茨城一家殺害事件を考える 岡庭被告の報道を読む

茨城県のぽつんと外れた一軒家である小林さん宅に侵入し、小林さん夫妻を殺害して逃走した岡庭由征被告は起訴されたものの、未だに公判が開かれてはいません
取り調べは既に終えているはずで、現在は公判に向けた争点整理が裁判官、検事、弁護人の3者で行われているものと推測されます。岡庭被告が犯行を否認しているのであれば、全面的に争う形になりますので証拠の認定や証人の証言も必要となります。なので、争点整理にも時間がかかりますし、裁判の長期化するはずです
さて、岡庭由征被告は小林さん夫妻殺害前、下記の関連記事にも挙げたように千葉県や埼玉県にまたがる地域でこどもを刃物で切りつける事件を起こしており、医療少年院送致の保護処分を受けています
その事件の裁判に触れた記事を当ブログではまだ取り上げていませんでしたので、あらためて言及します


茨城一家殺傷 容疑者が少年時の公判で語っていた攻撃衝動と性的衝動
(前略)
岡庭容疑者は2011年11月、三郷市で中学3年の女子生徒(当時14)の顎を包丁で刺し、同年12月には松戸市で小学2年の女児(当時8)の背中や脇腹など数か所を小刀で刺して重傷を負わせたとして殺人未遂の疑いで逮捕されたのち、さいたま家裁へ送致されたが、2012年7月に家裁が検察官送致(逆送)し、起訴された。殺人未遂罪のほか、三郷市内で自動車やバイクに放火したという非現住建造物等放火罪、2010~11年にかけて千枚通しを用いて猫2匹を殺したという動物愛護法違反など計13の罪に問われ、公判は2013年2月からさいたま地裁で行われていた。
容疑者の現在の名は「由征」だが、この当時は、平成仮面ライダーを連想させる「吾義土(あぎと)」という名前だった。これを本人は小さい頃、気にしていたという。
「小学校の頃に『変身してみろよ』と上級生にからかわれた。テストで名前のところに『私は誰でしょう』と書いたり、友人の名を書くようになった」(公判での母親の証言)
そんな容疑者に父親は「画数で名付けたんだから、自信を持ちなさい」と励ましていたそうだ。また容疑者宅ではかつて猫の糞尿に悩まされた時期があり、これに頭を悩ませていた父親は「(猫を)殺してやりたい」と家族の前で話していたともいう。この発言や、家にやってくる猫を両親が追い出すのを見て、猫を「敵だと認識」(家庭裁判所の調査記録より)するようになった。小学5年生の頃から、猫の虐待を始める。
刺傷事件当時、高校2年生だった岡庭容疑者は、高校を退学し、通信制の高校に移ったばかりだった。退学になったきっかけは“猫の首を学校に持って行ったこと”。だが母親は、息子がおもちゃの猫の首を切ったのだと勘違いしていたのだそうだ。
「学校から電話がかかって来て『明日来てください』と言われた。息子に聞くと『おもちゃだよ』と言われたのでおもちゃの猫だと思っていた。翌日学校に行くと『ナイフを持っています』と言われてショックを受けた。たとえおもちゃでも、首を落とすなんて、と、ナイフを取り上げ母屋の二階にしまいました」(公判での母親の証言)
母親によれば、呼び出された学校で学年主任から「今度は人をやるんじゃないですか」と言われたともいうが「そんなことをするわけないでしょう」ときっぱりと反論したのだという。
「息子は小学5年生の頃からパソコンを使っていた。ある時画面を見たら、猫を茹でる動画を見ていた」(同)
小動物を殺傷するという“兆候”を高校は重大に捉えていたが、母親は息子の「猫はおもちゃだった」という言い分を信じ、閲覧していた動画の内容も、殺傷行為も、大きく捉えることはなかった。そして殺人未遂事件に発展したのだった。法廷で彼の様子を見ていた傍聴人は当時の容疑者の様子をこう振り返る。
「法廷では後ろ姿しか見ることができませんでしたが、痩せ型の長身。おかっぱ頭で、すごく頻繁に髪の毛をいじっていたのが印象的です。『~~じゃないっすか』など感情の起伏なく淡々と答え、どこか他人事のような受け答えに聞こえました」
容疑者本人は「緊張するとそうなる」と証言していたというが、口元が緩みニヤついていたことも、公判で取りざたされた。
「犯行時にニヤッとしていたと娘が言っていた。審判のときもニヤッとして、弁護士にたしなめられていた」(被害者の母親の陳述)
「調書を読んでいるときに君の口元が緩んでいるように見えたけど?」と裁判長にも問われ「ちょっと思い出しちゃって」と答えていた容疑者は、被告人質問で殺人衝動についてこのように語っていた。
「(他人と違う自覚は)あると思う。事件を起こしたり。趣味好みが人と違う。(趣味というのは)放火をしたり、刺したりすること。今でも時々、殺そうと考える。勝手に(頭に)出て来る。いまのままだと、またやる。拘置所で想像する。またやっちゃうし、捕まりたくないから(自分を)変えたい」
家庭裁判所の調査記録などでも、攻撃衝動と性的衝動が結びついていることを指摘されている。当時の彼は、人を傷つけることで性的興奮を得ていたという。それは公判で被害者の代理人弁護士から“拘置所での生活”について問われた際も、はっきりと答えた。
代理人「拘置所で雑誌買ってますか? グラビアを見てどう思いますか?」
容疑者「殺すよりは(興奮度合いが)下」
代理人「自慰行為もしますよね。水着を見てしますか?」
容疑者「よくわかんない。その人を殺すってこと(を想像して)」
代理人「事件の何を思い出す?」
容疑者「刺してるあたり。殺したいとかもあった」
当時の彼には、雑誌に載っているグラビア写真よりも、人を傷つける行為のほうが性的興奮を得られた……と取れる問答だ。
当時、検察側は論告で「少年は犯行を繰り返しており、殺人への衝動が強く再犯可能性が高い」として、懲役5年以上10年以下の不定期刑を求刑していた。対する弁護側は「再犯を防ぐため継続的な教育を行う必要があり、それができるのは医療少年院をおいてほかにない」と主張。判決で田村真裁判長は弁護側の主張に寄り添う形の「医療少年院で治療や矯正教育を施すことが有効」として、家裁に移送する決定をした。のちに送られた医療少年院を出院後、今回の逮捕へと至っている。
公判に出廷した精神科医は、当時、広汎性発達障害と診断されていた彼について「治療は施設で終わらない。なぜなら施設に女の子がいないから。施設で治療が終わると思ったら困る。出てからが問題」と、継続的な医療機関との関わりの必要性を強調していた。


