「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」
今年の2月、「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」の一節を文春オンラインで読み、当ブログで取り上げました。その後、電子書籍で購入し、現在読んでいるところです。18人の論者が朝日新聞の紙上でそれぞれ、『風の谷のナウシカ』について思うところを語った連載を再編集して1冊に仕立てた本です
登場するのは民俗学者・赤坂憲雄/俳優・杏/社会哲学者・稲葉振一郎/現代史家・大木毅/社会学者・大澤真幸/漫画家・大童澄瞳/映像研究家・叶精二/作家・川上弘美/軍事アナリスト・小泉悠/英文学者・河野真太郎/ロシア文学者・佐藤雄亮/漫画研究者・杉本バウエンス・ジェシカ/文筆家・鈴木涼美/スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫/漫画家・竹宮惠子/生物学者・長沼毅/生物学者・福岡伸一/評論家・宮崎哲弥といった方々です
それぞれの語る内容については後日、個別に取り上げるかもしれませんが、まずは大雑把に雑感として書きます
冒頭、スタジオジブリプロデューサーの鈴木敏夫が登場し、宮崎駿とともに赤坂憲雄の「ナウシカ考」(岩波書店)を読んだと語ります。宮崎駿は『風の谷のナウシカ』を連載中、赤坂憲雄がその著作に書いたような「深い思索はなかった(そんなこと考えずに描いていた)」と鈴木敏夫と語り合ったのだとか
まあ、これは「評論あるある」の展開で、評論というのはぶっちゃけどれだけ作品を深読みしたかを自慢するために書いているのであり、原作者より数段深く掘り下げ「宮崎駿はかくかくしかじかの如く考えたに違いない」とやるものです
それを読んだ別の評論家は負けじと、さらに深読みして「いや、宮崎はナウシカを◯▲✗▢として描きたかったのだ」とやるわけです
学術論文にしても同様で、深読みの技を競うが如く、です
ただ、やはり深読みをしてその思索を形にし、言語化するのには訓練が必要ですから学生らが卒論に取り上げて書くのも、それはそれで有効な経験になるはずです。なかなか、己の考えをまとめて文章化するという経験の場はありません。LINEなら3行で済ませる(それでも長いと言われるほど)習慣が身についてしまっているわけで
さて、話を戻して「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」は「宮﨑駿監督が足かけ13年の歳月をかけて完成された漫画版『風の谷のナウシカ』は、映画版とはまったく異なる深みと広がりを持ち、読み手にさまざまな「謎」を投げかけてくる。中でも「なぜ、ナウシカは人類の滅亡も辞さず、地球環境の再生を目指していた『生ける人工知能=シュワの墓所』を拒絶したのか」という疑問は、多くの読者の心を捉えて離さない。時代の先端で活躍する論者たちがこの謎に挑みつつ、コロナウイルス、ウクライナ侵攻、AI問題、気候変動など、混迷する現代社会を切り開く鍵を「ナウシカ」の中に見いだそうと試みる」と、大上段に振りかぶり混迷した現代をぶった斬ろうという試みです
いまどきの若者ならその「朝日新聞的な必死さ」を冷ややかに笑うところでしょうが、自分としてはこうしたジタバタの足掻きが嫌いではありません。「ナウシカ」如きで現代をぶった斬れるわけないと決めつけ、そこから先、何も考えようとしないシニカルな態度からは何も生まれないからです
また、WBCの栗山監督がメディアで大いに持ち上げられ、理想の上司であるかのように語られるわけですが、リーダーとしての資質を栗山監督やナウシカを引き合いに出して語るのも悪くない、と思います。ただ、議論の行く先として我々の身近にいる「理想に反する上司たちをどうするか」を考え、答えを導き出さなければ無駄に終わります。物語の中に理想の上司について、どれだけ熱く語ったとしてもそれは絵空事です。理想に反する上司を目の前にどうジタバタと足掻くかが問題なのですから
最後に、『風の谷のナウシカ』が誕生した背景としては、宮崎駿監督が先に手掛けた劇場版アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』がまったくヒットしなかったためです。『ルパン三世』がオリジナル過ぎて不評を買ったのを踏まえ、原作付きの劇場版アニメーションをやろうとの発想から、漫画版『風の谷のナウシカ』を着想したわけです
現在、『ルパン三世 カリオストロの城』は宮崎駿の初期の大傑作と評価されています。作品の公開時にこれほど高く評価されていたなら『ナウシカ』は誕生しなかったはずで、何とも不思議なめぐり合わせです
興味のある方は「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」を手に取って読んでいただきたいと思い、取り上げました
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