福島老人ホーム殺人 傷害致死罪で懲役8年判決

続けて老人ホームでの殺人事件について取り上げます。一連の事件で、いくつか共通する問題点が浮かび上がってきます
それは暴行を受けた高齢者の体の状態について、施設側(運営管理者、施設の責任者)がほとんど関心を払っていないのと、職員間で情報が共有されていない点です
暴行を受けた高齢者が死亡時、体にいくつもの痣が認められるのに施設側は病死とか老衰と安易に判断してしまい、警察への届け出もなく検死も行われていないといった、およそ人を預かる(命を預かる)施設として自覚を欠いている対応が認められます。日常的におむつの交換や体を拭くなどしているのですから、体の変化にも気を配っていると思うのですが、実態はそうではありません
また、高齢者の体調変化についても職員間で情報が共有されてなけれなならないはずですが、事件の起きた施設では徹底されていないように見受けられます。さらに職員同士でも相互に関心を払わないのか、異常な行動など見過ごされている感があります。互いに監視せよとの指導は受けていないとしても、他の職員の行動に異常があると感じたなら上司に報告するのが組織としての常です。1人の職員の怠慢やミスが高齢者の命に関わるのですから、なおさらです
福島県小野町の特別養護老人ホームで94歳の女性が死亡し、体にはいくつもの痣が認められました。介護職員の富沢慎一(42歳)に疑いがかかったのですが本人は暴行など加えていないと否認したまま、施設を退職していました。が、警察が冨沢容疑者による暴行があったとして逮捕しています
福島地検郡山支部は傷害致死事件として起訴し(殺人としては立件見送り)、11月27日に求刑通り懲役8年の判決が下されています
冨沢被告逮捕時の報道を貼ります


事件は容疑者逮捕の2カ月前に起きていた。
昨年10月9日、個室のベッドで植田さんが亡くなっているのを冨沢容疑者が発見し、同施設の看護師に連絡した。嘱託で勤務する主治医の診断で、死因は「老衰」とされた。しかし、不審に思った施設関係者が翌日、警察に通報。警察は遺族から遺体を引き取り、11日に司法解剖を行った結果、下腹部などに複数のあざや皮下出血が見つかった。死因は一転して「外傷性の出血性ショック」に変わった。
第一発見者の冨沢容疑者は10月8日夜から9日朝にかけ、同僚と2人で夜勤をしていた。警察は10日の通報で、冨沢容疑者による暴行の可能性を告げられたため、本人や職員を任意で事情聴取したり、防犯カメラの映像を解析するなど慎重に捜査を進めていた。同施設は事件後、冨沢容疑者を自宅待機させていた。
冨沢容疑者は任意の事情聴取では事件への関与を否定。しかし、逮捕後の取り調べでは「被害者を寝付かせようとしたが、なかなか寝ずイライラした」「排泄を促すため下腹部を圧迫したが殺そうとはしていない」(朝日新聞県版12月10日付)と暴行を一部認めつつ殺意は否認した。
「殺意はなかった? じゃあ、体中にあざができていた理由はどう説明するのか。殺意がなければ、あれほどのあざはできない」
そう憤るのは、亡くなった植田タミ子さんの長男で須賀川市の会社役員・植田芳松さん(65)。芳松さんによると、遺体が自宅に戻った際、首元にあざを見つけ不審に思ったが、直後に警察が引き取っていったため体の状態を詳しく見ることができなかった。司法解剖を終え、あらためて自宅に戻った遺体を見て、芳松さん家族は仰天した。
「(司法解剖した)腹は白い布が巻かれていて分からなかったが、腕、脚は肌の白い部分が見えないくらいあざだらけだったのです」(同)
報道によると、冨沢容疑者は下腹部を押したと供述しているから、司法解剖された腹にも相当なあざが残っていたと思われる。
「誰の目も届かない個室で、母は何をされていたのか。あれほどのあざは押した程度ではできない。日常的に殴る蹴るの暴行を受けていたのではないか」(同)
そう話すと声を詰まらせ、その後の言葉は出てこなかった。実は、芳松さんはある後悔を拭えずにいた。
タミ子さんが亡くなる3日前(10月6日)、ペースメーカーの検査のため病院に付き添った芳松さんは、タミ子さんの両手にあざがついているのを見つけた。しかし、原因を尋ねてもタミ子さんは答えなかった。
「施設内での出来事や生活の様子は話すのに、あざのことを聞くと口ごもって何も言わなかった」(同)
その時は妙だなと思うだけだったが、事件が起きてみると「母の帰る場所は『つつじの里』で、そこには常に冨沢容疑者がいるから、誰かに告げ口すればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。だから怖くて何も言えなかったのではないか」という推察が芳松さんの頭に浮かんだ。
原因をきちんと究明しておけばよかった――息子として、そんな気持ちにさいなまれている。
母親の命を奪った冨沢容疑者は当然許せないが、芳松さんは同施設の対応にも疑問を感じている。
「母の世話は主に冨沢容疑者が見ていたのかもしれないが、他の職員だって世話をしていたはず。その際に母の体を見れば複数のあざに気付いただろうに、それが見過ごされていたのが不思議でならない」
逆に、気付いていながら何の対処もされなかったとすれば、それもそれでおかしな話だ。
最たる例の一つが、タミ子さんの死因をめぐる診断だ。前述の通り司法解剖では「外傷性の出血性ショック」と診断され、芳松さん家族が見ても全身あざだらけだったことは一目瞭然なのに、同施設の主治医はタミ子さんの死亡直後に「老衰」と診断していた。
これについては、町内からも「きちんと診断したのか」と疑問の声が上がっており、「主治医は運営法人と親しく、運営法人にとって不都合になる診断を避けたのでは」というウワサまで囁かれている。
主治医は町内で内科、小児科、外科などからなるクリニックを開設している。死因を「老衰」とした理由を聞くため同クリニックを訪問したが、「聞きたいことがあれば当院の弁護士を通じて質問してほしい」(看護師)と言う。ところが、弁護士の名前を尋ねると「手元に資料がなくて分からない」(同)と呆れた答えが返ってきた。
「冨沢容疑者をはじめ職員の教育は行き届いていたのか、死亡診断書の件に見られるように運営体制に不備はなかったのか等々、施設側にも問題はなかったのか見ていくべきだと思います」(芳松さん)
(以下、略。政経東北の記事から引用)


亡くなられたタミ子さんの体や腕にはそうと判る痣がいくつもあったのに、施設関係者や施設の主治医が「老衰」だと決めつけたのは不可解です。さらにタミ子さんは1度や2度ではなく相当期間繰り返し、冨沢被告から暴行を受けていたものと考えられます
さらに引用から省略した部分では、冨沢被告が各地の高齢者施設でトラブルを起こし転々と勤務先を変えていた人物、と書かれています。そんな札付きのトラブルメーカーを職員として雇用した施設側の判断も、疑問視されるのは当然でしょう
さて、冨沢被告が繰り返し暴行を加えていたとしても、暴行=殺意と認定されるわけではありません。殺意という目に見えないものを基準として殺人か、傷害致死かを区別する日本の司法制度は大いに疑問なのですが、制度として運用されている以上仕方がありません
他に目撃者がいない、いわば密室状態での犯行ですから、暴行の程度は被害者の受けた傷や痕跡から判断するしかなく、「死んでも構わない」との意志で暴行を加えたと推測するに足る証拠(多数箇所の骨折、臓器の損傷)が必要になります。なので、傷害致死罪で起訴するのが検察側としても精一杯だったのでしょう
なお、冨沢被告は懲役8年の判決を不服として控訴しています

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