愛西市殺人放火事件 嘱託殺人として懲役7年求刑

愛知県愛西市の民家から出火し、事実婚関係にあった妻を殺害した容疑で小塚勝也被告が逮捕された事件が今年の2月にありました
小塚被告と妻は妻の母親の年金を当てにして生活していたのですが、母親が死んだために収入が途絶えたことで悲観し、妻を殺害して家に火をつけ、家に安置していた母親の遺体も焼損させたとして起訴されています


依頼に応じて同居の女性を殺害し、住宅に火を放ったなどとして、嘱託殺人と非現住建造物等放火、死体損壊の罪に問われた小塚勝也被告(64)の公判が29日、名古屋地裁(久礼(くれ)博一裁判長)であり、検察側が懲役7年を求刑して結審した。判決は11月10日。
検察側は論告で、被告は仕事をせず女性の母親の年金で生活をしており、母親の死亡で収入が途絶え、困窮したことが動機だと指摘。「残忍で生命の軽視が甚だしく、灯油を準備するなど計画的な犯行だ」と非難した。
弁護側は最終弁論で「困窮した生活で将来に絶望して犯行に及び、動機には酌量の余地がある」として刑の減軽を求めた。
起訴状などによると、愛知県愛西(あいさい)市の住宅で2月7日、嘱託を受けて、事実婚状態の植手(うえて)敬子さん=当時(54)=の胸を包丁で刺して殺害し、灯油をまいて火をつけ全焼させたほか、既に亡くなっていた植手さんの母親の遺体を焼損したとしている。
(産経新聞の記事から引用)


よくわからない事件です。わからないまま取り上げている背景としては、小塚被告が取り調べでもほとんど供述をせず、公判の場でも黙秘を繰り返しているためです。事実婚関係にあった妻は54歳で、小塚被告は64歳です。2人して働けば十分食べていけるだけの収入が得られるはずなのに、なぜ母親の年金が受給できなくなったら死ぬ話になるのか、理解できません
それほどまでに夫婦して働くのが嫌だったのか?
公判の場では検事があれこれ質問し、供述を引き出そうとしていますが小塚被告は黙秘を続けています。起訴前の取り調べの段階でも同様の状況だったのでしょう
公判でのやりとりが以下のように報じられています


(検察官)「敬子さんを刺したことについてのあなたの言い分は?」
(小塚被告)「黙秘します」
(検察官)「結果として敬子さんの命が失われたことについては?」
(小塚被告)「黙秘します」
(検察官)「思い出が詰まった家を燃やしたことは?」
(小塚被告)「黙秘します」
小塚被告は「黙秘します」の一点張りに。
検察側の質問に「黙秘します」と答えた回数は25回を超えました。
(検察官)「先ほど、弁護側の質問で『罪に向き合って更生する』と話していた。法廷で話そうとは思いませんか?」
(小塚被告)「正直に話しています」
(検察官)「できればこちらの質問にも答えてほしいのですが・・・」
(小塚被告)「黙秘します」
(検察官)「それがあなたの反省や更生の気持ちですか?」
(小塚被告)「はい」
その後、裁判官からの質問になると、はっきりと答えました。
(裁判官)「生活はどこが苦しかった?」
(小塚被告)「どれが苦しい…すべてが苦しい。お米がなかった、電気代・水道代が払えなかった」
(裁判官)「2人で心中しようと言ったのはいつの話?」
(小塚被告)「お母さん(純子さん)が死んだときです」
「2人で『包丁でお互いを刺そう』と言いました」
(裁判官)「心中を決めてから、1週間贅沢をしようと話し合ったということですが、その1週間はどんな話をしましたか?」
(小塚被告)「どういった話?『きょう天気いいね』とか、本当にいつもと全く同じです」
(裁判官)「あなたでも敬子さんでも心中をやめようと言うことはなかった?」
(小塚被告)「なかったです」
(裁判官)「1週間は楽しかったですか?」
(小塚被告)「すごく楽しかったです」
(裁判官)「今、あなたは生きている。それはどう思いますか?敬子さんたちの後を追いたいと思いますか、それとも生きようと思いますか?」
(小塚被告)「一番初めは火が怖くて外に出て、もう一回中に入ってけいちゃんと一緒に死のうとしたのは供述調書にも書いてあります。今は被害者の方たち(延焼した近隣住民や遺族)のことを背負って生きていくとしか考えていない」
(CBCテレビの記事から引用)

小塚被告は事件の核心部分は何も語りたくない、というのだけは伝わってきます
しかし、それならばなおさら心中するつもりで妻を殺害し、自分だけ生き残ったのか、怪しく思えてしまいます
これを嘱託殺人の扱いとし、懲役7年の軽い求刑で処理するのが正しいのか、大いに疑問です
ただ、小塚被告が殺意をもって(怨恨やらその他の理由で)妻を殺害し放火したと立証する材料がないので、検察としても殺人放火容疑で起訴するには至らず、嘱託殺人とせざる得なかったのでしょう
放火事件と火災保険
一般論として失火による火災の場合、隣家に火が及びが類焼させ損害賠償に応じる義務はなく、各人の契約している火災保険を給付申請して家の補修や建て替えをするというのが日本の決まりです(失火責任法)。これは日本の場合、木造家屋が多く、かつ隣家との間隔が狭くて類焼しやすい実態を踏まえた上での対応です
ただ、放火による火災の場合は、放火した人物が損害賠償の責任を負います。それでもなお、放火犯に十分な資産がない場合は損害賠償金を払ってもらえない事態が起こり得ます。なので、放火によって火災の被害を被った場合も、各人の契約している火災保険の給付を得られます
ですから、火災保険や家財保険、地震保険はしっかりと内容を精査し、十分な給付が受けられる契約をしておく必要があります
追記:小塚被告に対し、名古屋地裁は「貧困を解決するための手段を模索したことすらうかがわれず、人命を軽視する短絡的な判断には、強い非難が向けられる」として懲役6年の判決を言い渡しています
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