犯罪被害者の心情を受刑者らに伝える制度始まる

2022年6月に成立した「刑法等の一部を改正する法律」により、刑事施設及び少年院において、申出のあった被害者や御遺族の方々からその心情等を聴取し、矯正処遇・矯正教育に生かすほか、受刑者等に伝達するという制度が新たに導入され、2023年12月1日から始まると報じられています
新たな試みですから、どこまで円滑かつ実効性をもって運用されるかは始めてみないことには分かりません
こうした制度を導入する際、事前に全国刑務所長・拘置所長会同や全国少年院長会同での検討議題であるとの通知が事前にあります(刑務所長や少年院長を集めた会議を「会同」と法務省では言います)。検討議題に沿って各矯正施設の役職担当者(概ね課長補佐以上のポストにある者)は施設長宛てに意見書を提出し、その中から「施設の意見」としてふさわしいものを選択して矯正局宛に回答する…という流れになります
以降は、全国の施設長がら得られた意見を矯正局側で分別し、局の意見として集約する運びとなります
ただし、制度運用にあたっても細則・ガイドラインなどは実施直前になって示される場合が多く、職員から不満が出るのもしばしばです。が、「法務本省が実施すると決定した」事項である以上、何が何でも実施しなければなりません


犯罪被害者の心情を刑務所や少年院の職員が聞き取り、受刑者らに伝える制度が12月1日に始まる。事件当時のつらい気持ちや、今なお続く苦しみ……。それらを率直に伝えることで、被害者が精神的な安定を得られるようにするとともに、加害者の更生につなげるのが目的だ。被害者側が求めてきた仕組みが実現するが、実施に向けた課題もある。
「受刑者らの矯正において、被害者の立場や心情への配慮を一層充実させ、受刑者らの反省や悔悟の情を深めさせる制度だ。万全を期したい」。小泉法相は今月24日の閣議後記者会見で「心情等伝達制度」を始める意義をそう語った。
制度では、刑務所の刑務官や少年院の法務教官が担う「被害者担当官」が、事件事故に遭った被害者や遺族の心情を聞き取って書面を作り、受刑者ら加害者に読み聞かせる。被害者側が希望すれば、心情を伝えられた加害者の様子や発言を知ることもできる。
暴力団の抗争や逆恨みの恐れがあるケースなどを除いて利用の制限はせず、心情を聞き取る場所は被害者らの意向を踏まえて柔軟に設定する。被害者支援団体のスタッフも同席できる。
蚊帳の外
犯罪被害者はかつて加害者の処遇状況をほとんど知ることができず、矯正手続きの蚊帳の外に置かれていた。
長期にわたって続く後遺症や経済的苦境といった苦しみが加害者に伝わっていないとの不満も強く、心情を伝える制度の創設を要望。2007年12月、まずは刑務所を仮釈放となったり、少年院を仮退院したりして、保護観察となった者を対象に導入された。法務省によると、被害者の思いを知った加害者がしょく罪意識を高め、謝罪や賠償に至ったケースもあるという。
ただ、仮釈放時には事件から相当の時間がたち、保護観察の期間が短いことも珍しくない。
被害者からは「裁判が終わった直後に気持ちを伝えたいのに、伝えられない」「制度を利用できる期間が短く、使いにくい」と改善を求める声が上がり、昨年6月の刑事収容施設法などの改正で、刑務所の受刑者や少年院の在院者も対象とすることが決まった。
刑務官や法務教官らは従来、被害者や遺族と接する機会が乏しく、「被害者の心情を十分に理解していない」との指摘もあった。法務省は、遺族の講話を聞いたり、被害者の心情を受刑者らに伝える場面を想定した「ロールプレイング」をしたりする職員研修を行い、実施に備えてきた。
同省幹部は「被害者に寄り添い、心情を丁寧に聞き取る力が必要になる」とした上で、「聞き取った内容を正確に加害者に伝えて罪に向き合わせ、更生に向けた教育をしていくことが重要だ」と強調。今後も課題が出てきたら各施設で共有し、改善につなげるという。
(読売新聞の記事から引用)


この制度は被害者の心情を予め矯正施設側が聞き取り、書面にして受刑者等に伝える制度であり、被害者が直接受刑者等と面会する制度ではありません
新制度の概要や新制度導入について法務省内で検討された事項については、あらましが公開されていますので誰でも目を通すことができます

刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・ 伝達制度に関する検討会

被害者の声を届ける、との趣旨にはもちろん賛成します。制度を運用して、不都合な点があれば修正を重ね、より良い制度に育てていく努力が現場に求められます
明治以来の「監獄法」で刑務所・拘置所が運営されていた時代は、ともかく収監して刑務作業を科すというのが大前提で、それ以外の余計なことはするなとの風潮が根強くありました。性犯罪者を集めてのディスカッションや、集団療法的なアプローチは「余計な真似」だと看守たちから言われたものです

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