北朝鮮が自称「軍事偵察衛星」打ち上げへ
北朝鮮が軍事偵察衛星を打ち上げると公表しています。北朝鮮から南方向、つまり沖縄上空を飛んで衛星軌道に載せる計画なのだとか
いまさら軍事偵察衛星を1基打ち上げたところで、北朝鮮の軍事力が格段に向上したりはしません。あくまでデモンストレーションで、何かをアピールしたつもりになるためだと推測されます
地球を南北の縦方向に周回する軌道を飛ぶとしても、北朝鮮に合成開口レーダーを搭載するだけの技術力はないので、光学カメラだけ積んでいるのでしょう。それでは雲に覆われた地上の様子を撮影できず、夜間も撮影できません。昼間の雲のない状況でのみ、使える軍事偵察衛星です
日本は情報収集衛星として光学カメラを積んだ衛星と、夜間でも雨天でも地上の様子をとらえられる合成開口レーダー積んだ衛星の2種類を運用中です
北朝鮮による軍事偵察衛星の打ち上げが迫っている。日本政府は29日、北朝鮮から「衛星」を発射するとの通報があったと発表した。海上保安庁によると、期間は5月31日午前0時~6月11日午前0時だという。
これを受け、メディアはもっぱら「実質的な弾道ミサイル」だと報じている。確かに、技術的な面から言えばそのとおりだ。だが、金正恩総書記の妹・金与正朝鮮労働党副部長は昨年12月20日発表の談話で、次のように言っている。
「われわれは、大陸間弾道ミサイルを開発するなら、大陸間弾道ミサイルを打ち上げるのであって、(中略)衛星に偽装して長距離ロケット実験を行わない」
つまり、すでにさんざん長距離ミサイルの実験を公開しているのだから、今さら衛星発射に見せかける必要はないということだ。これもまた、そのとおりだ。
実際のところ、北朝鮮にとって、弾道ミサイルとは別に軍事偵察衛星の開発と打ち上げを成功させることの意義は大きい。北朝鮮は核兵器の戦力化を進めているが、それで撃つべき「ターゲット」の状態を把握するための「眼」を持っていない。
北朝鮮は過去、韓国の軍事施設を偵察するために、たいへんな危険を冒して工作員を潜入させていた。1996年に韓国東海岸で発生した江陵浸透事件が代表的な例だ。北朝鮮の潜水艦が韓国に潜入した工作員を回収するため、海岸に接近して座礁したこの事件では、工作員・乗組員 26人のうち、24人が韓国軍・警察との戦闘と集団自決により死亡した。(残る2人のうち1人は逮捕、1人は行方不明)
こうまでしても、工作員が収集できる情報などきわめて範囲が限られていたわけだ。北朝鮮がこうした活動をすでに行っていないとは断言できないが、やろうにも、韓国側の監視能力の向上でかつてと比べ格段に難しくなっている。
北朝鮮の衛星写真は解像度が低いなどと指摘されているが、多少の技術的な進展があれば、米韓軍の集結状況などは概ね把握できるようになる可能性がある。少なくとも、まったく見えないよりはマシだろう。
そして、北朝鮮がそれなりの性能の偵察衛星を持てば、核ミサイルで「どこを、どう撃つか」という計画がより具体化することになる。
北朝鮮による偵察衛星の打ち上げは、その技術が弾道ミサイルと基本的に同じだからというだけではなく、偵察衛星の打ち上げそのものが十分に問題なのだ。
(デイリーNKジャパンの記事から引用)
こうした報道があると「軍事偵察衛星など打ち上げず、衛星写真を提供するサービス『Google Earth』を使えばいいじゃん」との声が挙がります。現在、『Google Earth』ではランドサット8号の撮影データを提供しており、これは地上30メートルの物を識別できる精度です。スパイ衛星として有名なアメリカの『KeyHole』は、あのハッブル宇宙望遠鏡と同等の機体を地球に向けて情報収集に使用しており、地上1メートルのもを識別できるとか、走っている車のナンバープレートが読み取れるなど噂されています。が、詳細は機密なのでよく分かりません
話を戻して、『Google Earth』が北朝鮮政府に情報サービスを提供するとは考えられませんので(アメリカ政府が許さない)、北朝鮮は自前の偵察衛星を必要とするわけです。が、せっかくの偵察衛星も故障してしまえばそれまでです
なので、通常は偵察衛星を2基、3基と打ち上げて運用しますし、南半球にも衛星からデータを受信できる基地局を設置します。北朝鮮にはそれができないのでしょう。あるいは日本のように静止軌道上にデータ中継衛星を配置し、情報収集衛星のデータを中継衛星経由で日本国内の基地局が受信するという仕組みを使います
北朝鮮はデータ中継衛星を用意できないのでしょうから、せっかく偵察衛星が収集した画像データも、北朝鮮内の基地局と通信可能な範囲でしか受信できないのです。これではリアルタイムで米軍や韓国軍の動きを把握するのは無理です(どうしてもタイムラグが生じてしまいます。しかも、夜間は撮影できないのですから、米軍が夜間に北朝鮮への奇襲を計画すれば、偵察衛星は役に立ちません)
打ち上げに成功すれば北朝鮮は大々的に宣伝するのでしょうが、実際にはあまり役に立たない偵察衛星です
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