日本アニメや良作を好む中国観客

中国では国内の映画・アニメ産業を保護するため、映画館で上映できる外国作品の本数を制限しています。年間、わずか34本だけと。その結果、ハリウッドの超大作といえども中国での公開が大幅にずれ込む事態となっています。日本の劇場版アニメーションも同様に、公開時期がとんでもなくずれてしまう場合があり、劇場版「名探偵コナン ベーカー街の亡霊」は日本で2002年公開ですが、中国では今年になって劇場公開されています
ただ、そうやって外国作品の公開を制限したところで、中国映画に素晴らしい作品が相次いで生まれたりはしないのであり、むしろ映画館には中国製の駄作映画が並ぶ結果になっています(日本貿易振興機構=ジェトロのホームページには、この規制によって中国では質の高い映画が次々と作られている、などと書いていますが嘘です)


中国メディアの今晩報にこのほど、もう「大作映画」を妄信しないとの文章が掲載された。
文章は最初に、中国のこどもの日(児童節)から始まった映画の上映スケジュールに触れ、日本アニメ映画で注目を集めているのはジブリ作品の「天空の城ラピュタ」と「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」と説明。「2023年の映画市場を見てみると、日本、インド、タイ、フランス、ドイツなど、ハリウッド以外の映画の成績が非常に良い状態が続いている。日本のアニメ映画『すずめの戸締まり』は興行収入8億元(約156億5100万円)を超え、映画版『THE FIRST SLAM DUNK(スラムダンク)』も6億4800万元(約126億7900万円)を記録している。これらの映画は、今までの『大作』とは異なり、キャスティングがオールスターでもなければ、壮大なビジュアル効果もなく、同時上映の新鮮さもない。ではなぜ、観客や市場から周知されることになったのか。答えは『感情に寄り添った表現』だ」と述べた。
続けて、「映画が興行的に成功するということは、観客に受け入れられたということだ。映画市場は『復活』し、観客の活気の『復活』が期待される2023年には、観客の感情に寄り添った表現ほど認められやすくなる」とし、「新海誠監督による『災害三部作』の最終章とされる『すずめの戸締まり』は、作中で日本の風景と文化を展開し、人と自然、伝統と現代、生と死などのテーマも含まれている。ハリウッド作品の中でも災害映画はかつて何度もヒットした。世界の終わりのようなビジュアル効果、孤独な英雄が人類を救う物語はよくあるパターンだ。しかし、新海監督の『災害三部作』は全く違う。『君の名は。』では災害そのものを変えようとし、『天気の子』では災害を受け入れることを選んだ。『すずめの戸締まり』は震災のトラウマと向き合い、人々をがれきから出るよう励ました。この三部作は『命を救う』から『心を救う』までの作品ともいえる」と評した。
また、「人々にとって思い出深い映画『天空の城ラピュタ』が1986年に公開されてから37年、『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』は2002年に公開されてから21年、『マダム・イン・ニューヨーク』は2012年に誕生し、封切りからすでに11年以上が経過している」と説明。「新作映画や大作映画が映画市場の主流となっている昨今、海外映画の再上映はしばしば成功し、封切りの時よりも高い興行収入と評判を得ることができる秘訣は、決して観客に『気持ち(思い入れ)でお金を払わせる』ことだけではない。年月の経過と共に、多くの観客が人生経験を重ね、考えを深め、かつて自分が愛した作品を見た時、『実はこの作品は大人向けに作られたものだ』と気付く。振り返ってみれば、これらの映画は制作当初から、各世代の観客のニーズに配慮していた。十数年、数十年がたち、大人になった観客が、映画が再上映された際に感じることは往々にして当時と異なり、これこそ観客が『古き良き映画』にお金を払いたくなる決め手となっている」と述べた。
(レコードチャイナの記事から引用)


アニメーションに関する批評では珍妙な論説が目につく中国メディアですが、今回は「感情に寄り添った表現」が観客から歓迎される要因だと真っ当な指摘をしています。実はこの部分を紹介したくて、上記の記事をブログで取り上げたわけです
中国が外国映画の公開を制限しているのは、先述したように国内の映画・アニメ産業保護のためと、外国からの思想汚染を防ぐ狙いもあります
中国共産党が指導する科学的社会主義こそ、世界でもっとも素晴らしい政治だと言い張っているのですから、欧米の文化がそのまま入ってくる映画は危険だと中国共産党は考えているのでしょう。北朝鮮でもあるまいし、そんな思想的鎖国がいつまでも通用するはずはないのですが(海外旅行をする中国人も増えました)
それこそ、国民感情をも政府と共産党の意図のまま操ろうとし、面白くもない政治的プロパガンダ映画を押し付けてきたのですから、中国の国民も飽き飽きしているのでしょう
さて、人口も多く、映画館の数も多い中国ですから新海誠監督の「すずめの戸締まり」の興行成績が、日本より中国の方が多いという現象が起こるのも当然です
もちろん、中国の観客の支持があってこそで、日本のビッグネームだからといって必ずしも中国で歓迎されるとは限りません。庵野秀明監督の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」も中国で公開され、一部の熱狂的なファンに歓迎されたものの大ヒットと言えるほどの結果は残していません
余談ながら上記の記事の中にある「マダム・イン・ニューヨーク」はインド映画です。中国の観客がインド映画を喜んで観ているというのはなかなかシュールな感じがします。政治的にインドと中国は何かと対立する関係なので
ただ、調べてみると過去にも中国でインド映画が大ヒットという現象は何度もあり、どこの国の作品であろうとも良質なエンターティメントを歓迎する風潮が、中国の観客の中にあるのは確かなようです。2017年には新海誠監督の「君の名は。」が中国でも大ヒットしたのですが、その2倍の興行収入を挙げたインド映画がありました(実在するインドのプロレスラー姉妹を描いた作品だそうです)
逆にマーゴット・ロビー演じる悪女ハーレクインが大暴れする作品など、中国政府の基準からすれば不道徳な映画であり、中国で公開するのは不可能なのかもしれません。面白いのに

映画『マダム・イン・ニューヨーク』予告編

映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 」予告

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