国籍の女性。同じ研究室の先輩男性が奈良県警に相談したことで、令和4年6月、ストーカー規制法に基づく警告を文書で受けた。2月に県警から口頭注意を受けていたのに「できれば今日話させていただきたいです」などとメッセージを送ったのが理由だった。
女性側によると、恋愛感情を持っていたのはむしろ男性の方との認識で、口頭注意も寝耳に水だったが、男性と関わらないように気を付けていた。しかし、研究活動に支障があり、メッセージを送ったというのが経緯だと説明する。
警告後、指導教授からは研究室の活動への参加を禁止された。経緯を説明しても、現に警告を受けている以上、聞き入れられなかった。将来への不安もあり、心身に不調をきたしたという。
女性は「誤解を解きたい」と提訴したが、奈良地裁は昨年10月、ストーカー行為の有無を審理しないまま訴えを退けた。
壁になったのは、行政相手の取り消し訴訟の要件である「処分性」。裁判で取り消しを求めることができる対象は、義務を課したり権利を制限したりする公権力の行使(処分)のみとされる。地裁は警察側の主張を認め、ストーカー警告は法的拘束力がない「指導」にとどまると判断した。警告はいわば、警察からの〝お願い〟に過ぎないということだ。
「警察による警告はそんな軽いものではない」とする女性側。控訴審で、同法の警告が「処分性を有すると解すべきだ」とする阿部泰隆・神戸大名誉教授(行政法)の意見書を提出。阿部氏はこの中で、警告を受ければ銃刀法の許可を得る資格がなくなるなど、ほかの行政指導と比べた負担の大きさを根拠に「救済方法が必要」とし、最高裁判例も権利救済の観点から柔軟に処分性を判断していると述べた。
一方で警察側は、警告より重く、違反した場合の罰則もある「禁止命令」であれば訴訟で争うことができるため、この段階で救済を図ることが可能だと反論している。
26日の高裁判決で処分性が認められ、確定した場合、訴訟は奈良地裁に差し戻され、ストーカー行為の有無を巡る審理が行われる見込み。
(産経新聞の記事から引用)


裁判の争点
まずこの裁判で何が問題視されているのか、を自分なりの解釈で説明します
国や地方自治体が行う行政処分・認可・認可の取り消しといった行政行為については、不服の申し立てや審査請求の手続きの機会を設けなければならない、というのが現代の行政法の考え方です。日本でも国民の権益を保護するためさまざまな行政手続きに関し、不服の申し立てができるよう制度が設計されています
しかし、上記のようにストーカー規制法に基づく指導や警告は最初から行政処分と設定されていなかったため、不服申し立ての制度がありません
これでは警察の判断だけで一方的に警告が発出されてしまい、ストーカー扱いされる結果になります。なので、警告は実質、行政処分に当たるから取り消し可能な扱いにすべきだ、というのが本件裁判の趣旨です
ストーカー扱い
事件の詳細が不明なので何とも言い難い裁判です。おそらく奈良県警は研究室(国立奈良先端科学技術大学院のような大学なのか、奈良県立橿原考古学研究所のような研究施設なのかは不明です)の男性のみから事情を聴取し、女性の側がストーカー行為を繰り返したものと判断し、警告を発したのではないかと推測されます
本来なら警告の前段階である口頭注意や指導の際に双方から事情を聴取すべきだったのが、十分にしていなかった可能性があるのでは?記事では女性側が「口頭注意も寝耳に水だった」と述べているところからすると、奈良県警の事情聴取に疑問が湧きます。奈良県警は1審の裁判で「事情聴取は適切に実施されている」と主張したのでしょうが
この件では聞き取りの記録が警察に残されているはずで、それが本当に女性の供述を採取したものなのか、警察官が後日作文したものなのか、が問題です
さて、女性の側も男性も同じ研究室に所属しているからには毎日顔を会わせるので、「接近するな」と警告したところで無理があります。これは本件に限らず、同じ職場で勤務していたり、同じ大学・学部に通う男女間でストーカー行為が起きた場合も同様です。最近では甲府市の金融機関で起きたストーカー殺人にも当てはまります
ストーカー規制法も完璧なものではないので、不都合な条文、解釈があいまいな条文があれば、改正を重ねてより良いものにするしかありません
大阪高裁が26日にどのような判断を下すのか、注目しましょう
追記:大阪高裁は「ストカー規制法に基づく警告は行政処分に該当しない」との判断を示し、訴えを退けています
「警告」の取り消しを求めた訴訟でしたが、「警告」が行政処分ではないと判断されるとこれを取り消す法的な根拠はなく、取り消しができません
女性の側は「誤った事実認定による警告を受けストーカー扱いされたため、研究室に出入りを禁じられ、研究活動ができなくなった」として、地位確認や損害賠償を求める形で訴訟を提起した方が(権利を侵害されたと実害を強調する)、まだ勝ち目があったのかもしれません

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