中国で「SLAM DUNK」がウケた理由 自己像探求

劇場版アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』や、それ以前のテレビアニメ『SLAM DUNK』がなぜ中国で人気を得たのか、という話です
以下、東京新聞の記事を引用するのですが、記事の最後に北京大学の古市雅子准教授のコメントが登場します
この古市准教授は日本の漫画やアニメが中国でどう受け入れられているのか、これまでにもさまざまな記事、レポートをメディアに書いている人物であり、日本のメディアにすれば使い勝手のよい人物なのでしょう
月刊誌「中央公論」に古市准教授は、「『SLAM DUNK』や『セーラームーン』が中国で人気だったのは昔の話であり、今では…」という記事も書いています。その見識を批判するのは野暮なのでしません。ただ、「日本アニメは昔は中国で人気だったけど、今では中国の若者への影響力も低下して…」と書くのはいささか、本質を見誤っているのかな、という気もします。中国国内では中国製アニメが台頭していると言われながらも、表面的な流行り廃りを追うだけは、根底にある問題を掴み損ねてしまいます


中国で4月下旬、バスケットボール漫画「スラムダンク」の映画「THE FIRST SLAM DUNK」が公開され、ブームが再燃している。スラムダンクを青春の象徴として育った1980〜90年代生まれの世代が映画館に押し寄せている。公開から約2週間で興行収入が6億元(約120億円)を突破する大ヒットとなっている。
◆90年代~2000年代に最初のブーム
北京中心部の映画館では朝から深夜まで、中国語版と日本語版合わせて十数回上映されている。仕事の合間に見にきた会社員の傅ふさん(28)は「(映画版の主人公の)宮城リョータが、生まれ育った家庭での困難を成長の動力に変えた姿に感動した」と笑顔を見せた。小学生のころからのファンといい、「勉強や生活で絶望的な気持ちになった時に励みになった。決して諦めてはいけないと教えてくれた」と振り返る。
中国ではアニメ「スラムダンク」が90年代後半から2000年代に各地方のテレビ局で放送された。台湾で放送された吹き替え版が中国大陸に流入したとみられ、最初のブームとなった。上海の漫画編集者の張亮さん(46)は「スポーツを描いた作品が少なかった。わかりやすい内容でギャグの要素があり、受け入れやすかった」と話す。
◆コスプレも人気、「応援団」も
中国メディアによると、映画を見たいという人の6割が男性で、25〜39歳が8割を占める。子どものころにアニメ版に熱狂した年齢層だ。北京市内の書店は漫画全巻セットが並ぶ特設コーナーが設けられ、漫画に登場するバスケットボールシューズなども展示された。
ブームはネット上でも広がる。交流サイト(SNS)には登場人物のコスプレ画像があふれる。映画館で「全国制覇」「流川命」などの垂れ幕を掲げ、主人公らの所属する湘北チームに声援を送る「応援団」のメンバーも募集されている。
今回の映画版ではアニメ版になかったインターハイの試合の場面が描かれている。北京市の女性(35)は「生きているうちにインターハイの場面を見ることができてうれしい」と喜ぶ一方、ファンだという登場人物の三井寿が「宮城の陰に隠れて残念」とも話した。
中国での日本アニメ文化に詳しい北京大の古市雅子准教授(45)は「今回の主人公の宮城リョータの物語に共感し、頑張ろうという気持ちになるのは日本も中国も同じだ」と指摘する。一方で「教科書と問題集に囲まれ、休み時間に空を見上げるのが中国の青春。学生たちは登場人物の努力を自分の勉強体験に置き換えて見る」と受験競争の激しい中国独特の見方があるとも話した。
(東京新聞の記事から引用)


日本のアニメーションが優れている、と書くだけでは何ら本質を言い当てたことにはなりません。『SLAM DUNK』が何を描いているのかと問うなら、それは「己が何者であるのか探求する物語だ」ということです
少年期のこどもはまだ何者でもありません。何者かになりたいと欲しつつも、何者になれるのかも判らず、何者になるべきかも判らない状態にあります。『SLAM DUNK』は桜木花道を主人公としていますが、登場する高校生たちが皆、自分は何者であるのか探し求めて努力し、挫折し、それでもなおまた足掻き続けようとする話です
表現としては「自己実現を目指す物語」と形容する手もあるのでしょうが、自分は「自己実現」という言い方が好きではないので、「自分が何者であるか探求する物語」と記述しておきます
もちろん、中国の視聴者が『THE FIRST SLAM DUNK』を見るため映画館に足を運んだ動機はまちまちであり、こうと決めてかかるつもりはありません。TVシリーズの完結編を見たいとか、懐かしさに駆られてとか、話題になっているからとか、さまざまでしょう
ただ、作品が投げかけてくる物語の本質は「桜木花道が桜木花道であるという確信を得るための物語」であったり、「赤木剛憲が赤木剛憲という自分自身を発見する物語」であったり、「流川楓が流川楓以外の何者でもないと気づく物語」であり、同時に観客に向かって「では、おまえは何者なのか?」と問いかけてくるストーリーだと自分は思います
そう思うに至ったのは、今日1つの論文を読んでいた影響によります
今回はブログの記事を書く前に、田中雅史甲南大学教授の論文「現代日本のアニメ・漫画・小説に見られるナルシシズムと自我理想~宮崎駿・『化物語』・村上春樹・福本伸行・『魔法少女まどか☆マギカ』~」を読んでいて、「自我理想やナルシシズムと登場人物との重ね合わせが日本の漫画やアニメの特徴なのかな…」と考えていました。田中論文はなかなか興味深いので、いずれ取り上げるつもりです。関心のある方はリンクを貼っておきますのでPDFフィアルをダウンロードしてください

現代日本のアニメ・漫画・小説に見られるナルシシズムと自我理想~宮崎駿・『化物語』・村上春樹・福本伸行・『魔法少女まどか☆マギカ』~
https://konan-u.repo.nii.ac.jp/records/3530

北京大学の古市准教授の言ではありませんが、中国では「日本のアニメはもう終わった」風な意見が散見されるのも事実です。しかし、中国共産党による「日本文化は退廃的だ」とか、「日本の漫画やアニメは青少年に悪影響を与える」とのネガティブキャンペーンに反し、立て続けに日本の劇場版アニメーションが中国でヒットしているのは偶然でもなく、作品の中にあるさまざまなメッセージ、物語の幅や奥行きに示される世界観などなどがウケているからでしょう
『THE FIRST SLAM DUNK』の世界観を自身の体験に映す観客もいれば、「三井は三井。ではオレは?」と受け止める観客もいるものと推測します。中国共産党の命令が絶対という社会にあって、経済状況も悪化する閉塞感の中で、「自分は何者なのか?」と問われ、ふと考え込む若者がいても不思議ではありません。このように胸に突き刺さるような問いを突きつけてくるのが日本のアニメーション作品なのです
ただし、洗脳目的のアニメーション作品などではありませんので、観客全員にそのメッセージが届いた、などとは言いません

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