長々と引用しました。記事では家庭裁判所の調査記録にも言及しているのですが、少年事件での家庭裁判所調査官による記録が一般に出回る機会はありませんので、事件を担当した弁護人のルートから記者に流れたのではないかと推測されます
埼玉・千葉刃物襲撃事件は一度、家庭裁判所が検察官送致決定をし、地裁で刑事裁判となったわけですが、上記の記事のとおり地裁が家庭裁判所へ逆送する形となって、家庭裁判所での審判により医療少年院送致が決定しています
家庭裁判所へ逆送した田村真裁判長の判断については批判もあるのですが、自分は「大間違い」だとは思いません。ともかく「やってみる」ところから始まるわけであり、やってもいないのにダメだ、と決めつける方が間違いでしょう
一般的に「少年院の矯正教育など無駄だ」と決めつける人が多いわけですが、半数以上の少年は退院後再犯にいたらないのですから、無駄とはいえないはずです。逆に、岡庭被告のような特異なケースだと、懲役刑を受けて服役した後も、再び傷害事件や殺人事件に及ぶ可能性も考えられます(それも、やってみなければわからない、と言うしかないところですが)
矯正教育は洗脳ではありませんから、一定の型にはめて人格をどうこうするものではなく、社会の中で更生するかしないかは本人次第となります
岡庭被告の場合、医療少年院での処遇経過はともかく、本人の抱える殺人衝動が保持されたままだったのは事実でしょう
また、少年院を出たからといって就労する気は皆無であり、ただひたすら次の犯行を夢想して凶器となる刃物を集めたり、爆発物の材料を集めていたわけです。親と同居はしていましたが、親の言うことなどまったく聞き入れない状態で、犯行の抑止にはなっていません
岡庭被告は23歳で医療少年院を出ており、この時点でいわゆる保護処分は終わっています。つまり家庭裁判所の監督対象から外れています
裁判官の判決(刑事罰を加えず、少年院送致を求めた判断)が問題なのではなく、あくまで岡庭被告自身の問題だと自分は考えます

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