四谷大塚盗撮事件 森被告の言い分の奇妙さ(2)

前回触れたように、公判での森崇翔被告の言い分について、自分が違和感を覚えたり奇妙と感じた部分を取り上げます
森被告は公判中ですが既に保釈されているのでしょう。起訴内容を認め、事実関係で争わない姿勢を示しているため、逃亡や罪証隠滅のおそれはないと判断されたためです
そこで性依存症の人に認知行動療法を実施するクリニックに通院を開始し、治療を受けている段階だと推測されます(明確にそう書かれた報道は見ていませんので、自分の推測です)
ただ、そこで知り得た認知行動療法の考え・取り組みの情報を織り交ぜて、公判の場で供述を作っている…というのが自分の感じるところです
証人として公判に立った精神保健福祉士の男性が、「森被告は小児性愛者のチャットメンバーから盗撮動画への賛同を受けたことや、同じく児童の盗撮に関与していた職場の先輩=性的姿態撮影等幇助罪で罰金30万円の略式命令=が盗撮に好意的だったことから罪悪感が薄れ、『認知のゆがみ』にいたった」と説明しているのですが、森被告もその見解を取り込んで自身の犯行の背景を語っている節があります
自己洞察と反省の結果見出したものではなく、他人から指摘された見解をそのまま受け売りしているところが問題です

ヒリスリックブルーのナオキ
ロックバンドとして人気のあった「ヒステリックブルー」のナオキが複数名の女性に性的暴行を繰り返したとして逮捕・起訴され、実刑判決を受けて山形刑務所に服役しました。そこで認知行動療法のプログラムを受講しています
このプログラムが彼にはしっくりきたのでしょう。自分はもう性犯罪を繰り返さないとの自信を持って出所した、と想像されます
しかし、再び夜道で女性に襲いかかり負傷させる事件を起こし、逮捕・起訴されました。それからの経緯は当ブログで書いていますので繰り返しません
月刊誌「創」の篠田編集長に宛てた手紙では、自分は認知行動療法プログラムを受講し、自分の問題点を理解しているし、自分をコントロールできていた…とする内容です。そこには認知行動療法プログラムへの信頼が見られるわけですが、同時に過信とも言うべき思い込みも散見されます。山形刑務所では出所後、社会復帰後も継続して性依存症の自助グループに参加するなりカウンセリングを受けるよう指導していたのですが、彼は自助グループに参加しないままでした。「自分はもう大丈夫」との過信が、再犯を招いたとも考えられます
ただし、これは山形刑務所の認知行動療法が間違っている、という話ではなく、社会復帰後も継続した働きかけが必要なのに、それを怠ると再犯に至る場合があるという話です

性犯罪者支援団体代表
同じように山形刑務所で認知行動療法プログラムを受講したものの、再び多くの女性に強制性交を繰り返したとして逮捕されたのが、一般社団法人「さなぎの樹」代表者です
◆   ◆   ◆   ◆
「樹月カイン」なるペンネームで活動していた男(48)は、月刊誌「創」(平成30年11月号)が企画した座談会で、将来の展望をこう語っていた。
性犯罪で13年間服役し、当時は出所したばかり。刑務所で再犯を防ぐための「性犯罪者処遇プログラム」(処遇指標の符号から『R3』の通称で呼ばれる)を受講した体験を語り、「私の場合はR3だけじゃなく個人的に10年間それなりの訓練を続けてきた」と、性衝動のコントロールに自負心すらのぞかせていた。
(中略)
男が受講した「R3」は心理療法の一種である認知行動療法をベースとしたプログラムだ。何が性的衝動を呼び起こす「引き金」となるかを知り、例えば「女性も喜んでいる」といった性犯罪者特有の認知のゆがみを修正する。そして日常生活の中で「引き金」を避け、遭遇してもコントロールする技術を学ぶのだ。
(産経新聞の記事から引用)
◆   ◆   ◆   ◆
「樹月カイン」は刑務所で習い覚えた認知行動療法を使い、自分が性犯罪者の治療と支援をするため一般社団法人「さなぎの樹」を立ち上げました。治療を受ける側が治療を行う側に立とうという心理的な動きを、精神分析では転移と呼びます
先に上げたヒステリックブルーのナオキと同じく、「樹月カイン」には刑務所の認知行動療法がしっくりと馴染み、自分を変えることができたと思ったのでしょう。そして、受刑者から治療を行う側へと転身を図ろうとしたものと推測されます
例えばカウンセリングを受けていた人が、その方法を真似てカウンセラーのように振る舞い、友人や知人の相談に乗る…といったケースがしばしば見られます。あるいは心理学を学び演習をこなした学生がカウンセラーのように振る舞おうとするケースもあります
問題は形だけを真似ても駄目で、精神分析家ジャック・ラカンに言わせれば「分析者は無(ゼロ)に徹するべき」との姿勢を貫けるかどうか、です。精神分析で言うなら、本来分析を受けている側が自分で辿り着くべき結論を、分析者が先取りして「あなたは◯◯だから、▲▲であり、■■なのだ」とペラペラしゃべるようでは駄目ということです
「樹月カイン」がどのような人物なのか、会ったことがないので解らないのですが、おそらく「性衝動は◯◯だから、あなたは■■すべきなのだ」と指摘せずにはいられない人物だったのでしょう。そうして自分の見解を誇示し、他人からの尊敬や称賛を求めずにはいられない、承認欲求を内に抱えていた人物だと思われます

以上、長々と書きました。認知行動療法が悪いわけではなく、それを受ける側の問題です。己の成功体験を誇示したり、それを踏み越して治療する側に立とうとの欲したりするのではなく、自分の足元を見つめ社会の中で地道に生きていこうとすれば、大きな失敗は避けられるのでは?
さらに刑務所から出所後も、継続してどこか相談できる場を確保しておく必要もあります。自身の行動を第三者の目でチェックしてもらい、逸脱がないのか、歪みはないのか、助言してもらう機会を用意しておくべきでしょう
話を戻して、森被告が自身の小児性愛という嗜好がなぜ生じたのか、そこをきちんと見極めておかないといつまでも小児性愛に振り回され、人生は苦難の繰り返しになる懸念があります
表面的な行動の抑制、衝動のコントロールも大事ですが、それだけでは心許ないと思い書きました

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