大和市男児殺害 児童相談所「予見は困難」
神奈川県大和市で小学1年の次男を殺害したとして殺人の疑いで母親の上田綾乃被告が逮捕・起訴され、その後三男の殺害容疑でも再逮捕されています。上田被告は4人のこどもがいていずれも死亡しており、殺害した可能性が高いと思われます
しかし、病死として処理されすでに火葬されてしまっているため、立件は困難です。上田被告が4人のこどもの殺害について自供すれば別ですが、4人殺害では死刑を求刑されるため、警察の追及に対しても頑として否認したものと思われます。従って刑罰に問われるのは次男と三男殺害の2件です
さて、神奈川県は児童相談所の対応が適切であったかどうか、例によって有識者による検証委員会を発足させて検討させていました。結論として「上田綾乃被告によるこどもの殺害を予見するのは困難だった」との報告をまとめています
大和市の自宅で当時7歳と1歳だった兄弟が窒息死し、母親(43)が殺人罪で起訴された事件で、母子の支援に関与していた県の児童相談所の対応などを検証した有識者による調査検証委員会(委員長・川松亮明星大教授)が27日、報告書を公表した。
母親の養育に関し「日常的な問題点が見いだしがたく、突発的な重大事態の予見は極めて難しかった」とする一方、関係機関との情報共有などで課題を指摘。迅速な情報収集や多角的なリスク評価の必要性を提言した。
事件を巡り、県警は2022年2月、7歳だった次男を19年8月に窒息させて殺害したとして母親を殺人容疑で逮捕。22年7月には、1歳だった三男を17年4月に窒息させて殺害したとして同容疑で再逮捕した。母親はその後、2件の殺人罪で起訴された。公判は始まっていない。
(神奈川新聞の記事から引用)
先に自動車に幼いこどもを置き去りにしたまま愛人と逢瀬を重ねていた母親の事件では、児童相談所がこどもを放置するネグレクトの可能性について警察から連絡を受けていたにも関わらず、家庭訪問もしなかったと判明しています
こどものネグレクトはそれぞれの家庭の中で起きているのですから、児童相談所の職員は積極的に各家庭を周り、親やこどもとコンタクトを取り信頼関係を作る必要があります。人が足りなくて手が回らないのであれば人員を増やすよう、黒岩県知事に要請しなければなりません
「忙しいから」と弁解しているだけては、この先多くのこどもたちが命を失う結果になります
上田被告の悲惨にして苛烈な生い立ちには同情を禁じえないのですが、それでも彼女がこどもの命を奪ったのは大間違いであり、厳しく罰せられる必要があります。代理ミュンヒハウゼン症候群の症状を呈していたとしても、それだけで罪に問わない理由にはなりません
また、児童相談所も「予見は困難だった」という報告を免罪符にしてはならないのであり、1人でも多くのこどもの命を守るのだという使命感を再確認してほしいところです
過去には代理ミュンヒハウゼン症候群との精神鑑定結果を出た母親に、傷害致死罪で懲役10年の実刑判決(求刑は懲役15年)が下されたケースがあります
点滴に水道水を混ぜて娘を殺害した母親 代理ミュンヒハウゼン症候群
この事件の精神鑑定では100ページにもなる詳細な鑑定結果が裁判所に提出されたのですが、裁判官は代理ミュンヒハウゼン症候群への理解が不足していたのか証拠採用しませんでした。おそらく起訴前に簡易精神鑑定の結果のみを証拠採用し、刑事責任能力に問題無しと判断して懲役10年の判決を下したのでしょう。弁護側は上記の100ページの鑑定書を証拠として採用させ、それを根拠に減刑を狙ったのですが、実現しませんでした
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