京都アニメーション放火事件 精神鑑定での法廷議論(2)

刑事事件で精神鑑定結果が重要な争点になるケースはしばしばあります。ただ、新聞紙面などではその詳細を報じるほどのスペースがなく、どうしても要点のみに集約し記事にしているのが実際です。その場合、やはり細部が省略されてしまいますので、読者にすれば何を問題視して審議をしているのか見えない状態となり、裁判が何か無駄な議論をしているように映ってしまいかねません
京都アニメーション放火事件では青葉真司被告に2度の精神鑑定が実施されており、それぞれの鑑定医を法廷に招き、検察側と弁護側がそれぞれ質問し、どちらの鑑定結果がより信憑性があるかを問う展開になっています
一般の方には興味が湧かないとは思いますが、自分の関心事ですので取り上げます
前回ブログで取り上げた和田央医師による鑑定結果の説明の続き、です


23日に尋問が行われたのは、検察からの依頼で起訴前に精神鑑定をした大阪赤十字病院の和田央(ひさし)医師。冒頭、法廷内のスクリーンを使い、自ら鑑定内容を説明した。
20回以上の面談を経て被告を「妄想性パーソナリティー障害」と診断した和田氏。動機形成には妄想が影響を及ぼしたとしつつも、犯行への影響は「ほとんど認められない」との見解を示した。
和田氏は被告の性格も分析した。両親の離婚や父親からの虐待、アルバイト先での理不尽。自分ではどうにもならない経験が「被告の性格形成に影響を及ぼした」。その結果、①何かあると他人のせいにする「極端な他責傾向」②自分が特別だと思う「誇大な自尊心」③やられたらやり返す「攻撃的態度」-につながったと指摘した。
その上で被告の妄想について「行動の結果、後付け的に生じている」とも断じた。
■「闇の人物」に責任転嫁
被告はこれまで、法廷で何度も「闇の人物」に言及。京アニの小説コンクールに応募した作品の落選に関与したと主張し、放火事件そのものは闇の人物へのメッセージだったとも訴えている。
和田氏は一連の発言について、被告が持つ、闇の人物への印象はコンクール落選を機にネガティブに変化したと考察。小説の落選を闇の人物に責任転嫁した上で「自尊心の充足のため被害的な妄想に変化している」。また闇の人物に関する妄想が、被告の行動に影響したとは認められないと明言した。
■犯行前のためらい、どう判断
和田氏の尋問に先立ち23日の公判で検察側と弁護側は、9月の初公判に続く2回目の冒頭陳述を行った。
検察側は被告の計画や行動は合理的で妄想の影響はなく、犯行は被告の判断で行われたとして「完全責任能力がある」と指摘。被告はこれまでの公判で、放火直前に約10分間、第1スタジオ近くの路地で頭を抱え実行を逡巡(しゅんじゅん)したと明かし、「良心の呵責(かしゃく)があった」と述べていた。検察側はこうした経緯を踏まえ「犯行前にどれだけ思いとどまろうとしたかは極めて大きな判断材料だ」と投げかけた。
一方、精神障害の影響による心神喪失や心神耗弱を訴えている弁護側は被告の責任能力の有無について明確な主張はしなかったものの、裁判官と裁判員に慎重な判断を求めた。
(産経新聞の記事から引用)


別の記事では和田医師は青葉被告と25回、面談をしたと書かれています。これは精神鑑定として異常なほどの回数になります。精神鑑定は概ね3か月ほど期間を設けますが、自分の知るケースでは鑑定医自身が面談するのは2回から3回くらいです。後は心理職の人間が個別の心理検査をしたり聞き取りを行い、鑑定医の助手である研修医が面談をしそれぞれが所見(見立て)を書き、鑑定医がそれを読んだのちに面談して、自身の所見を鑑定鑑定書に記載する…といった流れになります
精神鑑定書の書式などについては検察庁や国立精神神経医療研究センターなどが使えるツールを提供しています

刑事責任能力鑑定関連ツール集

たとえば「犯行と精神障害の関係の整理のための着眼点」と題した様式では、「動機の了解可能性/了解不能性」、「犯行の計画性、突発性、偶発性、衝動性」、「行為の意味・性質、反道徳性、違法性の認識」、「精神障害による免責の可能性の認識」、「元来ないし平素の人格に対する犯行の異質性/親和性」、「犯行の一貫性・合目的性/非一貫性・非合目的性」、「犯行後の自己防御・危険回避的行動」、「その他」と記入欄が用意されており、これらを埋めれば法廷で披露しても説得力のある鑑定書になる…という具合です
青葉被告の場合、上記の記事にもあるように小説新人賞での落選、闇の人物といった極めて特徴的なエポックがあり、それらを含めて犯行に至るまでの力動を変遷を記述することになります
和田鑑定は統合失調症の可能性を否定し、青葉被告を妄想性パーソナリティ障害と鑑定しています。一般的にアメリカ精神医学会による精神障害診断基準(DSM-Ⅴ)が用いられますので、この診断基準に基づいて統合失調症には該当しない理由を挙げ、さらに人格障害に属する妄想性パーソナイティ障害に該当すると判断する理由を挙げたものと推測されます
弁護側は統合失調症による妄想に支配され、判断能力が著しく減衰した状態で犯行に及んだとの主張ですから、これを真正面から否定した形になります
なので、今後、弁護側が統合失調症の影響下で犯行に及んだと主張し、裁判官を納得させるのはかなり難しくなったと思います

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