小田急・京王電車内刺傷事件　公判迫る

事件を考える
２０２１年の８月、走行中の小田急線車内で女性乗客を切りつけ負傷させた対馬悠介被告（３６）と、２０２１年１０月に走行中の京王線車内で男性乗客を切りつけ負傷させた服部恭太被告（２６）の裁判がまもなく始まります
「若者が希望を持てない社会の犠牲者」といったニュアンスで、まるで受難者であるかのように２人を取り上げるメディアもあります
ただ、犯罪に走ることもなく額に汗して働いている若者の方が大勢いるのが事実であり、この２人を「現代社会の犠牲者」に祀り上げて何の意味があるのか、と思ってしまいます
産経新聞がこの２つの事件について、裁判前に「絶望と疎外感」を強調する記事を書いていますので、取り上げます


令和３年、走行中の電車内で相次いだ２つの刺傷事件で殺人未遂罪などに問われた２人の男の裁判員裁判が今月、東京地裁などで始まる。乗客を襲い、車両に油をまくなど、ともに「無差別大量殺人」を計画したとされる２人。逮捕後の供述からは、人生への絶望や疎外感から社会に憎悪を募らせるという「共通の構図」も浮かび上がった。法廷で何を語るのか。
「ジョーカー」憧れ
「仕事や友人関係がうまくいかず、死にたかった。大量殺人をして死刑になりたかった」。犯行後、警察の取り調べにこう供述していたとされる服部恭太被告（２６）の初公判は２６日、東京地裁立川支部で開かれる。７月中にも判決が言い渡される見通しだ。
事件は、衆院選の投開票日でハロウィン当日だった３年１０月３１日夜、新宿方面へ向かう京王線特急の車内で発生した。起訴状などによると、乗客の男性の胸を刃物で刺して重傷を負わせた後、多数の乗客をめがけてライターオイルをまき、火を放って車両の床などを燃やしたとしている。
炎が上がり、煙が立ち込める車内を乗客が悲鳴を上げながら逃げ惑う様子は交流サイト（ＳＮＳ）に投稿され、衝撃が広がった。服部被告が事件当時、米人気コミック「バットマン」の悪役「ジョーカー」に仮装していたことも、異様さを際立たせた。
社会に恨みを持ち、大量殺人を企てる－。そんなキャラクターに、服部被告は「憧れていた」と、自身を重ねるような供述をしていた。
女性に一方的な恨み
そんな服部被告が「参考にした」などと説明していたのが、同年８月６日に小田急線の車内で起きた、無差別刺傷事件だった。
「誰でもよかった。人をたくさん殺したかった」
走行中の快速急行の車内で女性を数回刺し、ほかの乗客２人にも次々と刃物で切りつけたとして起訴された対馬悠介被告（３７）は事件後、こう語った。初公判は今月２７日に東京地裁で開かれる。
対馬被告は事件前、都内の食料品店で万引をしようとして女性店員にとがめられ、店員に復讐しようと自宅から包丁などを持参。だが店の営業終了時刻が迫っていたため、列車内の乗客に矛先を変えたとされる。
場当たり的な側面があった一方、犯行場所に電車を選んだ理由について「逃げ場がなく大量に人を殺せると思った」と供述、実際に持参したサラダ油を車内でまいて火をつけようとするなど、計画性ものぞく。
「人生がうまくいかない。勝ち組の女や幸せそうなカップルを見ると殺したくなるようになった」。対馬被告は、特に女性に対する一方的な恨みを口にしていたという。
孤立防ぐ仕組みを
何の罪もない乗客らに無差別に刃を向け、残忍に傷つけた両被告。東京未来大の出口保行教授（犯罪心理学）は「いずれの犯行も、『自分が社会の中で必要とされていない』という被告らの強い疎外感と、その責任を他者に転嫁しようとする被害者意識が背景にあるとみられる」と分析する。
両被告に共通する状況として、「社会的な孤立」も挙げられる。
服部被告は事件前、勤めていたコールセンターを退職して地元の福岡を離れ、借金を繰り返しながら各地を転々としていた。対馬被告も、事件の数カ月前に仕事を辞めた後、生活保護を受給しながら１人で暮らし、近隣住民らとの接点も乏しかったという。
加えて、当時は新型コロナウイルス禍の只中。出口氏は「孤立しやすい人が社会と途絶し、さらに孤立を深める可能性がある状況だった。家族や友人、仕事など社会とのつながりが途絶え、『失うものは何もない』という状態で犯行に及んだのではないか」と推測する。
法廷では、それぞれの被告の口から直接、事件に至るまでの経緯や心情が語られることが想定される。
出口氏は「２つの刺傷事件の後も、社会で孤立した人が自暴自棄となり、周囲を巻き込む『拡大自殺』や、単独でテロ行為に及ぶ『ローンオフェンダー』による事件は後を絶たない」と指摘。同種の事件を生み出さないために「刑罰による抑止力だけでなく、社会全体として孤立を防ぐための監視や仕組みづくりを進めていくことも必要だ」と話した。
（産経新聞の記事から引用）


記事では文末にさらりと「刑罰による抑止力だけでなく、社会全体として孤立を防ぐための監視や仕組みづくりを進めていくこと」の必要性を大学教授の提言の形を借りて述べています。「若者を監視する仕組み」が必要なのか、と疑問に思います。働かない若者を告発し、監視し、強制的に働かせる仕組みなどあったらたまったものではありません。社会を刑務所化すれば問題が解決するとでも？
若者が何かに挫折し、半年やそこら就労できない状態に陥ってもそれは罪悪ではないでしょう。むしろそこから再就職しようとしても、低賃金の非正規職にしか就けないような「派遣労働者しか受け入れない、非正規雇用しか受け入れない」企業社会にしてしまったことが問題です
なので、上記の２件の犯罪は刑事政策上の失敗などではなく、雇用政策の問題と考えた方がよいのでは？
小泉政権下で約５年経済担当大臣を務めた竹中平蔵は終身雇用制度の弊害を指摘し、労働市場の流動化すること（非正規雇用を増やすこと）こそが、日本経済を再生するために必要だと主張しました。そして派遣労働者が制限されていた工場などにも、派遣労働者が入れるよう規制緩和を行い、その功績を買われて人材派遣大手のパソナの取締役会長に就任しています
最高益を更新する大企業が相次ぐほど好況なのに、労働者の賃金は据え置かれたままというのも、各企業が非正規雇用を大幅に増やして、正社員の数を押さえてきたからです
日本を非正規労働者の国にしてしまった結果、正規雇用に就けない若者が増えたのです。飲食店のアルバイトのように、短時間での労働を求める職場はありますし、そこで働きたい若者や主婦の方がいるのも事実です。が、工場やオフィス、その他の職場で低賃金の使い捨て労働者に依存しようという経営のあり方は大間違いでしょう
事件の本筋とは関係のない話を長々と書きました
対馬被告は女性をナンパすることに異常なまで執着しており、そもそも就労する気があったのかさえ疑問です。彼の享楽的な生き方こそ問題にするべきであり、「社会的な孤立」も自ら招いた結果だと思います

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