京都アニメーション放火事件 精神鑑定での法廷議論(3)

世間一般の考えとしては、「青葉真司被告は死刑判決以外あり得ないのだから、さっさと判決を出せばいいのに」との意見もあると思います
ここ数回の公判は青葉被告に対して2度実施された精神鑑定を取り上げ、それぞれの鑑定を実施した医師を法廷に招いて質疑を交わす場になっており、関心のない方にとっては無駄な時間を費やしていると映るのでしょう
何度も申し上げているように自分個人の関心事なので、本日も取り上げます
前回取り上げた「青葉被告は統合失調症ではなく、妄想性パーソナリティ障害(人格障害に分類されます)」とする和田鑑定は、精神障害ではなく人格障害なのだから減刑の対象とはならないという検察側の主張に近い内容でした
今回取り上げるのは東京医科歯科大大学院の岡田幸之教授(司法精神医学)による鑑定です。これを岡田鑑定と表記します


36人が死亡し、32人が重軽傷を負った令和元年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第14回公判が26日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれ、起訴後に被告を精神鑑定した東京医科歯科大大学院の岡田幸之(たかゆき)教授(司法精神医学)が証人として出廷した。岡田氏は、被告に精神疾患である重度の妄想性障害があったとの鑑定結果を示し「妄想が動機形成に影響した」と述べた。
起訴前に鑑定した別の医師は被告について、精神疾患ではない「妄想性パーソナリティー障害」とし、妄想の犯行への影響は「ほとんど認められない」と証言した。公判の焦点である妄想を巡り、鑑定医2人の見解が分かれたことになる。
この日証言した岡田氏は、弁護側の請求を受けた裁判所の依頼で精神鑑定を行った。起訴後の令和3年9月~4年2月、1回あたり約3時間の面接を計12回行った。
岡田氏は犯行当時の被告が重度の妄想性障害だったと証言。30歳ごろから、過去に逮捕された事件に関して妄想を抱くようになったと述べた。その上で「客観的には妄想に見えても、本人からすれば妄想とは思っていない」とも指摘した。
岡田氏は、障害が放火殺人事件の動機形成に影響を与えたと認める一方、犯行は妄想によって命じられたものではないと証言。犯行当時、被告は殺人が犯罪行為であるとの認識を持っていたとも説明した。
また鑑定の際、被告が「裁判は極刑以外ありえない。早く終わらせたい」と語っていたと明かした。
次回公判では鑑定医2人に対し裁判官や裁判員による尋問が行われる予定。
(産経新聞の記事から引用)

(和田鑑定では「行為があって妄想が生じた」と判断しているのに対し、岡田鑑定ではその逆だと指摘)
岡田氏は「(精神疾患である)妄想性障害があり、犯行の動機を形成している」と異なる見解を示した》
《岡田氏は、まず被告の生い立ちを振り返りながら、公安から監視されたり京アニに小説のアイデアを盗用されたりしたとの妄想を抱くようになった経緯を説明する。その上で、被告の妄想性障害は重度で、「妄想に基づく行動への強い圧力、妄想に非常に悩まされている」状態に該当すると解説する》
《精神障害が事件に与えた影響はどうか。京アニ大賞での落選という現実の出来事が契機とはいえ、「(闇の人物の)ナンバー2」の関与といった「妄想が関わっている」と指摘。被告の攻撃性も、妄想の世界で被害を受けていると感じたことによるいらだちが影響しているとした》
弁護人「事件当時、妄想があったのか。勾留時に発展していったのか」
岡田氏「事件当時もあったと思っている」
弁護人「妄想性障害の患者が自分の妄想について語りたがらないというのは珍しい?」
岡田氏「珍しくない。本人としては事実だが、他人から見たときに、にわかに信じがたいというのは本人も分かっている」
《被告人質問では、弁護人から「青葉さんの見ている現実と、他の人の見ている現実が違っているとしたら、どう思いますか」と問われ、被告が「見ている現実が違う?それはないんじゃないか」と困惑気味に答える場面もあった》
弁護人「被告は訂正不可能なほど(妄想が)現実だと確信していた」
岡田氏「そうです」
弁護人「(アイデアを)パクられたという現実がないことを(被告は)どう受け止める」
岡田氏「受け止められないと思う。ここを否定されるのは被告にとって死活問題」
《尋問は、完全責任能力を主張する検察側に移る》
検察官「パーソナリティーと妄想の割合、どちらがメインだったか」
岡田氏「割合や数字で表すことはできない」
検察官「たとえ怒りがあっても、復讐(ふくしゅう)をするかやその手段は選択肢がある。その中で、放火殺人を選んだことについてはどう考えるか」
岡田氏「復讐というか、困っている状況を解決する手段については、病気と関係なく、彼自身が選んだことだと思います」
検察官「妄想の内容は犯行を命じるものではない?」
岡田氏「ないと思う」
検察官「精神障害で興奮して、訳が分からなくなることもある」
岡田氏「大暴れしてしまうこともあります」
検察官「本件にはないですね」
岡田氏「ないと思います」
検察官「重症度について」
岡田氏「言葉が独り歩きしやすい。すぐさま責任能力の有無を意味しない。特定の診断名があっても、機能低下や能力低下については大きな幅がある」
検察官「重症でもただちに責任能力がないと決まるわけではない」
岡田氏「はい」
《青葉被告は被告人質問で犯行直前の心境について、「私のような悪党でも小さな良心があり、良いのか悪いのか考える部分もある」と述べていた》
検察官「一般論として、妄想性障害では『殺人は犯罪』という認識は損なわれない」
岡田氏「はい」
(以下、略。産経新聞の記事から引用)


前提として精神鑑定では「刑事責任能力があった」とか「失われていた」など、刑事責任能力の有無について直接的な判断はしません。あくまで一般的な規範意識があったかなかったか(「殺人が悪いことという認識を有していたか」など)を論じ、結論付けます
なので、刑事責任能力を問えるかどうか、起訴して有罪判決に持ち込めるかは検察官の判断に帰します
岡田鑑定の場合、「統合失調症」と病名を診断するのではなく、「妄想を伴い、妄想にその行動を左右される精神障害」=妄想性障害という患者の症状に重きを置いた判断をしているのが特徴です
ただ、その妄想性障害にあっても直ちに善悪の判断が失われたりはしないと岡田教授は説明します。が、これはあくまでも一般論としてであり、青葉被告の場合はどうであったのかが問題です
岡田鑑定によれば青葉被告の犯行は強固な被害妄想に端を発しており、その妄想の中で追い詰められ虐げられた状況を打破しようとして京都アニメーションに放火した、とする解釈です。犯行に着手する段階で放火や殺人が犯罪であるとの認識は失われておらず、それが随所に「犯行へのためらい」として現出していると説明しているのでしょう
ただ、記事を読んだ限りの個人的な感想としては、前回取り上げた和田鑑定に説得力があるよう感じます
ここは裁判官、裁判員がどう受け止めるか、です

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