神戸5人殺傷事件を考える 控訴棄却で無罪判決
2017年7月、竹島叶実被告は神戸市北区の自宅で、祖父母を金属バットで殴ったり文化包丁で刺したりして殺害したほか、自宅近くに住む女性も文化包丁で刺し殺害し、母親と近隣女性の2人にも重傷を負わせました。つまり3人を殺害し、2人に重傷を負わせる凶悪な犯行です
1審神戸地裁では検察が無期懲役を求刑したものの、心神喪失を求めて無罪判決が言い渡され、検察側が控訴していました
大阪高裁も本日、心神喪失を認め無罪判決を言い渡しています
事件から6年を経ており、2度の無罪判決です。検察側もこれでは最高裁に上告するのを諦めるのでは
この事件では、被告の犯行が「自分と元同級生の女性以外の人間は、姿は人間だが自我や感情がない存在『哲学的ゾンビ』であり、女性と結婚するためには『哲学的ゾンビ』を倒さなければならない」という内容の妄想・幻聴に拠るものだったという点は認定されていて、その影響がどの程度だったかが争点となっています。
1審で検察側は、「『嫌や』『信じるで、信じるで』と声に出すなど、被告には犯行をためらった瞬間もあることなどから、殺傷した相手が哲学的ゾンビだと確信まではしておらず(本当の)人である可能性を認識していた」などと主張。『心神耗弱(善悪を判断し行動をコントロールする能力)が著しく低下していたがゼロではない状態』だったとして、無期懲役を求刑しました。
一方で弁護側は、被告は妄想・幻聴の圧倒的な支配下で犯行に及んだのであり、『心神喪失=善悪を判断し行動をコントロールする能力が完全に失われた状態』だった疑いがあるとして、無罪を主張しました。
日本の刑法では「心神喪失者の行為は罰しない」と定められています。
1審判決「心神喪失だった合理的疑いが残る」
神戸地裁は2021年11月、「相手が哲学的ゾンビだと確信した状態で犯行に躊躇を覚えた可能性も想定できる」「妄想を信じ切っていたか、妄想を払拭し犯行を思いとどまれる状態ではなかった可能性が高く、心神喪失だった合理的疑いが残る」として、弁護側の主張を支持。男性に無罪を言い渡しました。
この判決を不服として、検察側は控訴していました。
2審判決は控訴棄却「妄想の圧倒的影響下にあった疑い払拭できない」
大阪高裁は9月25日、「犯行へのためらいとも解釈できる、『ほんまか』『信じるで』という発言も、“女性と結婚するための試練の内容が合っているかを確認するための発言”などと解釈することが不合理とは言えない」「妄想が屋根瓦のように積みあがる状態だったとすれば、発言の後に疑念が消え、妄想の内容を確信するに至ったと説明することもできる」「被害者を人ではないと考えていたとすれば、“殺人の禁止”という規範に直面していたと言えず、善悪の判断能力に疑いが生じる」などと指摘。
「自分と女性以外が『哲学的ゾンビ』だと確信し、その妄想の圧倒的な影響下で犯行に及んだ疑いを払拭できない」と改めて結論づけ、控訴を棄却しました。
被告の男性は1審・2審とも無罪という結果となりました。
(MBSニュースの記事から引用)
統合失調症の患者でも、四六時中妄想に支配され、意味不明な発言を繰り返しているわけではありません。自分の想像ですが、竹島被告の症状には波があって、検事とまともな会話が成立していた時期もあり、検事としては刑事責任能力を問えると判断したのでは?
控訴審でも心神喪失と認めてしまったので、上告を断念し判決が確定するものと予想します
事件を起こす前、竹島被告はひきこもりの状態にあり、親も「異常」を感じ取っていたと思われます。会話が噛み合わない、妄想を口にする、昼夜逆転の生活をする、家の中で暴れ物を壊す、などなど
その時点で入院させ治療を受けさせたなら、あるいは事件を防げたかもしれません。ただ、それは後になってから言えるのであり、ひきこもりの親族を抱えた親たちに責任を押し付けるのは酷でしょう
本人に治療を受けるだけの動機、同意がなければ通院もままなりません。薬を処方されても、本人が服用を拒めばどうしようもないのです
また、世間の一部には、「こどものひきこもりは親の責任」とする考えが根強く残っており、周囲は親なり親族がどうにかするべきと決めつけます
竹島被告は無罪判決確定とともに、兵庫県知事に対し措置入院の申請が出され、県知事指定の精神科医が入院を妥当と判断すれば措置入院となります
事件としては何も解決などしていないのですが、これで決着という形になるのでしょう
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