京都アニメーション放火事件 死刑を問題視

昨年は死刑の執行がゼロのままでした。法務大臣や副大臣がスキャンダルを原因として更迭され、世間の反応を伺った上で死刑執行は見送られたのでしょう。このように政治家のスキャンダルに絡み死刑執行が見送られるのは行政の停滞を招くのであり、由々しき事態です
もう1つ、死刑執行を見送る要因となったのは袴田事件の再審でしょう。静岡県警が証拠を捏造したと暴露されており、この段階で確定死刑囚の死刑を執行すれば「国側は何も反省していないのではないか?」と批判を浴びるのは明らかです
そんな世間の空気の中で京都アニメーション放火殺人事件の青葉被告に、京都地検は死刑を求刑しました。弁護側は死刑制度そのものを批判し、青葉被告の無罪または減刑を求めています
全部で22回開かれた公判の中で、検察と弁護側の死刑に対する主張を振り返っておくことにします


検察側の主張
刑を決めるにあたり重視すべき事情を述べる。まず、罪質。筋違いの恨みによる類例なき凄惨な大量放火殺人事件であること。2つ目に、被害結果の重大性。被害者の多さや亡くなった被害者が負った肉体的・精神的苦痛、そして殺人未遂の被害者が負った後遺症、精神的苦痛。被害者がどのような方だったか。ご遺族の精神的苦痛や京アニが受けた打撃。弁護人は建物の構造により被害が拡大した側面を主張する。らせん階段や屋上への扉の開閉状況は被告の責任を軽減する理由になるのか。
3つ目は犯行の計画性や態様の悪質性。すなわち、ガソリンを用いた放火の危険性や残虐性。4つ目は動機。京アニへの筋違いの恨み、動機と現実の出来事・パーソナリティーとの関係。5つ目は遺族・被害者の処罰感情。6つ目は本件の及ぼした社会的影響。最後は、被告に有利に斟酌(しんしゃく)すべき事情があるか否か。
弁護側の主張
検察側は死刑を求刑する可能性がある。死刑を科すか否かを判断しなければならないという前提で、審理に臨んでいただきたい。念頭に置いてほしいことが2つある。
まず、残虐な刑罰の禁止について。昭和23年の最高裁判決で死刑について、「一般に残虐性を有するものと認められる場合には、残虐な刑罰といわねばならぬ」と示された。死刑が残虐な刑罰に当たるかを考えて審理に臨んでください。
次に、死刑がある理由。人を殺すことは悪いことなのに、なぜ廃止されないのか。なぜ死刑が正当化されるのか。それを考えてほしい。
その理由は「目には目を」ということでしょう。犯罪の予防、正義の実現、被害者や遺族の満足、世間の納得でしょう。このことを考えながら審理に臨んでいただきたい。
被害者感情の立証も始まる。被害者や遺族の意見陳述は証拠そのものではない。しかし非常に人数が多いので、われわれは多くの悲しみ、怒りに触れることになる。分かるがゆえにさらに分かろうとする危険がある。それが事実関係で示された証拠に対する認識を曲げてしまう、へし曲げてしまう危険があるのではないかと心配する。
(産経新聞の記事から引用)


赤字で表示した部分、弁護人が「被害者の意見陳述はあくまで被害者感情の程度を示すためのものであって、証拠ではない」と言い切っているのがすごいなと思います。法廷に立って被害者遺族がその悲しみ、無念、未練を訴える時に、「あなたの意見は証拠としての価値はない」と冷水を浴びせるような発言はなかなかできないものです。それを敢えて口にする(裁判員に向かっての発言で、被害者遺族の主張に心を惑わされてはダメだとの念押しですが)のは簡単ではないはずです
ただし、死刑が残虐な刑罰かどうかというのは裁判員の預かり知らぬところであり(死刑執行の責任、死刑執行のあり方までも裁判員に負わせるのは酷でしょう)、こうした発言は裁判員を脅し、萎縮させかねません
弁護人の発言に被害者遺族が怒りを表明したのは当然でしょう。ただ、弁護活動目的の発言としては裁判官が許容しています
各メディアとも弁護人の発言はスルーしており、「死刑求刑に反対だと主張した」程度の記事に済ませているわけですが
これだけ多くの被害者を出した事件で死刑を求刑するのは妥当な判断ですし、判決もそうあるべきだと考えます。公判でのやり取りを通じて、青葉被告は決して話が通じないモンスターではない(異常者ではない)と明らかになりました。もちろん、それが青葉被告が重度のやけどを負いながらも、懸命の医療措置によって生命を取り止め、自身の犯行について冷静に考える機会を得たからです。犯行時の青葉被告は周囲の説得に耳を貸そうとはしない人物でした
弁護人の勢いというか思想からすれば、1審で死刑判決が言い渡されても控訴し、高裁で争う気満々のように映ります。それだけ真摯に被告のことを思い、弁護活動をしているのでしょうが

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