スタンフォード監獄実験の話

本日取り上げる「スタンフォード監獄実験」は、人間に与えられた役割や環境が行動にも心理にも影響を及ぼす、とされた学説の根拠とされたものです。ただ、この実験が妥当な手段で行われたものであるか、実験としての厳密性を満たしたものであったのか、さまざま異論が出されています。が、一部の大学など教育機関ではこの「スタンフォード監獄実験」とその結果が真実として今でも教えられている、という実態があります
その前に当ブログでも過去に取り上げた「サブリミナル効果」についての実験について、簡単に書いておきます
映画上映の際、「コカ・コーラを飲め」とか「ポップコーンを食べろ」といったメッセージを1/3000秒ずつ割り込ませて観客に見せた結果、コカ・コーラとポップコーンの売上が大きく伸びたとするジェームズ・ヴィカリーの実験が有名です。この話はさまざまに脚色され、出回っており今でも多くの人が「サブリミナル効果」と聞けばこの実験を思い起こすでしょう。しかし、この実験は実際には行われておらず、「サブリミナル効果」の根拠とはなり得ないのが真相です。にも関わらず、現代でも真実であるかのように繰り返し語られています
さて、「スタンフォード監獄実験」について、その実験の経緯や結果の解釈を否定する記事がありますので一部を引用します


「スタンフォード監獄実験」はイカサマだった! あなたが知らない科学の真実
「看守」役と「囚人」役の被験者たちの異様な様相
再現性の危機が呼び起こした批判の目は、心理学の過去の研究にも向けられ、同じように憂慮すべき結果となった。
心理学の研究でおそらく最も有名な実験のうちの1つに、1971年の「スタンフォード監獄実験」がある。
心理学者のフィリップ・ジンバルドーは、若い男性を「看守」と「囚人」のグループに分けて、スタンフォード大学心理学部の建物の地下につくった模擬刑務所に1週間滞在させた。
ジンバルドーによると、実験開始から驚くべき早さで「看守」が「囚人」に懲罰を与え始め、あまりにサディスティックな虐待になり、予定より早く実験を終了させなければならなかったという。
「状況が人間の行動を支配する」衝撃の結果
(中略)ジンバルドーの実験は、状況が人間の行動を支配する力を示す重要な証拠とされた。
善良な人を悪い状況に置くと、物事はあっという間にひどく悪い方向に進むというわけだ。
スタンフォード監獄実験は地球上のすべての大学の心理学部で教えられており、ジンバルドーは現代の最も有名で最も尊敬される心理学者の1人となった。
イラクのアブグレイブ刑務所の捕虜虐待をめぐる米軍の元看守の裁判では、専門家として証言に立ち、スタンフォード監獄実験の結果をもとに、「看守が置かれた状況と彼らに与えられた役割が、収容者に衝撃的な虐待や拷問をおこなった理由である」と説明した。
過去のイカサマ演出を暴かれ「科学的に無意味」に
スタンフォード監獄実験の意味するところは以前から議論されてきたが、最近になってようやく、いかにお粗末な研究だったのかが見えてきた。
2019年に社会科学者で映画監督でもあるティボー・ル・テクシエは、「スタンフォード監獄実験の偽りを暴く」と題した論文を発表。ジンバルドーが実験に直接介入し、「看守」に振る舞い方をかなり詳細に指示している音声記録の未公開部分を書き起こした。
囚人にトイレを使わせないなど、非人間的に扱う具体的な方法を示唆するようすもうかがえた。
入念に演出されたこの「作品」は、明らかに、普通の人間が特定の社会的役割を与えられたときに何が起きるかという本質的な例からは程遠かった。
スタンフォード監獄実験の「結果」は長年にわたって多大な関心を集めてきたにもかかわらず、科学的には無意味だったのだ。


