京都アニメーション放火事件 精神鑑定での法廷議論(1)

京都アニメーション放火殺人事件の公判は精神鑑定結果を巡る審議に入り、2つの結論が異なる鑑定通知書についてそれぞれ鑑定医を法廷に招いて質問がされます

青葉被告の弁護人は、「精神鑑定の結果が異なっており、問題だ」と指摘しているのですが、複数の精神鑑定が実施されればそれぞれ結論が異なるのは当たり前であり、特別珍しいものではありません。幼女誘拐殺人の宮崎勤死刑囚の場合、3度の精神鑑定が実施され、3つの異なる鑑定結果が提示されています。青葉真司被告についても2度の精神鑑定が実施され、異なる結論が出ています。鑑定医が用いる精神医学理論は幾つもあるため、どのような理論を前提に鑑定をするかによって結論が異なるのです
「いや、それでは正確な精神鑑定などできないだろう」と疑問を呈する人もいるでしょう。が、人間の精神状態は1つの理論だけで説明できるはずもなく、いくつかの異なる理論に基づいて考察し、説明が可能になると考えます。縦から横から、上から、斜めから光を当てて全体像を把握しようとするわけです


京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判は、検察側と弁護側の主張が真っ向から対立する刑事責任能力の審理に入った。起訴前後に行われた2回の精神鑑定について鑑定医2人がそれぞれ証言、その結果をどう見るかが最大の焦点だ。
23日に証人として出廷した大阪赤十字病院の和田央医師は、検察側の依頼で起訴前の令和2年6~12月に青葉真司被告の鑑定を行った。
計25回に及ぶ被告との面談などから、和田医師は、被告が根拠なく他人に不信感を抱くなどする「妄想性パーソナリティー障害」だったと診断。これは精神疾患ではなく、犯行への影響は「認められない」と言い切った。
そもそも責任能力とは①善悪を区別する能力②その区別に従い、犯行を思いとどまる能力-とされ、2つの能力のいずれかが欠けていても、心神喪失(無罪)とされる。
被告が犯行時、何らかの妄想を抱いていた場合、その影響がたとえば「圧倒的」といえるほどのものであれば責任能力なしと判断されやすい。
和田医師は、被告の性格傾向として「極端な他責的傾向」や「誇大な自尊心」を挙げ、こうした人格が京アニの小説コンクール「京アニ大賞」で落選したことを機に同社を恨む動機につながったと分析。被告はこれまでの公判で自身につきまとう「闇の人物」から逃れるためだった、などと放火の動機を供述しているが、和田医師は「(コンクール落選など)現実世界の出来事がメインだった」と説明し、動機面での妄想の影響は限定的だとした。
(産経新聞の記事から引用)


《青葉被告の鑑定を行った医師は2人。この日は検察側の依頼で鑑定を実施した大阪赤十字病院の和田央(ひさし)医師が出廷し、プレゼンテーション用の資料をもとに鑑定結果を説明した。
それによると、青葉被告には「妄想性パーソナリティー障害」が認められる一方、その障害は京アニを狙うという動機形成に関係するものの、犯行への影響は「ほとんどない」とされた。
被告に精神障害などに起因する妄想がある場合、犯行への影響の程度が、刑事責任能力の有無を判断する大きなポイントになる。たとえば妄想の「圧倒的影響」があれば心神喪失で無罪、「影響はあるが著しいものではなく、もとの人格に基づく」といえる場合は、完全責任能力を認定できる、といった具合だ。
その点を踏まえると、今回の和田医師の鑑定意見は、責任能力を肯定するものとして評価できるといえそうだ》
《和田医師は、「生活歴から認められる被告の性格」として①極端な他責的傾向②誇大な自尊心を持つ③不本意を押し殺し、対人関係を維持しようとするが、できなくなると攻撃的態度に転換する-といった特徴を挙げた。①については、幼少期の両親の離婚や父親による虐待、経済的困窮などを背景事情として指摘した。
②に関しては「7歳のころ、歩いて1時間かかるおもちゃ屋に30分で行ける道を見つけて、兄の友人から『お前すごいな』と言われた」「7歳のころ、父から100円をもらってコンビニに行き、何も買わずに帰ると『お前は大物になるかもしれない』と言われた」といった被告の幼少時のエピソードを、誇大な自尊心を根拠づけるものとして紹介した》
(産経新聞の記事から引用)


分かりにくいかもしれませんので、少し説明します。和田鑑定では青葉被告が統合失調症だったという過去の診断を否定し、妄想性パーソナリティ障害だと結論付けています。統合失調症は精神疾患に分類されますが、妄想性パーソナリティ障害は人格障害に分類され、人格の偏りによって周囲との軋轢を生むものと考えられています。精神疾患の影響で刑事責任能力が減退した状態で犯罪に至った場合、刑罰を軽減するのが刑事裁判での扱いです
しかし、人格障害は精神疾患ではないため、刑罰を軽減する理由にはなりません。精神疾患は病気によって引き起こされる幻覚や妄想に支配され、主体性を失わしめる病気ですから、犯罪という結果を本人の責任として問い、刑罰を科すのが適切ではないと考えられます。なので、その程度に応じて減刑なり、心神喪失によって無罪とするなどの手立てが講じられます
他方で人格障害の場合、本人の主体性は保たれており(それが偏った人格であっても)、犯罪という結果を本人の責任として問うことは可能だと考えられています
なので、青葉被告が妄想性パーソナリティ障害だとする鑑定結果は、彼の刑罰を減刑すべき事由がないと言うのと同じです
次回の公判からは2度目の精神鑑定を実施した鑑定医が法廷に立ち、その鑑定結果について検察側、弁護側からの質問に答えます。こちらは真逆の鑑定結果だったはずです

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