「クールジャパン戦略は大失敗」なのか?

山田稔という人物を全く知らないのですが、「日刊ゲンダイ」の編集に携わった後、独立してライターをしている方だそうです。その山田氏が「クールジャパン戦略は大失敗。それに比べて韓国コンテンツは大成功」という趣旨の文を書いているので、取り上げます
その韓国コンテンツ産業は大成功の証というのが、「訪米した韓国の尹錫悦大統領がネットフリックスのサランドス共同CEOと面会し、ネットフリックスが今後4年間で、韓国発のドラマや映画などのKコンテンツに25億ドル(約3350億円)もの巨額投資をする方針を表明した」からだとか
メディアの編集部にいた山田氏ですが、どうも意味を履き違えている節があります
これは「Netflixが今後制作される韓国の映画やドラマに25億ドル投資する」と言っているだけで、既に金を払ったわけではありません。韓国のコンテンツがNetflixで高い視聴率を稼いでいるうちは次々と新たな作品に投資されますが、視聴率が落ちれば投資は容赦なく打ち切られます。たとえCEOが尹大統領と交わした約束でも、経営上の判断として韓国コンテンツが収益に見合わないのであれば打ち切るのは当然です
黙って座っていれば25億ドルが転がり込んでくる話ではないのです


■ネットフリックスがKコンテンツに25億ドルの巨額投資
今年4月、世界のコンテンツ業界にとって衝撃的なニュースが流れた。訪米した韓国の尹錫悦大統領がネットフリックスのサランドス共同CEOと面会し、ネットフリックスが今後4年間で、韓国発のドラマや映画などの「Kコンテンツ」に25億ドル(約3350億円)もの巨額投資をする方針を表明したのだ。
尹大統領は「韓国のコンテンツ事業や創作者、ネットフリックスに大きな機会となる」「破格の投資決定を心から歓迎する」と述べた。大統領ビジネス大成功である。
韓国政府は金大中政権以来、グローバル展開を目指してコンテンツ産業の支援を強化してきた。今年1月にはKコンテンツ支援に7900億ウォン(約832億円)を投入することを発表し、コンテンツ輸出額を2023年は150億ドル、2027年は220億ドル(約3兆円)まで増やす考えだという。
そんなKコンテンツの好調が止まらない。ネットフリックスでは『イカゲーム』や『ザ・グローリー』が世界的に大ヒットした。
今年3月にパート2が公開されたソン・ヘギョ主演の復讐ドラマ『ザ・グローリー』は、公開3日目にして世界ランキング首位になった。韓国をはじめ日本、香港、台湾などアジアはもちろん、メキシコ、ブラジル、モロッコ、カタールなど38カ国で1位になった。日本では5月初旬まで12週間TOP10入りしていた。ちなみに最新テレビ番組部門(5月10日)ではTOP10のうち4作が韓国ドラマとなっている。
映画では『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)が2019年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを、2020年にはアカデミー賞作品賞を受賞し、世界中で絶賛されたのは記憶に新しい。
(以下、略)