結論ありき
実験を主催したフィリップ・ジンバルドーは様々な批判に反論しているのですが、この実験は最初から結果ありきで、実験参加者を誘導してしかるべき結論に到達するよう仕組まれていたと見るべきでしょう
大学生を無作為に選んで看守役をやらせるとの前提がそもそも大間違いです。大学生は刑務所の看守など遭ったことも見たこともないのですから、彼らは映画やテレビドラマで見た看守を演じようとします。囚人役についても同様で、この実験では逮捕歴や麻薬使用歴のある者が除外されていますから、これも映画やテレビで見た囚人を演じようとします
実際、参加者の1人はポール・ニューマン主演の映画「暴力脱獄」に登場するサディスティックな看守を思い描いて演じた、と供述しています
なので看守たちが自然と暴力的になり、囚人役を虐待し暴言を吐くようになるのは最初から予想できたわけです
ジンバルドーはこうした学生たちの演技の故意性を否定し、学生の振る舞いは実際の看守の行動と似ており、実験結果を左右するものではなく人間の本質を示すものだと主張しています
がジンバルドーの発言自体、この実験が結論ありきで実施されたことを物語っているように自分は感じます
また、実験中に囚人役の1人が精神に異常をきたしたと伝えられているのですが、これも嘘であり、精神異常の演技をしただけと判明しています
アブグレイブ刑務所事件
このスタンフォード監獄実験は、イラク戦争後のイラク国内の米軍が管理する刑務所で行われた「イラク兵に対する虐待行為を説明する理論」として注目されました。米兵がアブグレイブ刑務所で看守として勤務するうち、イラク兵にさまざまな拷問、虐待を繰り返すようになり、大問題となった件です
ただし、これはイラク戦争の前提を考慮する必要があります。ニューヨークのトレードセンタービルがビンラディン率いるイスラム過激派によって爆破され、アメリカ国民に大きな衝撃を与えました。ブッシュ大統領は報復を主張し、大多数のアメリカ国民がこれを支持。サダム・フセインをやっつけろの大合唱となって、対イラク戦争が始まったのです。なので、大多数のアメリカ国民にとってイラク人は敵であり、米兵にとってもイラク人は敵でしかありません。なのでイラク兵に報復するのは正当な行為であり、正義だとする意識が米軍内に満ちみちていた状況です
中でもサダム・フセインに近い人物や大統領親衛隊のメンバーなどがアブグレイブ刑務所に収監されていました。米兵にすれば最も憎むべき敵が目の前にいるのですから、彼らに報復すべく虐待を始めたのです。つまり敵愾心が先にあって虐待が行われたのであり、スタンフォード監獄実験とは状況が大きく異なっており、同じものとして扱いのは大間違いです
教科書の誤り
上記のスタンフォード監獄実験と同じように、その実験手段や方法が疑わしく異論が挙がっているものとして「ホーソン実験」があります。経営学の科学的モデルのように扱われますが、必ずしも肯定的な評価で決着してはいません。詳しくは述べませんので、関心のある方は「ホーソン実験」で検索してください
このように心理学などの教科書に登場する実験でも、「本当にその結果・結論が正しいのか」と疑われる例はいくつもあり、鵜呑みにしてはいけません。「本当にそうなのか?」と探求するのが勉強です
自分が昔、使用した児童心理学の教科書には「狼に育てられた双子」の話が載っていました。インドの森で、狼に育てられた双子の女の子が発見されたのですが、こどばは話せず人間らしからぬ生活ぶりのままだったという話で、人間を人間として育てないと人間らしく生きられなくなる見本、のような扱いでした
が、これも「狼に育てられた」というのは発見した村人の思い込みにすぎず、双子は発達障害ないし精神障害があって親が育児を放棄し、捨てたところを村人が発見したというのが真相であり、狼が双子を育てていたところを目撃した者はいません
教科書だから正しいとか、学校の先生が言ったから正しいと思わず、情報を常にアップデートする必要があります

(関連記事)
狼に育てられた少女
サブリミナル効果
「刑事コロンボ」役ピーター・フォーク死去
障害児セラピーと称して暴行 余罪で再逮捕
障害児セラピーと称して暴行 初公判で容疑を認める
障害児セラピーと称して暴行 「技術は日本一」と自称
ひきこもり支援施設と親が敗訴 強引な連れ出しは違法
ひきこもり殺人 親子の修羅場
ひきこもり支援施設を「拉致・監禁」と提訴
スクールカウンセラー配置も不登校児は減少せず