「韓国の宮崎駿になる」と志す若者

アニメーションの話題を続けます
毎年1月には、新年の抱負やら今後の展望を予想した記事が多く見られるのですが、そうした未来の予想が的中する確率は驚くほど低かったりします。ほとんどの方は未来予想の記事を読み飛ばしたり、新年の景気づけとして大風呂敷を広げただけだろうと受け流し、予想が外れたとしてもあげつらったりはしません
こうした「今後の展望」ではかつて、2005年から2010年頃にかけて「中国や韓国は国を挙げてアニメーション産業育成に取り組んでおり、日本に追いつき追い越すのは時間の問題だ」との予想が繰り返し語られたものです。当ブログでもしばしば取り上げてきました
が、予想に反して韓国アニメからヒット作品は生まれず、アニメーション産業の規模も日本の2兆9200億円に対し、韓国は800億円規模と差は大きいままです。中国ではアニメーション作品の制作本数が爆発的に増えたものの、中国国外への波及は少なく、世界的なヒット作品を生み出せないままです
さて、そうした状況下で韓国の若手クリエイターらが、「韓国の宮崎駿を目指す」と題した記事で紹介されていますので取り上げます(記事は2022年5月のものです)


「アニメーションは子ども向け」というイメージが強い韓国で、スタジオジブリは例外の存在だ。日本の大衆文化が開放されつつあった2000年以降、ほぼ全ての長編作品が劇場公開されて幅広い世代に受け入れられ「ハウルの動く城」は300万人が鑑賞した。
ソウルでアニメ広告や絵本の出版を手掛ける会社を経営する李鐘焄(イジョンフン)さん(33)は「創作を志す若者たちにとって、ジブリは夢の原動力になる」と話す。
韓国アニメーション高等学校で学んでいた李さんは当時、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」に衝撃を受けた。自然の中に神々が宿る世界観や、作品ごとに込められた深いメッセージ性。「アニメだからこそ表現できる世界だ」。米国などで主流になった3Dにはない、独特の描写や感情表現ができる2次元アニメにこだわる原点になった。
「ジブリのように登場人物と物語、世界観が相互につながって生まれるのが良い作品」。そう意識する李さんが17年に発表した約9分の短編アニメ「星が輝く夜に」は、複数の映画祭で受賞。今後の目標は長編の制作だ。
韓国は映画産業が盛んだが、国産アニメのヒット作は少なく、収益を得るのは難しい。李さんは学生時代からの友人との間で、オリジナル長編アニメの監督になる夢を「韓国の宮崎駿になる」と表現している。
韓国が強みを持つゲーム産業の分野でも、ジブリとの縁を感じる話題がある。
ソウルに本社を置くゲーム会社「ネットマーブル」は昨年、スタジオジブリが作画を手掛けた日本のロールプレーイングゲーム「二ノ国(にのくに)」をスマートフォン向けゲームにリメークした。二ノ国を開発したゲーム会社「レベルファイブ」(本社・福岡市)の依頼で、開発に必要な情報や素材の提供を受けた。開発プロデューサーを務めた李仁奎(イインギュ)さん(42)は「ジブリ風のグラフィックが何よりも魅力だった」と振り返る。
これまでに韓国、日本、台湾などで配信され、リリース直後にダウンロード数1位を記録。今月25日には中国、ベトナムを除く全世界でリリースされた。二ノ国は正式なジブリ作品ではないが、海外展開に際しては、世界中で親しまれる「ジブリの雰囲気」が伝わることが重要という。
ジブリ作品は欠かさず見てきた李仁奎さんのお気に入りは「紅の豚」だ。「テーマ性があるキャラクターと、印象深い音楽が組み合わさることでジブリ独特の魅力になる」と話す。20代初めから携わってきたゲーム業界で生まれたジブリとの縁に満足し、「挑戦的でやりがいがある仕事だった」とほほ笑んだ。
(中日新聞の記事から引用)


別段、宮崎駿を目指さなくてもよいと思うのですが…
彼らが憧れているのは宮崎作品ではなく、宮崎監督でもなく、「スタジオジブリのような強固な収益基盤を持ったビジネス」なのだろうと推測します。ジブリというブランドだけで商売ができ、稼げる仕組みを手にしたいと
しかし、「ジブリの雰囲気」を真似ることはできても、それ以上のものは作れないのでは?
最新のゲームやテクノロジーを学び、吸収することには熱心でも、ベースとなる教養が圧倒的に不足しているのだろうな、と思います
例えば宮崎作品の「風立ちぬ」には、堀辰雄の小説「風立ちぬ」や「菜穂子」が下敷きとされ、堀越二郎の自伝、さらにトーマン・マンの小説「魔の山」などが引用されています。が、上記の記事に登場する韓国の若いクリエイターはこうした本を読んではいないのでしょう。別段、堀辰雄の小説でなくともよいのですが、こうした名作と呼ばれる文学作品で教養と培い、視野を広げ感性を磨くのは必須です。宮崎駿や押井守らの世代を本をよく読み、吸収した教養を武器に戦うことができた人たち、といえます。それに反し、韓国の若者は本を読まないことで有名です
微細で明彩な背景描写を真似て「ジブリの雰囲気」は出せても、教養不足のままでは宮崎駿のような強固な思想に裏打ちされた作品はつくれません
評判の高い児童文学作品を素材に、少年と少女が魔法の力で世界を救う…といったストーリーを劇場版アニメーションに仕立てるのは可能だとして、それがヒットするとは限りません。あくまでジブリ作品の亜流でしかないと言われるだけです
取材をした記者自身、そんな認識は持たないまま記事にしたのでしょう

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