「ゲーム脳」はウソ 脳科学でトンデモ学説

ジャーナリスト草薙厚子が2001年、「少年非行とゲームの関係」を月刊誌「文藝春秋」に寄稿し、「ゲーム脳」の問題を提起しました。テレビゲームばかりしていると前頭葉に異常をきたし、感情統制ができなくなって、粗暴な行動に出たり犯罪に走る…というトンデモ理論です
草薙は「少年院に収容されているこどもたちは長時間、ゲームに興じていた経験がある」と指摘し、もっともらしい理屈付けをしているのですが、こじつけです。草薙の主張は日本大学文理学部体育学科教授で脳科学者である森昭雄の研究を根拠にしています。森教授は2002年に「ゲーム脳の恐怖」(NHK出版)を出してベストセラーになり、全国各地で講演も行っています
このトンデモ理論に飛びついたのが親御さんたち(こどもが長時間テレビゲームをしているのに苛立ちを感じているお父さん、お母さん)で、あっという間に「ゲーム脳」が定説のように流布されました。こどもたちからゲーム機を取り上げる口実になったからでしょう
その後、「ゲーム脳」説への批判もあり、いつの間にか取り上げられなくなりましたが、改めて否定しておこうと思います


脳トレは根拠なし、ゲーム脳はウソ、糖分で情緒不安は間違い…京大名誉教授が「脳の迷信」に警鐘を鳴らすワケ
(前略)
■社会問題にもなった「ゲーム脳」は科学的ではない
何か社会的な問題が起きたとき、いわゆる有識者や専門家と呼ばれる人たちがマスコミに登場し、その原因や解決方法を解説することがある。たとえば、2000年前後に、小・中学校での校内暴力が大きな問題となったことがある(校内暴力は教師による暴力も含め現在も続いている)。
当時、脳科学者も新聞やテレビなどのマスメディアに登場し、原因や対処法について解説することがあった。それらのうちで最も頻繁に登場し、また全国的に広まったものが、コンピュータゲームに夢中になっている子どもたちの脳に原因があるという解説であった。いわゆる「ゲーム脳」である。
記憶している人も多いかもしれないが、簡単にいえば、コンピュータゲームを毎日何時間もやっていると前頭葉の機能が低下し、それは認知症と同じであり、注意力が散漫になり衝動性も増すため、暴力的にもなるという理論である。
しかし、その根拠となったデータは、脳科学の主要な雑誌には掲載されておらず、ゲームをすることで起こる脳波の変化が認知症と同じであるという事実も確認されていない。そもそも認知症が一般的に、衝動性と暴力を増すかどうかも定かではない。ゲーム脳の理論はすべてが不正確であり、当時から他の研究者や精神科医などから多くの批判の声が上がっていた。
■学校関係者に歓迎されたが根拠はなかった
とはいえ、どのような問題であれ、一般の人は常にわかりやすい原因を求めている。校内暴力のようなやっかいな問題に対し、ゲームが原因であると独断的にいい切ったことで、この脳科学を装った理論はたちどころに全国に広がり、特に学校関係者や保護者の間では歓迎された。教育委員会主催の講演会まで開催されたほどである。
さらにゲーム脳は、マスメディアが盛んに取り上げたこともあり、校内暴力以外のさまざまな問題にも広がりを見せ、凶悪事件が起こると、犯人はゲーム脳だった可能性があると報じられたこともあった。
死者107名を出した2005年のJR福知山線脱線事故でさえ、運転手はゲーム脳だったという新聞の見出しを見た記憶がある。もちろん、現在、この理論は完全に否定されており、ゲームが前頭葉の機能を低下させるということも、またそれによって暴力的になるということもない。
■犯罪の問題と栄養不足は関係がない
暴力や犯罪などの問題を、特定の栄養素の不足と関係づけようとする解説も多い。
シナプスを介したニューロン間の信号伝達では、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、グルタミン酸、γアミノ酪酸、ドーパミンなど、非常に多くの物質が働いている。それらの中から、食品の栄養素として聞き覚えのある物質を取り上げ、それを食事でしっかりとっていないから脳がおかしくなっているという解説は珍しくない。
たとえば、よく取り上げられる栄養素がカルシウムである。今から15年ほど前にテレビ番組で紹介された医師の解説によると、脳の信号伝達にはカルシウムが必要であるが、現代の子どもたちはそれが不足しているためイライラしているという。
この前半部分は、正確にはシナプスでの信号伝達に必要な物質はカルシウムではなくカルシウムイオンであるが、大きくまちがってはいない。しかし後半部分は意味不明である。たしかにシナプスでカルシウムイオンが不足すると信号伝達は難しくなるが、それがイライラにつながるかどうかはまったく不明である。
(後略)


森教授は脳の働き=脳波を計測して痴呆症の症状を定量化(数値化)しようと研究し、自作の脳波測定機器を開発し、そこで得られた脳波のデータをもとに「ゲーム脳」という学説を提唱したのですが、さまざまな研究者から異論が吹き出し現在では「ゲーム脳などという症状は存在しない」と否定されています
ただ、こうした一部のデータを拡大解釈して強引な主張を展開する(ゲームをやりすぎると「後天的な自閉症になる」などとトンデモ理屈)のは迷惑な話です。自閉症は先天的な脳機能障害であり、後天的な自閉症というものは存在しません
様々な批判を浴びながらも、森教授は「ゲーム脳」説が誤りであったとは認めていないようです
ただ、2020年になって香川県はネット・ゲーム依存症対策条例が制定されています。これは香川県議会議長が「ゲーム脳」説を踏まえて制定を主導したものであり、まだ「ゲーム脳」⇒「インターネット依存」の考えを保持している人が少なくないと示す事例です

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