飲酒運転事故の教員 退職金不支給は妥当の判決

飲酒運転による事故が繰り返され、「飲んだら乗るな」が残念ながら徹底されないのが現実です。多くの民間企業では「飲酒運転=懲戒解雇」であり、企業イメージを守るために飲酒運転した従業員はばっさりと切り捨てます
他方で公務員の場合、飲酒運転で即、懲戒免職にするのは簡単ではありません。過去には「飲酒運転で懲戒免職にするのは行き過ぎ」として、懲戒解雇を取り消す判例があり、いまでも裁判で争うケースがあります
警察のように交通違反を取り締まる立場だと、問答無用で免職にしているようですが、一般公務員では勤務庁・地方自治体によって処分が違っているのが実際です。さらに懲戒免職処分とした上で退職手当を支給するか、しないかでも違いがあります
宮城県の公立高校元教諭が飲酒運転で事故を起こし、懲戒免職処分を受けるとともに退職金不支給の決定を受けたのを不服として争っていた裁判で、最高裁は不支給を妥当とする決定を言い渡しています。この最高裁判決により、これまで地方自治体によってばらつきのあった処分が懲戒免職&退職金不支給で統一されるのかもしれません


飲酒運転で懲戒免職になった宮城県の公立高校元教諭(60)が、自身の退職金の支払いを県側に求めていた裁判で、最高裁が支給を認めない判決を下したのは6月27日のこと。
「事故が起きたのは2017年の4月でした。夜10時すぎ、県内大崎市で元教諭が運転する車がT字路を右折しようとしたところ、軽乗用車に衝突。駆けつけた警官が呼気検査をしたところ、1リットル当たり0.35ミリグラムのアルコールが検知された。元教諭は職場の飲み会で日本酒やビールを飲んだと供述していますが、免許は一発で取り消しとなる値です」(地元紙記者)
県教委は事態を重く見て、懲戒解雇に踏み切る。さらに事件の悪質性から退職金(1720万円)も全額不支給と決定した。だが、事の成り行きはここから二転三転する。元教諭が懲戒解雇および退職金不支給の決定の取り消しを求めて仙台地裁に提訴したのだ。
結果、退職金不支給も「妥当」に
県教委の担当者によれば、
「一審判決は、懲戒解雇については妥当としたのですが、退職金の不支給までは認めませんでした。すると、元教諭は懲戒解雇処分取り消しを求めて控訴してきたのです。一方、県教委も“不支給”が妥当であるとして、やはり控訴しました。その結果、仙台高裁は懲戒解雇については一審と同じく妥当との判決を下しますが、退職金については3割程度の支給が妥当と踏み込んだ判断をしたのです。金額でいうと520万円になります」
いわく、退職金は給料の“後払い”や退職後の生活保障の意味合いもあるというのが高裁の判断だった。が、ここまで来たらとことんやるしかないというわけで元教諭も県教委も最高裁に上告。結果、冒頭のごとく退職金不支給も懲戒免職も「妥当」との判決となったのである。
元教諭の代理人を務めた斉藤睦男弁護士が言う。
「退職金の多寡を決めるのは行政の権限であって司法は金額に踏み込まないというのが最高裁の判断でした。県教委の下した“不支給”は厳しいとする見方もあるでしょうが、当時は県をあげて飲酒運転撲滅キャンペーンを行っていた。その最中の事故だったことも影響したと思います」
飲酒運転は退職金もゼロ円になる。覚えておいて損はない。
(デイリー新潮の記事から引用)


仙台高裁の判決の一部を引用しておきます(労働判例ジャーナル掲載)。要約すると「飲酒運転で事故したのだから、退職手当を全額支給するべきではない。が、元教諭は管理職ではなく、物損事故にとどまり罰金も納付しているのだから、退職手当の3割程度支給してもよいだろう」という内容です


