中国アイドルアニメ 劇場版『Re:STARS』日本公開もコケる

中国では日本を上回る数のテレビ用アニメーションや劇場版アニメーションが作られており、量で圧倒するほどです。が、質のほうが伴わず、一部の幼児向け作品が低価格でアジアや南米に輸出されるだけで、世界中で大ヒットとなるような作品を生み出せないままです
それでもここ最近は年に数本、日本の深夜時間帯に放映される作品が登場し、何とか日本のアニメ市場に食い込もうと努力しているようです
ただ、世界一シビアな日本のアニメファンを納得させられる水準の作品を作るのは至難の技で、まだまだ足りないものがある…と感じます
昨年夏に公開された劇場版『Re:STARS~未来へ繋ぐ2つのきらぼし~』は、売り込みに随分と熱を入れた(宣伝費もかけた)ようですが、夏休みの大型作品公開のあおりを受け、興行成績では20位以下とあえなくコケてしまいました
同時期に公開された作品が、『君たちはどう生きるか』、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』、『劇場版アイドリッシュセブン』など並んでいますので、埋没するのは仕方がないようにも思います
劇場版『Re:STARS~未来へ繋ぐ2つのきらぼし~』は以下のようなストーリーで、先行版であるテレビシリーズも日本で放映されています

18歳の男子大学生、チン・ザーは、ある日、トップアイドルである双子の姉、チン・ヤーに、代わりにステージに立ってほしいと頼まれる。 わがままな姉の頼みを断れず、姉のふりをして活動するチン・ザーだったが、スポンサーを怒らせ、芸能界から干されかねない事態に! トップアイドルの地位を奪還すべく、チン・ザーは芸能界という特殊な世界で奮闘するが…。 姉弟が入れ替わり、アイドルとして生活する、青春アイドル・コメディ!

という、男女入れ替わりの青春アイドル・コメディだったのですが、いまいちウケなかったようです
この作品についてエンタメ社会学者中山淳雄が以下のように言及しています

アジア中に浸透する日本アニメの想像力
――『Re:STARS』は、原作もアニメーションも中国製です。近年、中国の二次元コンテンツは大きく成長しており、例えば『原神』などの中国ゲームは日本国内で多くのファンを獲得しています。この傾向に関して中山先生はどうお考えでしょうか。
中山:これは「Z世代」がキーワードになると思います。この世代は中国や韓国に対してマイナスのイメージもプラスのイメージも持っておらず、すごくニュートラルで純粋に面白いものは受け入れるようになっています。ゲームでは『荒野行動』(2017年)あたりから中国ゲームが浸透していき、今『原神』(2020年)や韓国発テンセントリリースの『勝利の女神:NIKKE』(2022年)が大ヒットしています。TikTokも若い世代は当たり前のように使っていますよね。
こうした動きは70年代のアメリカと日本の関係に似ているなと思います。当時のアメリカ人は日本に対してやはり抵抗感を持っていた人が多かったですけど、若い世代は良いものは良いと日本のソニー製品、パナソニック製品を違和感なく受け入れていきました。そうしたことが今、日本とアジア各国をめぐって起きているのだと思います。
――『Re:STARS』は中国アニメですが、日本的なアニメーションスタイルを用いて制作されています。双子の男女逆転やそれに伴う中性的な魅力というものは、日本の漫画やアニメによく見られるものですね。
中山:そうですね。江口寿史さんの『ストップ!!ひばりくん!』は ”男の娘(おとこのこ)”を描いた先駆け的な作品ですが、こうした作品が登場したのが80年代です。『Re:STARS』にはそういう日本が元気だった時代のアニメの匂いというか、日本らしい文化を感じますね。
――男女が入れ替わるアイディアには『らんま1/2』っぽさも感じますね。これも80年代の作品です。
中山:本作はわりとドタバタコメディのタッチがありますが、こうした明るい作品は日本の80年代みたいな前向きにドライブしている時代に集中する傾向があるんでしょうね。
本作はアニメーションの表現的にもマンガ的な誇張や大袈裟な表現など、80年代から90年代の日本アニメにあったような懐かしさが全体に感じられます。ただ、懐かしさとともにテーマとしては新しい面もあるように感じます。
――どんな点で新しいでしょうか。
中山:ユニセックスの物語と言えますし、”男の娘” 的なものを描いています。公式にはゲイの物語が厳しく禁止されている中国からこういった作品が出てくるというのは興味深いですね。
先日BL研究のためにタイに行ってきたのですが、現地では『魔道祖師』など中国のBL小説が日本のBLマンガ以上に輸入されているんです。BLの規制が厳しいはずの中国でそういった物語が非公式にたくさん生みだされていて、国内というよりASEANの市場を当てにして発展している。この作品も ”男の娘” 的なイメージを売りにした物語を、そうしたユニセックス物語ではアジアの先端にあった日本市場に逆輸入するようになる、という事象自体がとても面白いことだと思います。
(以下、略)

劇場版『Re:STARS 〜未来へ繋ぐ2つのきらぼし〜』 本編冒頭シーン

本編を見ていないので中身についてどうこう言及するつもりはありません。上記の記事で中山淳雄は「日本アニメの影響が浸透している」とのコメントしています。日本のテレビアニメを見て育った中国のアニメーターが作品を作っているのはそのとおりでしょう。が、自分としてはこの美少女アイドル・アニメ風の作品をよくも中国で作ったものだと感心します。日本でも「アイドルマスター」や「ラブライブ」など、美少女アイドル・アニメのジャンルが確立されており、その影響についても中山淳雄の突っ込んだ見解を聞きたかったところです
中国共産党の官僚たちが青筋立てて文句を言いそうな題材なのですが、「まあ、これもありなんじゃね」と許可を下したのか?
ユニセックスは時代に潮流と中山淳雄は指摘していますが、中国ではBL物を目の敵にし、BL小説作家に有罪判決を下して刑務所に放り込むような国です。ユニセックス表現は風紀を紊乱させるものとして、犯罪扱いしている中で検閲を通したというのが驚きです
ただし、政治的な思惑で検閲基準がどうにでもなる国ですから、今後もこうした男女入れ替わりラブコメが作れるのかどうかは不明です

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