東京老人ホーム殺人 菊池被告に懲役17年判決
特別擁護老人ホーム「浮間こひつじ園」の元職員である菊池隆被告は、入所者女性(92歳)に暴行を加え死亡させた後、北海道まで逃げたところを逮捕・起訴されています
東京地裁は菊池被告に対し懲役17年の判決(求刑は懲役18年)を言い渡しています。判決前の公判について産経新聞が記事を書いていますので、そちらを取り上げます
菊池被告は幼い頃に母親が家を出てしまい、その後はギャンブル好きで粗暴な父親と継母に育てられたという生い立ちです。それでも高校を卒業し、家を離れて就職したのですから本人なりに真っ当に生きようと努力したのでしょう
ただ、人との付き合いが苦手ということもあり、ハローワークの勧めて介護施設で働くようになったとされます。が、人との付き合いが苦手な人に介護職が向いているとは思えないのであり、ハローワークの担当者の何を考えていたのか不可解です
なぜ、犯行に及んだのか。法廷での説明はこうだ。
昨年7月13日、被害者の女性が施設に入所。女性は左半身にまひがあった。幼いころから耳が聞こえないが、話すことは可能で、筆談などでも意思疎通をしていた。ただ被告によると、女性は被告への当たりがきつく「足で蹴られるなどの暴力」を受けることもあったという。
そして9月15日夜。女性が下腹部の異変を訴えたため、被告が該当箇所を確認した。「異常ありません」と伝えると、「ばかだから分からないんだ!」「ばかは帰ってください!」と言われたという。
被告によると、女性はその後も、こうした言葉を繰り返した。「カーっとなった」被告が女性の顔をたたくと、女性は「たたいたこと覚えてるからな」と発言した。
堪忍袋の緒が切れた被告は、女性の顔面を何度も殴り、腕を折り曲げるなどの暴行を加えた上、別の部屋から電気ポットを持ちだし、女性に向かって熱湯をかけた。
(中略)
法廷では、被告の生い立ちも語られた。
物心つくころには母、姉と暮らし「母にべったり甘えていた」が、小学2年のとき、母親が姉と被告を置いて家を出て行った。
被告らは父と継母に引き取られることになったが、父は暴力団の組事務所や違法賭博に出入りするなど素行に問題があり、すぐに暴力を振るったという。
「常に父の顔色をうかがっていた」という被告は、継母や姉との関係にも恵まれず、高校卒業後に家を出て自活するように。工場などで働いたが「人間関係を築くのは苦手」で、やがてハローワークで勧められ、介護施設で働くようになった。
被告の心理鑑定を行った専門家は、被告の性格について「父の影響で支配・服従関係を嫌う傾向にある」と証言。被害女性の言動への怒りで暴力をエスカレートさせた可能性があるとし「家族関係や生い立ちが、性格や言動に色濃く影響している」と分析した。
「とても明るく、優しく、社交的な母でした。私はそんな母が大好きでした」「少しでも重い刑になってほしいです。人間のすることではないです」
公判には、殺害された女性の娘も証人として出廷。厳しい言葉を投げかけたが、被告は表情を変えることはなく、被告人質問でも「逮捕直後は(遺族の)親を思う気持ちがわからなかった」と淡々と話した。
ただ、質問が母との再会に及ぶと、様子が一変した。
被告の逮捕後、弁護人が生みの母を探し出し、数十年ぶりに対面したのだという。
「母はすごく小さくなっていました。でも昔の面立ちは残っていて…。『捨ててごめんね』って謝ってくれました」
涙をタオルで拭いながら、被告は叫ぶように言葉を絞りだした。
「恨んで、恨んで…。なんで捨てたんだよと思ったけど言えなかった」「子供の時に母が大好きだった気持ちが、ブワーっと出てきた」
母への思いが再燃するとともに、事件の重大さを実感したという。
「俺が殺しちゃった! 誰かのお母さん殺しちゃったんだって思いました。取り返しのつかないことしちゃった」
弁護人に母との今後を問われると、言葉を震わせながらこう答えた。
「親孝行したいけど…。人のお母さん殺しちゃったのに親孝行とか言ったら、そんなのおかしいじゃん! 会いたいけどさ!」
(以下、略。産経新聞の記事から引用)
実母と拘置所で面会を果たし、菊池被告に心境の変化があったのは判ります
が、犯行は92歳の高齢女性の両腕をへし折り体に熱湯を浴びせるという残虐なもので、傷害致死の限度を超えた殺人行為です。懲役18年の求刑に対し判決は懲役17年ですから、菊池容疑者の生い立ちや生活状況などを情状としては認めない判断でしょう
上記の記事では、記者が実母との感動の対面や菊池被告の心境の変化を強調したかったと思われますが、裁判とは別の話です
水を差すようで恐縮ですが、長年生き別れていた親子が対面する場面は感動的ではあるものの、その後の親子関係が円滑に進むとは限りません。お互いにわだかまりが残っており、すべてを水に流してやり直すのは難しいのです
以前、テレビでは生き別れた親子を探し出し、対面させる番組があって高い視聴率を記録していました。が、感動は対面の時だけで、その後は遺産相続やら何やらでドロドロの家庭争議になるのもしばしばだったという話があります
また、本件の場合、被害者遺族は菊池被告と実母の対面劇に何ら感動するところはなく、冷めた目で見ていたはずです
被害者遺族はこれから介護施設の運営法人相手に、損害賠償を巡って裁判沙汰を迎えるはずであり、解決などまだ先の話でしょう
新聞記者が菊池被告に感情移入するのがダメとは言いませんが、裁判は綺麗事では済まされませんし、感動話では終わりません
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