あまりに情報が古すぎて何とも哀れな気さえします。「パラサイト」がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したのは事実ですが、興行結果は芳しいものではありませんでした。韓国ではテレビドラマ化も検討されましたが、見送られています(韓国国内で半地下の貧乏生活を描いたドラマが高視聴率を稼げるはずもなく、また海外へドラマを売ろうとしても映画の興行収入が振るわなかったため躊躇したのでしょう)
そして肝心のNetflix自体が契約者数の減少が止まらず、これまでのように制作費を大盤振る舞いできる経営状態ではなくなっていると報じられています
上記の引用部分を読んで分かるように、韓国政府はコンテンツ支援に832億円を投入すると表明しており、もしそうであるなら韓国コンテンツの売上から公的資金の832億円を引いて考えなければなりません。単純な売上だけを比較できないのです。ちなみに令和5年度のクールジャパン事業関連予算は222億円です
そもそも音楽にしてもアニメにしても、日本の国内市場は韓国よりも大きいのであり、国内消費で業界が回っている実態を無視できません。もちろん、輸出で稼ぐことも十分に価値はあるのですが
日本のアニメ産業の売り上げは2兆5000億円の規模であり、韓国のK-POPのCD輸出額は約300億円です。現在公開中に劇場版アニメーション「スーパーマリオブラザーズ」は北米での興行収入が1000億円を超えています。いかに日本のアニメ産業が巨大であるか分かるでしょう。
さて、それでも山田氏は記事の末文でクールジャパン戦略が必ずしも成功したとは言えないのに、アニメーションなどコンテンツは海外への輸出を伸ばしている点を評価しています。まあ官製の振興策などに依存せず、個々の企業が頑張っている証拠でしょう
情報が古いな、と感じる山田氏の記事とは別に、最新の韓国メディアの記事を紹介しておきます。こちらは韓国のコンテンツ産業が不審に喘いでいるとの内容です


絶好調だったKコンテンツ産業が揺らいでいる。韓国映画は2004年に集計を開始して以来観客シェアが最低値(19.8%-2月基準)を記録した。制作会社だけでなく、劇場、そして映画振興委員会など官民がコロナパンデミック後の消費市場の急変に迅速に対応できず韓国映画は未曾有の危機を迎えた。
(中略)
高速疾走していたK-POPに非常灯が点灯した。K-POP韓流の流れを作ったSMエンターテインメントはカカオに買収され、飛躍と転落の分かれ道に立ち、メンバーの入隊でグループ活動が停止した。
防弾少年団(BTS)の空白も深刻だ。わずか2、3年前、平均70%の成長率を見せたK-POPレコードの輸出額は昨年4%台で成長が急激に鈍化した。バン・シヒョク・ハイブ会長が最近、「誇らしい成果に満足するのではなく危機感を持つべき時」と警告した理由だ。
Kコンテンツに対する海外市場の雰囲気も冷ややかだ。米国の一部では、Kコンテンツに熱狂する人を卑下するいわゆるコリアブ(Koreaboo-Koreaと2000年代の日本文化に執着する西洋人を嘲笑する「Weeaboo(ウィアブ)」の合成語)現象が起きている。一部の東南アジアやアフリカでは「反韓流」の風も吹いている。映画「寄生虫」とドラマ「イカゲーム」、そして防弾少年団とブラックピンクの成功で世界で集中的な注目を浴びたが、Kコンテンツの文化多様性の毀損と帝王的な1人権力の影などが次々と明らかになり、その余波が深刻だ。まさに内外の危機だ
※Wapaneseは日本文化に深刻な西洋人、特に白人を指す西洋の新造語である2000年代初めに西洋で登場した用語であり、すでに多く忘れられて現在は「Weeaboo(ウィアブ)」とその略語「Weeb」に置き換えられてよく使われる
Kコンテンツ産業は制作費は急増したものの、国内外の消費需要や広告市場などが拡大しないという構造的な問題に直面している。コストパフォーマンスが強みであるKコンテンツ産業が変曲点に立った韓国の2大OTTであるティービングとウェーブは昨年1,000億ウォン台の赤字を出し、「出血競争」を繰り広げている。
(韓国DAUM.NETの記事から引用)


先に書いたように韓国は国内市場が小さいため、ポップ・ミュージックでも海外へ輸出しなければ稼ぎになりません。そのため、似たりよったりの男性グループ、女性グループが濫造されています。彼ら、彼女らがBTS並みの売上を達成できればよいのでしょうが、現実は違います
K-POPのCD輸出額が1兆円規模なら「すごいね」と言えますが、まだそこには到達していません
余談ながら、外国からの旅行客が日本でアニメの聖地巡りをしていたりするのも、クールジャパンの成果に数えた方がよいと思います

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