職員の退職手当に関する条例12条1項によれば、県教委が教職員について退職手当の支給制限処分をする際には、退職をした者が占めていた職の職務及び責任、退職をした者の勤務の状況、退職をした者が行った非違の内容及び程度、非違に至った経緯、非違後における退職をした者の言動、非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案しなければならない。
条例が、退職手当支給制限処分について、このように幅広く多面的に非違に関する事情を勘案すべきことを定めた趣旨は、退職手当には、勤続報償としての性格のみならず、賃金後払いや退職後の生活保障の性格を持ち、長年働いた職員の権利としての性格にも配慮しなければならないことから、職員の権利保護のため退職手当管理機関の判断が恣意的にならないように、慎重な検討を求めたものと解される。
(中略)
その上で、原告の場合は、教員による飲酒運転が連続し、県教委が懲戒処分の厳格な運用を含む注意喚起を強化する中での非違行為であることや、教職という職責から公務に対する信頼の失墜や公務への支障も著しいことを考慮して、特に厳しい措置として懲戒免職処分とされたことは、前記2に説示した事情や上記の警察官の事例との対比からも明らかであり、酒気帯び運転という非違行為の内容及び程度に照らせば、運用基準4項(1)によっても、一部を支給しない処分にとどめることを検討すべき場合であったと認められる。
このように検討すると、原告の場合、非違の内容及び程度、非違に至った経緯、非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響という面からみると、特に、本件の非違行為である酒気帯び運転は、飲酒後間もなく帰宅のために自動車を運転した故意による犯罪行為であり、運転を始めてすぐに物損事故を起こし、飲酒による運転への影響も相当に大きく、酒気帯びの程度も著しい危険な行為であったといえること、県教委において、飲酒運転に対する懲戒処分の厳格化の周知がされ、教職員全体で飲酒運転根絶に向けた意識を高めていた中で行われ、教員が現行犯逮捕された事件として報道されるなど公務に対する信用を大きく損なうとともに、新学年が始まったばかりで教職を続けることに支障が生じ、生徒や他の教職員に大きな影響を与えたことは明らかであり、公務に対する支障も著しかったのであるから、退職手当が大幅に減額されることはやむをえない。
しかし一方で、原告は、職への信頼が高く求められる教員ではあったが管理職ではなく、昭和62年から30年余り勤続し、過去に懲戒処分歴は全くなく、飲酒運転発覚直後は情状を軽くするよう嘘をついたものの、それ自体は重大なものではなく、反省して事実を認め罰金刑を受け、結果論とはいえ幸いにも被害が物損にとどまり被害弁償も直ちに済ませている。
そうすると、前記条例の規定に即し、占めていた職の職務及び責任、勤務の状況、行った非違の内容及び程度、非違に至った経緯、非違後における言動、非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を総合的に勘案すれば、更にこのような事情を勘案して退職手当の全部又は一部を支給しない処分をすべきことを定めた条例の趣旨が、退職手当には勤続報償としての性格のみならず、賃金後払いや退職後の生活保障の性格を併せ持つことを考慮し、長年勤続する職員の権利としての面にも配慮したものと解されることを踏まえて条例を適用すれば、本件非違行為につき、1724万6467円に上る退職手当の全額を支給しない処分をすることは、条例の規定の趣旨を超えて職員に著しい不利益を与えるものであり、県教委の裁量権の範囲を逸脱するものであると認められる。
(以下、略)


この他、児童・生徒への淫行で懲戒免職処分を受けた教師が退職金不支給の決定を不服とし、裁判で争っているケースがあります。これも各自治体によって扱いがばらばらです。末端の新人教諭だとばっさり切って退職金も不支給ですが、校長クラスになると教育委員会職員とも親しかったりして人情が絡み、退職金くらいは支給してやろうとの判断がくだされたりします
話を戻して、上記の元高校教師は最高裁まで争っていますので、弁護士費用だけでも数百万円かかっているものと思われます。結果は敗訴で、退職手当は支給されず弁護士費用だけ払わなければなりません。飲酒運転などせず、タクシーで帰宅していれば済んだ話です

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