立川ホテル殺人を考える 法廷での異常な発言
2021年6月、立川市内のホテルで風俗サービス業の女性を呼び刃物で刺して殺害した上、送迎役の男性従業員にも切りつけ重傷を負わせたとして加藤聖哉被告(当時19歳で現在22歳)に、東京地裁立川支部は懲役23年の判決を言い渡しました(求刑は懲役25年)
加藤被告には自閉スペクトラム症の発達障害があり、法廷でも不規則発言を何度も繰り返し、裁判官から退廷を命じられたのが複数回にも及びます
しかし、判決では弁護人の無罪主張を退け、加藤被告の刑事責任能力を認めた上で懲役23年の判決を下しています
弁護士ドットコムがプロの傍聴人高橋ユキによる記事で、法廷での加藤被告の様子や彼の家庭事情など明らかにしていますので、1審判決後ではありますが取り上げます
「非常に残忍で悪質」懲役23年判決、元少年が31歳女性を殺害するまで 立川ホテル殺傷事件
(前略)
弁護人は、被告人が当時Bさんに対して殺意を持っていなかったとも主張していたが、検察官は「犯行に使った凶器は高度な殺傷能力を有し、被告人はこれを理解していた。生命に関わる腹部や首を、そうだと認識して攻撃している」等、殺意を持って攻撃したと主張した。
●息子の発達に無関心の両親、母は宗教活動に熱心
弁護側の冒頭陳述では詳しい生い立ちが明かされた。被告人は小学生の頃から担任教師に「クラスメイトとトラブルを起こす。課題について行くことができない」と言われていたというが、両親はこれに気づかず、また関心を払わなかった。
高校生になるとトラブルが目立つようになり、思春期には複数人に対して夢精の話をするようになる。理科の実験時には「微生物を殺したい」と、レンズを下げてプレパラートを割った。こうした行為が重なり周囲から孤立していったという。
そして高校2年の頃、万引き事件を起こし、担任教師に反省文を書くことを求められたが、被告人は「万引きしたらどうなるか知りたかった」と記す。弁護人はこれを「興味関心が偏っていたことを示すエピソードで、周囲にどう見られるか想像が及ばなかった。これも自閉スペクトラム症の影響」だと主張していた。
高校時代にはコンビニでバイトもしたが短期間で辞めている。ところが両親はそんな息子をサポートすることはしなかった。母親は宗教に熱心で活動が忙しく、家族と関わりを持つことがなかった。父親は被告人が「子どもっぽいだけ」だと言い「時間が経てばなんとかなる」と考えていたという。
2021年1月には、ナンバープレートの窃盗により、家庭裁判所で保護観察処分を受ける。監察官が両親に対し、被告人を精神科に受診させることを勧めたが、父親が消極的な姿勢を見せ、その機会は失われたままとなる。
翌月、金属加工会社に入社したが、人間関係のトラブルにより4月には辞めてしまった。被告人はこれを父親に隠していたが、ゴールデンウィークの頃に、知られてしまう。この時父親は「働かざるもの食うべからず」と、被告人を激しく叱責した。
弁護人によると、こういった出来事を経た被告人は「生きる価値がないと自分を必要以上に責めるようになった」という。そして「Aさんに一緒に死んで欲しいと考えるようになった」のだそうだ。被告人はその後もハローワークで仕事を探すが、実を結ぶことはなく、そして事件を起こしたのだ……という。
(以下、略)
加藤被告の母親は息子が発達障害を抱えていると理解してはいても、その現実と向き合うのが嫌で宗教へ逃げたのかもしれません。父親は発達障害そのものを理解できていないのでは?それもまた、こどもと向き合おうとはしない親の態度です
小学生時から他の児童とは違うと教師から指摘されていましたし、家庭の中ではなおさら特異な行動が目についたはずです。早い段階から発達障害を抱えているこどもとして療育を受けていれば、少なくとも殺人事件に至るほど行動がエスカレートすることはなかったのではないか、と思ってしまいます
中学、高校と進学はしていますが、事実上のほったらかし状態であり、問題行動は治まったりしません。それでも親は「高校だけは卒業し、後はどこかに就職すればいい」と考えていたのでしょう。あるいは学校が息子を教育し、指導してくれるはずと丸投げしていたのかもしれません
しかし、いくら親が無責任であろうと犯行時19歳であり、未成年者ですから親の監護責任が問われますし損害賠償も請求されます(民法改正による18歳以上が成人として扱われるようになったのは2022年4月1日からで、犯行は2021年6月です)
さて、上記の記事で引用から省略していますが、加藤被告は判決を言い渡された後、「控訴、控訴します」と叫んだそうですから、判決の重さを理解するだけの判断力はあったのでしょう
ただ、控訴したところで無罪判決が出たりするはずもなく、加藤被告は長期間の受刑生活を送ることになります
こうした傍聴記事は新聞メディアらが取り上げない細部の情報まで書いてくれるので、ブログ主としては大いに助かります
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